第2話 事の始まり
梅雨が明けて、天気が一段落した。一日の授業が終わり、俺と裕人は久しぶりに放課後の屋上へ足を運んだ。不思議と屋上には誰もいなかった。まだ空には所々に小さな雲が浮かんでいる。それでも見晴らしは、いつも通りだった。この高校は小高い丘にあるため、屋上の校庭側からは街を見下ろせる。だが、あいにくフェンスが邪魔で良い見晴らしとまでは言えない。俺と裕人は、その校庭側にある一つの青いベンチに座った。そして自販機で買っていた
「圭は、夏休みの予定どう?」
「俺はまだ何も決めてない。そう言う裕人は、どう何だ?」
「僕も白紙だよ。まあ去年みたいに友達と遊びつつ夏休みの課題をこなす、いつも通りの感じだろうなぁ。ところで、圭は河野さんとどうなの?」
唐突な最後の言葉にタイミング悪く紅茶を飲んでいた俺は、一口目を一気に吹いてしまった。
「何だよ、いきなり。話に乗っけてくるなよ。おかげで紅茶が、こぼれた!」
「ごめん、ごめん。悪い悪い。でも、頬が赤くなってるよ」
「ただの幼馴染みだよ」
そう言いながら、制服のYシャツにこぼれた紅茶をハンカチで拭いていた俺は、ある事が妙に気になった。それは服を拭く間にふと、校庭を見た時だった。
「なあ、裕人。今、校庭を見ていて思った事があるんだ。校庭端にあるプールって結構、古そうだけど何で使われていないんだ?」
「圭は知らなかったっけ、あのプールの話」
「例のプールの話?」
「そう、その話がどうやら関係しているらしいんだ。先輩から聞いた話だと、この話は昔から、この学校で言い伝えられているものだって」
「その話って、一体どんな話なんだ?」
自分はこの高校に入学してから一度も、そのような話は耳にしていなかった。
「"夏祭りの夜、十二時零分に学校のプールサイドで、六人が同時にプールサイドへ話かけると誰もいないのに返事が返ってき、試した者には不幸が続く"って話だよ」
「それで、その話とプールが使われていない理由の関係って?」
俺がそう質問すると、裕人は少し残念な顔をした。俺はどのような時に裕人が少し残念な顔をするのかを知っている。
「要するに、その関係性が分からないんだよな」
「そうなんだよ!困ったことに分からないらしいんだ。って、なんで僕が言おうとしていた言葉が分かるんだい?」
「そんなこと位、裕人の顔を見れば分かるよ」
俺がさらりと言った言葉を聞いた裕人は少し考えて言った。そして俺は自分が言った言葉に後悔することとなる。
「それだったら…。圭は、この謎も解けるかもね。よしっ!」
「何だよ。よしっ!って」
「この謎を検証するんだよ。プールの言い伝えと使われていない理由を!」
俺はすっかり忘れていた。裕人が、"熱中する男子"だったことを…。
「でも、もう誰かが検証をしてるんじゃないか?」
「大丈夫。先輩の情報によると、まだ誰も検証していないらしいよ」
「そもそも、どうやって学校内に入るんだ?確か夏祭りの夜は、閉鎖していた筈だ」
「実は最近、僕はあるものを見つけたんだ。圭は何だか分かるかい?」
「まさか、抜け道的な何かが?」
「その、まさかだよ。一つ付け加えるなら、まだ誰にも見つけられていない秘密の抜け道だね」
俺が問題を指摘するが、軽々と裕人に論破されていく。
「仮に学校へ入れたとしても、プール内には入れないんじゃないか?」
「それが、プールの鍵は施錠されていないんだよ」
「えっ。それって、どういうことだよ?」
「言い伝え自体がプールの鍵だと言えるんだ。普段から、あのプールは言い伝えのせいで生徒たちが気味悪がって誰も近づいていない。だから放置しても問題ないだろうってことで学校はプールを野放しにしているんだよ」
「大方は分かったが、一番の問題が一つある」
そう、これが一番の問題だと俺は思う。
「もし見つかったら、どうするんだ?」
さすがに裕人も隙を突かれたという顔をしていたが、直ぐにこの問題は解決した。
「見つかったら、猛DASH!だよ」
そう言うと裕人はベンチから立ち上がり、非常口のマークに描かれている人のようなポーズをした。
「何だよそれ(笑)」
思わず俺は笑ってしまった。観念した俺は裕人の言い伝えを検証する計画に乗った。
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