第29話 空気

俺は、壁のトイレユニットを見た。

通常はフスマドアで閉じられているが、スライドさせるとトイレがある。


俺「6時間も真空状態とか、人間には無理だから。」

CPU「いえ、空気は吸えます。」

俺「どうやって?」

CPU「まず、ロボットアームのドリルでこのモジュール6に穴を開けます。」

俺「それが数時間かかるわけだろ?」

CPU「はい。このモジュール内が長時間、真空状態になります。」

俺「宇宙服も積んでない。」

CPU「はい、あなたにはトイレユニットに入ってもらいます。」


俺は、壁のトイレユニットを見た。

通常はフスマドアで閉じられているが、スライドさせるとトイレがある。

いつもはドアを開けっぱなしで使っている。

奥行きは浅いが人間はギリギリ入れるか。


CPU「そのトイレは気密性がありますが、酸素供給ラインはありません。」

俺「すると数時間で中の酸素が無くなるわけだな。」

CPU「はい、6時間で無くなる計算です。」

俺「つまりモジュールに穴が開いて真空でも6時間はトイレで耐えられる?」

CPU「はい、地球の実機シミュレーターでは、そうなります。」

俺「そして6時間後に完全に大穴がモジュール6の壁に開くと。」

CPU「はい、その後ロボットアームであなたの体を引っ張り出します。」

俺「ということは宇宙空間に俺の体が宇宙服なしで、さらされるわけだ。」

CPU「はい、放射線障害は薬剤の効果で軽減されます。」

俺「宇宙では絶対零度で体が一瞬でカチカチに凍るという事は?」

CPU「あれは嘘です。数分では凍りません。」

俺「じゃあ太陽光線が当たってが血液が数秒でグツグツ沸騰するというのは?」

CPU「それも嘘です。短時間ではそこまで温度上昇しません。」

俺「じゃあリスクは無いんだな?」

CPU「・・・。」

俺「おい!」


CPU「1971年にソユーズ11号が起こした事故があります。」

CPU「宇宙から帰還途中のソユーズ11号で3人の乗組員が死亡しました。」

CPU「原因はバルブの破損でソユーズカプセル内の空気が抜けたことです。」

CPU「3人の死亡原因は真空による窒息死です。」


俺「やっぱり真空で死んでるんじゃないか。」

CPU「この事故のポイントは、真空では凍結や沸騰より窒息が先なのです。」

CPU「窒息さえ防げば宇宙服無しで短時間の移動ができるのです。」

俺「分かった。この状況では他の手段を考えている時間は無いよな。」

CPU「ええ。息を止めている間にモジュール8へ、あなたを送ります。」

CPU「そして大急ぎでハッチを閉めてモジュール8の空気を充満させます。」


俺「こちらから何を持って行くべきかな?」

CPU「何も持って行ってはいけません。」

俺「一つぐらい、ノートPCぐらい、持って行っても良いだろ?」

CPU「ダメです。移動する時は全裸になって出てもらいます。」

俺「何?」

CPU「全裸です。」

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