3「I’m Nothing」

 走る。

 体とは分離してしまった足に、命令を送る。

 走れ。

 一度歩を止めてしまうと、もう膝が笑ってその場に倒れてしまいそうだった。もしかしたら、画面が移動しているだけで、走っていると錯覚しているだけかもしれない。

 なに?

 なに?

 気持ち悪い。

 あれは、なに?

 喉がカラカラで、酸素を欲しがっている。だけど、空気は薄い。どんどん、空気が抜けていって、今はもうどこにも酸素なんてない、真空になってしまった。

 あれは、だれ?

 知らない。

 私はあんな人知らない。

 変な目で、こっちを見た。

 冷たい目で、私を見た。

 間違いない、私を見た。

 気が付けば、体は動いていた。

 あの場にいれば、そのまま、あの人が何かを言い出そうな気がした。気のせい。わかってる。だれも気がついていない。気が付くはずがない。気が付くはずなんてない。

 でも、あれは確実に迫ってきている。

 確実に、私を追ってきている。

 だから、体が命令する。

 逃げろ。

 ゆっくりと、距離を詰めてきている。

 後ろは振り返れない。振り返れば、彼と目があってしまう。目があれば、そこにあるのは……

 ばれた?

 一瞬の不安。

 そしてそれを必死に否定する。

 まさか。

 あれは、誰にも見えない。

 私にも、見えない。

 魔法の、方法。

 あの声は、きっと、天使の声。

 そして、その声は、私に告げる。

 逃げろ。

 お前は、大丈夫だ。

 誰にも、見つかりっこない。

 声は、きっと正しい。

 私は、正しい。

 言い聞かせる声を無視して、唾が粘性を帯び、私の喉に絡み付いてくる。

 終わりという言葉が頭に迫る。

 まさか、何も変わらない。

 あと一つで、完成するのに。

 パノラマの写真が途切れる。

 足が、止まった。

 止まって、しまった。

 道の突き当たり、路地に向かってしまったのが間違いだった。

 馬鹿。

 声が、叱咤する。

 大通りに向かえば、逃げ切れたかもしれないのに、自然と足はこの道を選んでいた。

 どうしよう。

 心臓が早鐘を打つ。

 それはもう完全に、完璧に、緊急信号を、何度も何度もかき鳴らしている。

「はじめまして」

 後ろで、声がする。

 追いつかれた。

 大丈夫。

 私は、大丈夫。

 私のどこかにある、心にお願いをする。

 振り返った正面には、あの人と、私と同じくらいの女の子がいた。

「た……」

 助けて、と思わず口に出してしまいそうになって、我慢する。

 あいつも、ダメだ。

 声が、私に言った。

 落ち着け、落ち着け。

「何か、ありましたか」

 きっと、上出来だ。

 少しだけ、呼吸が落ち着く。

 銀髪が綺麗な人で、雑誌で見た海外のモデルみたいだ。

 でも、この人は、目が笑っていない。睨みつけているわけでもなく、ただ、見ているだけ。まるで、落ちているゴミを見るみたいな目だ。

 女の子は、普通に見えた。少なくとも、この男の人よりは。何か戸惑った顔で、私と男の人を見比べている。

 でも、声が出した結論は、

 あいつらは、敵だ。

 これは、間違ったことを言わない。

 いつもいつもいつも、正しいことしか言わない。

 私に、これを与えてくれた、私がしたいことをできる力を、与えてくれた。

 だから、この声には従っていればいい。

「早速ですが」

 男の人が、一歩前に進み入ってくる。何だか青いその瞳に吸い込まれそうで、吐き気がする。何年も、きっと私が生まれる前から、この人が敵だと知っているような、そんな気持ち悪さ。相容れない、感覚。

「貴方が、やったんですね」

 痛い。

 頭が、ネジで締め付けられて、ミシミシと音を立てる。

 何で。

 何で、何を。

 この人は、何を、あれを、見えない。

「何を、ですか」

 わかるはずがない。

 この人は、変な人だ。

 私にも見えないのに、私にだって、コレが何だかわからないのに。

 男の人がフルフルと首を振る。

 表情は、彫り物みたいに変わらない。

 吐きそう。

「残念ですが」

 残念?

