第5話 適性試験

食事の最後に熱い湯をフーフー飲んだ。

俺は20歳の時にJASA(日本航空宇宙局)の宇宙飛行士適性試験に応募した。

宇宙飛行士になれば給料は良い。

適性試験に落ちてもその後の就職に有利とかなんとか。

だから俺のような若者が全国に10万人はいたと思う。

JASAは、その10万人をまず書類選考でしぼる。

学歴や職歴などは問われないが応募年齢は30歳まで。

高齢では長期にわたるミッションに耐えられない。

犯罪歴や病歴の有無などでしぼった後は、薬剤適性試験を受ける。

薬剤適性試験とは宇宙で活動する際に摂取する栄養剤などへの適性を調べる。

無重力や宇宙線による病気を防ぐ薬剤による副作用も判定する。

これは個人差が大きくて、同じ薬でも具合が悪くなる者もいる。

俺はそれらの薬剤適性試験に受かったというわけだ。

そんな若者が全国で100人ほど。

その100人が千葉県で閉鎖環境適応訓練に挑んだ。

100人が一人ずつ別々に閉鎖環境に閉じ込められる。

給料はもらえるが、四畳半ほどの部屋に2年間も密閉される。

100人の若者が2年間「独房」に閉じ込められるのだからゾッとしない。

最初の1か月で50人が根を上げる。

この段階まで来ると、辞めても就職にとても有利になるらしい。

だからその誘惑もあるのかもな。

6か月が過ぎると閉鎖環境への「才能」がモノを言う。

ある者は心を病んでドクターストップ。

ある者は出入り口のハッチを強引に開けようとして指を骨折した。

ある者はストレスによる過食で食糧が1年で尽きた。

結局、2年間耐えられたのは俺を含めた5人だけ。

2年が過ぎて試験が終わり独房のハッチが開けられた日。

5人は健康診断の後、外で2年ぶりの普通の食事をした。

閉鎖環境ではずっと白米と「ひよこのり」を食べていたから、みな味に飢えている。

だからみんな「にぎり寿司、天ぷら、アイスが食べたい」などと注文した。

このとき俺だけ、なぜか「白いご飯」と「ひよこのり」を注文して引かれた。

変化する事が怖かったんだと思う。

結局5人の中で一番適性があったのが俺なんだと。




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