第7話 イオンエンジン

夢の中で部屋がグッと傾くのを感じた。

軌道を修正したのかもしれない。

探査機「はやふさ9号」はイオンエンジンで進んでいる。

イオンエンジンはキセノンガスを電気でイオン化させ加速させる。

その加速したイオンを中和して放出することで探査機の推進力を得ている。

電力と少量のキセノンさえあれば宇宙空間を進むことが出来る。

立方体の探査機「はやふさ9号」の6面すべてに太陽電池パネルが付いている。

(10個のモジュールは全ておなじ構造である)

この太陽電池パネルで無限の電力を得られるので、電力不足はまず無い。

生命維持や通信なども、この電力を使う。

キセノンも往復分は余裕で積んであるので問題ない。

イオンエンジンの故障についてだが、これも対策されている。

まず、ひとつのモジュールあたりイオンエンジンが24基ついている。

だからエンジン2~3基の故障は全く問題ない。

さらに10個のモジュールが並行して飛ぶことによってお互いに助け合える。

故障したモジュールを健全なモジュールが接合して飛べるのだ。

モジュールの姿勢制御も、イオンエンジン24基で行う。

特に姿勢制御は微妙なエンジン出力の計算と調整が必要になる。

これは「はやふさ9号」の各モジュールに搭載されたCPUでしか出来ない。

軌道計算からエンジンの出力調整までCPUが自動で行う。

そのため乗っている人間は操縦を全くしない。

むしろヒューマンエラーを無くすため人間は操縦しない方が良い。


夜中に起きたついでにトイレを使った。

(夜中といっても昼夜の違いは室内照明の自動消灯によるのだが。)

真夜中に起きてしまった時などに、ふと思うことがある。

「俺は本当に宇宙を飛んでいるのだろうか?」

はやふさ9号には強度を上げるため窓が無い。

各モジュール全て同じ構造なのでモジュールを乗り換えても窓は無い。

ドッキング時も外は見られないので出発から帰還まで宇宙空間を見ないことになる。

俺は星を見ずに宇宙をひとり旅している。

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