 残念って、どういうこと?

「私達は、『普通』の人間ではありません」

 女の人が、悲しそうな顔をした。

「もっとも、貴方ほどではありませんが」

 何?

 この人は、何を言っているの?

 わからない。

 わかりたく、ない。

「誰、ですか?」

 自分の声が、頭の中で響く。音になっているのか、わからない。

 警察?

 そんなわけがない。

 この方法は、私に、神様が与えた魔法。

 誰も、証拠なんて示せない。

 私がしていることは、何の罪にもならない。

 男の人は、ちょっとだけまごついて、女の人をちらりと見たあと、私の方に顔を戻した。

「私達は、そういうものを取り締まるものです」

 取り締まる。

 そう。

 きっと、この人達は、『普通』じゃない。

 おかしい人達なんだ。

 そう考えると、頭が落ち着く。

 落ち着いているのは、思考の片隅だけで、心臓は鼓動を速めているし、手は妙に汗ばんでいる。頭の中の、もう一つの声が、逃げろと言っている。アラームは全開で、赤いランプは鼓動に合わせて点滅している。

 逃げ出したい。

 だけど、足は竦んでいて、体が縛られてしまったみたいに、上手く動いてくれない。

「ですから、貴方の行為を見逃すわけにはいきません」

「何を」

 私に口を開ける余裕を与えない。

「貴方は、自分が何をしているのか、理解していない。それがどのような結果を生み出すことになるのかも」

「知らない。何も、知らないじゃない!」

 勝手すぎる。

 わかっていないのは、向こうだ。

 逃げろ。

「貴方は自らが犯した罪に気が付いていない」

 綺麗な日本語で、聞きたくない耳を無視して、頭に直接流れ込んでくる。一つ一つの音が、呪文みたいに、振動する。

「私が、何をしたの?」

 どうせ、わかりっこないんだ。

 デタラメ、言わないで。

「彼らを、殺しました」

 男の人の口調は変わらない。

 音程がなくて、抑揚がなくて。

 口が動いているだけで、本当は、後ろにあるテープから流れているんじゃないかと思う。

「ころ、した?」

 わからない。

 私は、何もしていない。

「そうです。今回ので合計三名、全員交通事故による死亡、ということなっていますが」

 テープは、一定の調子で言葉を続ける。

「そんな、わけ、ないでしょ」

 私は、魔法を使っているだけ。

 私は、誰も殺していない。

「いいえ」

「殺してない!」

 殺したのは、あの自動車。

 殺したのは、あの人達。

「貴方が手を下していないから殺していないとでもいうのですか? 貴方は自分の意志で、彼らが死ぬように、何かをしたのでしょう?」

 ダメだ。

 この人の言うことを、聞いてはいけない。

 ヤツハテキダ

 この人の声は、魔法のように染み渡る。

「貴方の意志により起こった結果であるのなら、貴方は彼らを殺したのです」

 この人の声は、私の心を煮崩していく。

 バラバラになるのを、待っている。

 体が、鈍くなる。

「殺してないの!」

 敵だ。

「私は殺してない! 私は何もしてない! 私は何も!」

「では、何をしたのですか」

 胸が痛い。彼の言葉は針になって、刺さった先端は、背中から飛び出してしまった。

 騙されるな。

 こいつは、敵だ。

 私の中が言う。

 ワタシという、誰かの声。

「質問を変えましょう。何故、それを使ったのですか」

 もう、ダメだ。

 なぜ、そんなの決まってる。

「あの人達は、弟を殺したの!」

 言って、気が付く。

「認めましたね」

 誘導尋問にすらならない、簡単すぎる引っ掛けだ。使った理由を言うことは、使ったと認めるということ。

 けど、私は悪くない。

「私は、悪くない」

 自分の言葉に自信がなくなる。口に出さないと、言い聞かせた言葉が溶けてなくなってしまいそうだ。

 自分で自分を説得しないと、自分が自分でなくなってしまう。私が望んだ自分が泡になって、消えてしまう。

 でも言わないといけない。この人はそういう顔をしている。

 言わせようとしている。

 穏やかで、天使のような敵だ。

 止めろ。

 心の声が制止する。

 でも、言わなくちゃ。

「弟が、車に」

 轢かれた。

 轢かれた?

