第30話 モジュール6

生まれてすぐの赤ちゃんが本能で泳ぐシーンを思い出した。


モジュール間を移動する際に、俺は素っ裸で宇宙に放り出されるらしい。

俺はロボットアームで、このモジュール6から引っ張り出される。

ロボットアームは繊細な作業をゆっくり出来るが今回は時間との勝負だ。

俺が窒息するか、アームが俺を向こうのモジュールに叩きこむか。

スピード勝負。

数分間で俺を引っ張り出してモジュール8へ入れるのだからシビアだ。

向こうのハッチを閉めて酸素で満たすのも時間がかかる。

やり直し不可。

こちらのモジュール6に穴を開けたら後戻りはできない。

一発勝負。

もし、俺をアームでつかむ際に服がすべってつかみ損ねたら時間切れ。

もし俺の着ている服がアームに引っかかったりしたら時間切れ。

そういうリスクを減らすため、服を着てはいけない。

ということで俺は全裸になっている。


長く世話になった、このモジュール6室内を見まわしてみた。

ガランとしているのは壁の食糧パックを食べつくしたからだ。

タタミと壁も、ほとんどほじくり返した。

俺の正面の壁はフスマ状のドッキングハッチがある。

現在このハッチが故障で開かないので俺は死にそうなわけ。

これからこのハッチの周りは削られて大穴が開く。

右の壁はトイレユニットがある。

左の壁には給水器と生活用品の物入れがある。

その壁の裏には水再生装置があるのだろう。

俺の後ろの壁は土壁だ。

土壁の裏には「はやふさ9号」人工知能が設置されている。

天井は照明だけ。

天井裏は通信アンテナなどがある。

床はタタミ。

床下は電気の蓄電池などがある。

結局このモジュール6には2年ほどの滞在か。


宇宙遊泳。


もし失敗したら、宇宙を永遠に、さまようことになる。


やっぱり、やめだ。

やめ、やめてくれ。

怖い。

食糧が無くなって、このままでは死ぬとしても。

宇宙に生身で出るのは危険すぎる。

方法がダメだろう。

こんなのはありえない。

地球から5年も離れた宇宙空間に全裸で引っ張り出されるなんて。

ありえない。

天才的な地上スタッフ達が寝ないで考え抜いた結果だとしても。

これしか方法が無いとしても。

どう考えても、宇宙で全裸は、おかしい。

こんなのは素人がネットに投稿するSF小説の世界だ。


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