エピローグ

「もしもし、課長?」

 街の外れ、遠くから双眼鏡を構えた少年がいた。双眼鏡の先にはバスに乗り込む唯とミハエルがいる。

 少年は同時に左手に持った携帯電話を耳元に当てている。

「うん、うん、ようやくみたい。とりあえず作戦成功かな」

 どこかと通話しながら、相づちを打っている。

「そんじゃーね。そっちに帰るわ」

 終了ボタンを押して、少年は一息つく。

「さて、と」

 切れた画面を見ながら、すぐに連絡先一覧から他の番号を選ぶ。

 数コールあって、相手が出る。

『どうかしら、ユーゴ』

 電話先から女性の声が聞こえた。

「ニヒヒ、すべて順調」

 妙な笑い声を上げながら、ユーゴと呼ばれた少年が答える。

『それは良かったわ』

「良かった良かった。全部姫の思惑通りだね」

『ユーゴも大変ね』

「ん?」

『スパイ』

「ニヒヒ、これはこれで楽しい」

『それならいいけど』

「姫が約束を守ってくれるならね」

『大丈夫、そのときが来たら、丁寧に殺してあげる』

「頼むよ」

『ええ、それじゃあ』

 通話が切れたことを確認して、少年はまた通話履歴から先ほどの番号を選ぶ。

「やあ、課長」

『お疲れ様、だね』

 今度は男性とも女性とも思える中性的な声が聞こえた。声の調子はどこまでも明るく、どちらかといえば子どもがはしゃいでいるようにも感じられた。

「まったく人使いが荒いよ」

『こういうのって二重スパイっていうのかな』

「さあ、でも姫も気が付いているだろうね」

『接触してきた段階で織り込みでしょ。とにかく、すべてはスケジュール通りだ』

「そうだろうね」

『ところで、そっちの名物ってなんなの?』

「干物?」

『そうかー、じゃあいらないや』

「あ、そう」

『それじゃあ、気をつけて。みんな待っているから』

「あいよ」

 通話が終わり、少年がふう、と息を吐いた。

「さて、干物でも買って帰るかな」

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