 違う。

 事故なんかじゃない、殺されたんだ。

「最初の人は、弟の持っていたボールを蹴った人」

 弟は歳が離れていた。小学校にも入ったばかりで、いつも私の後をついて来た。

 最初はこんな歳の離れた弟は嫌だった。

 それでも、やっぱり弟は弟で、私の大事な弟。

 親はいつもどこかに出掛けていて、私がずっと面倒を見ていた。広い家に、世話をしてくれる人と、私と、弟がいるだけの毎日。

 両親の顔はあまり見た記憶がない。何時もあるのは弟の顔だけ。

 泣き顔、笑顔、怒った顔、全部含めて、弟は私の弟だった。

 学校から帰ると真っ先に弟の迎えに行った。

 弟も、いつも、私が遅れても、一人で待っていた。

「暑い日だった、私の前を弟がボールを突きながら道路を歩いていたの。私が危ないから

止めさせようとしたら、ボールがこぼれて、そしたら前から歩いていた人がボールを蹴ったの」

 弟がいつも持っていたボール。

 小学校にあがる弟に買ってあげた、黄色いボール。

 ボールがこぼれた、本当にそんな些細なことだった。前からボールが来るんだから、ボールを取ってあげればいいのに、こともあろうか思い切り蹴りつけた。

 ボールはガードレールを越えて、道路に飛び出していった。バウンドをしたボールは、車の列の中へ、飛び込んでいく。

「二番目の人は弟がガードレールを乗り越えようとしたのに、近くにいたのに何も言わなかった」

 弟は、そのまま走り寄ろうとした。

でも弟は意外と速くて、ガードレールの繋ぎ目をすり抜けていくを止めるのには間に合わなかった。あの人が、あの人が弟を止めればそこで間に合ったのに。

「今の人は、弟を助けようとした私を危ないからって止めた人」

 まだ、助かったかもしれないのに。

 私が駆け出せば、まだ弟を引き戻せば車に轢かれなかったかもしれない。

 可能性なんて、いくらでもあったのに。

 車はそのまま、ガードレールに衝突して、ガラスは粉々になった。

 今でも夢に出る。

 もう喋らない、弟。

 助けてって、無言で言う弟。

「だから」

 この、魔法を使った。

 あるとき、不思議な声がして、突然使えるようになったこの魔法は、私が欲しい力を与えてくれた。

本当に、神様がくれたんだと思った。

「そうですか」

「私は、悪くない」

 そうだ。

 彼らは、こうされて当然なんだ。

 それに、私は、直接やったわけじゃない。

「関係ありません」

 男の人が、全てを遮る。それは私を否定しているかのような声だった。

「貴方がどのような理由でそれを使ったのかは問いません。貴方がそれを使ったとわかればそれでいいのです」

「じゃあ、なんで」

 今まで、黙って聞いていたの。

「全てのものに等しく弁明の余地を。それが我々の考えです」

 嘘だ。

 この人は明らかに嘘をついている。

 あの人は、ただ私に諦めを与えようとしているだけだ。十分に話させ、話を聞いて、諦めさせようとしているだけだ。

 騙されるな。

 こいつは敵だぞ。

「もういいでしょ、どこかへ行って!」

 私は、まだ終わらない。終わるわけにはいかない。

 まだ、終わっていないんだ。

「いいえ、そういうわけにはいきません」

「なんで、なんで、邪魔なの! あなたには関係ないでしょ!」

 邪魔、邪魔。

 放っておいて。

 この人には、関係ない。

 私が何をしたって、この人には何の影響もない。

 弟を殺した人間を、私は決して許さない。

「あなたの意思には関係ありません、あなたの行為に関係があるのです」

 ダメだ、この人は崩れない。

 私の声なんか、最初から聞いていないんだ。

 ダカラテキダッテイッテンダロ

 頭の声が、忠告をする。

「独断でもいいと言うのなら」

 男の人が気配を変える。

 表情も、体も何も動かしていない。

 だけど、私にはその変化がわかる。

 何もしてないはずなのに、皮膚がピリピリする。何も変わっていないのに、私の周りの空気だけが、硫酸みたいになっている。

 この人も、私と同じ?

 ま、魔法?

 でも、これは。

 ゾク

 呼吸も、できない。

 一歩でも動けば、この人は、何かをする。

 殺される。

 いる場所が、違いすぎる。

 あんなの、人間じゃない。

 人間の私とは違う。

 人間であるはずがない。

 周りの気温が急激に下がっていく。

 何で、私こんなことがわかるの?

 逃げなきゃ、死ぬ。

「待って」

 今まで黙っていた女の人が急に声を出す。高くも低くもない、普通の声だ。

 それは私にではなく、男の人に向けての声だった。その声に反応するかのように、男の人の気配が機械のように戻っていく。

「行き過ぎました」

 世界中に謝るかのように、男の人は焦点を暈しながら呟く。

「これでわかったでしょう」

 男の人は続ける。

「私達は貴方の行為にのみ結論を出すものです。その原因にも過程にも結論には一辺たりとも関与しません」

「何の、ために」

 そんなの、誰もしなくていいのに。

 誰にも迷惑なんてかけるはずないのに。

 誰も、困ってなんかいないのに。

「世界の秩序を守るもの、とでもしておきましょうか」

 言いながら苦笑をしている。

 からかっているつもりなの?

「正義の、使者」

 昔弟と一緒に見たヒーロー物の特撮に出てきたそれを思い出させる。自分の正義を押し付ける、正義のヒーロー。

 街を壊して多人数で一人の敵を倒す。犠牲になった人のことを考えない、自己満足のためのヒーロー。

 下らないそれを、それでも弟は楽しげに毎週見ていた。

 楽しそうに、楽しそうに毎週見ていた。

 でも、弟はもういない。

 今でもテレビは彼らの活躍を流し続けている。

 一人の視聴者がいなくなったことも知らずに。

 世界を救った気になっている。

「いいえ」

 あっさりと否定をされた。

「もし私がそう思っているのなら、それはきっと傲慢です」

「じゃあ何、これ以上するなっていうの?」

「いいえ」

 止めに来たんじゃない。

 じゃあ何しに来たの、放っておいて。

「通告しに来ただけです」

「何を」

「私達は貴方を見つけたと」

 コロセ

 私が私に命令をする。

「私達は貴方を見つけたと、私は貴方に通告するだけです」

 トメチマエ

「関係ないの!」

 頭の中で、ヤレと言う。

 声はいつもより強く、切羽詰って、私に命令をした。

 その声に従うように、二人の体を見る。

 セット。

 焦点を、二人に合わせる。

 背筋に、冷たい電気が流れる。

 頭から体へ駆け巡って、目の奥が、チリチリと火花を散らしている。

 ヤレ

 頭の中の声と同時に、体は危険信号を発する。

 痛い。

 体が引き裂かれそうになって、また一つに戻る。全身をナイフで切り刻まれる幻覚が、体に痛みを加えていく。体中の血管が、破裂しそうだ。

 痛みは、使うごとに激しくなってきている。

 だけど、使うしかない。

 二人の一秒後も同じようであるように、ただそう願う。

 願う速さは、何よりも速いはず。

 心臓が一つ大きく動き、体内の血液が一巡りをする。

 プレイ。

 瞬きよりも速く、あの声を呼ぶ。

「な」

 男の人が声を上げた。

 女の人は驚いた顔のまま、動きを止めている。

 今しかない。

 私は、二人にかけたものが外れるより早く、その場を駆け出した。

 逃げるしか、私には思いつかなかった。もう少しあそこにいたら、多分、あの人が、何かをしたに違いない。あの人には、もう会っちゃダメだ。

 呼吸をするのも忘れて、走る。

 パズルのピースはあと一つ。

 もう、止めるためには止まることは出来ない。


 ミハエルが、唯に聞こえない音で舌打ちをする。

「何、今の?」

 目の前の少女がいなくなったあと、唯がミハエルに声をかけた。彼は、右の拳を弱く握り締めている。

「能力を使いましたね」

 ミハエルが苦々しく言葉を吐く。

 干渉力が強い。

「能力」

「魔法の類ではないようです。混血の力でしょう」

 注意はしていた。元々ミハエルは、対混血用に特化した騎士である。相手の発動するタイミングに合わせたり、その力を強制的に排除したりする能力が高い。しかし、今回は、そのミハエルよりも、上回った干渉力を持っていた。

 人ではない異種と、人が交わったことにより、特異な力を受け継ぐようになった血族が、混血である。現在では血が薄くなっているものが多いが、極稀に先祖がえりのように不可解な能力を発揮する人間がいる。

 才能が必要だとしても、長い修行を常とする魔法や騎士の力と対極に存在する、天性で持ちうる、『穢れた』血を持つ人間達だ。

「何の能力?」

 唯がミハエルに聞く。

「そこまでは」

 ミハエルは、その排除力で、相手の能力を見極めようと思っていた。混血の能力は、千差万別で、大元の異種の能力でさえ超越する可能性さえ秘めている厄介なものなのである。

 だが、今ので何も情報が得られなかったわけではない。

 とりあえず、彼女に与えられた能力は直接死に結び付けられるものではないらしい。そもそもそうだとすれば、最初から事故に見せかける必要などなかったはずなのであるから。

「どうするの?」

 分析を続けるミハエルに、唯が心配そうに顔を覗き込む。

 夕暮れが終わりかけ、秋特有の乾いた空気が、ミハエルの肌に触れる。

「決定権は、私達にはありません」

 ミハエルが思考の片隅で簡単に唯に返す。

 今回の任務は『調査せよ』であるから、そのあとどうするかは、里見と本部側にある。その指示を受けなければ、二人は動くことを許されていないのだ。

「あの人の言っていたこと」

「事実かもしれませんが、結論に変更はありません」

 唯の言葉をミハエルが遮る。

 彼女の言っていた通り、彼女の弟が事故で死に、間接的にそれに関与した人間達を自らの能力で事故に追い込んだとしよう。

 だったら、何なのだ。

 確かに、彼女のしたことも、この国の法律ではどうすることもできない。

 復讐したいという気持ちが浮かぶかもしれない。

 だから、何だ。

 ミハエルにとっては、どうでも良いことだった。

 彼女の命にも、彼女が殺した人間達にも、興味はない。

 彼女を裁くかどうか、問題はそこではない。

 彼女は自分に与えられたものが何を引き起こすか、知らない。それが混血の力だということも、それ以上使い続ければ、自分の体がどうなってしまうかも、だ。それを伝えるには、もはや遅すぎただろう。

 動き出した歯車は、もう止まらない。

 ミハエルの排除を凌ぐだけの干渉だ、既に向こう側の本能が、何らかの形で影響し始めているだろう。

 使節が行使する法は、彼らを正すためではなく、調和を守り、秩序に固執するためだけに存在している。

「今日は、ここまでです」

 駅へと歩き出したミハエルに、唯が何も返せずに黙ってついていく。唯も、ミハエルが何を考えているか、使節がどういった判断を下すか、百も承知のはずだ。

「速やかに、本部に回しておきます」

 ミハエルの声は、どこまでも冷静だった。

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