『月下(ゲッカ)のプールサイド』

新庄直行

第1話 祭りのあと

 今日は、いい思い出になると思っていた。それが間違いだとは知らずに…


 さっき行った夏祭りの方向から、太鼓の叩く音と音頭の曲が聞こえる。

「ちょっと!圭君、私の話を聞いてる?」

 俺は幼馴染みである河野かわの冬音ふゆねの声で、ぼっーとしていた意識をハッとさせた。

「ごめん。ちょっと、ぼっーとしてしまって…」

「もう。だから圭君は、いつも授業中に先生から当てられても答えられないんだよ。秋乃あきのからも何か言ってやってよ」

 河野の横にいる牧野まきの秋乃あきのが、いきなり自分の顔をじっと見つめて来る。俺は恥ずかしくなり、顔を逸らしてしまった。

日々風ひびかぜ君は、そのままでもいいんじゃないの。あたしは、そう思うけど」

「秋乃まで!顔の話じゃないのよ」

「ところで、肝試しって何時なんじだっけ?」

「牧野さん、肝試しじゃなくて検証だよ」

「確か言い伝えによると、十二時丁度じゃなかったっけ…」

 俺が通っている私立神月かみづき学園高校では、ある言い伝えが存在する。その言い伝えに名前はないが、内容はしっかりとある。

"夏祭りの夜、十二時零分に学校のプールサイドで、六人が同時にプールサイドへ話し掛けると誰もいないのに返事が返ってき、試した者には不幸が続く"というものだ。

 何処どこの学校でも、言い伝えらしき噂や怪談は一つや二つあるものだと俺は思う。そして少なからずだが、それを試す者もいる。そう、俺達みたいな者だ。俗に言う若気の至りというものだろうか…事の始まりは、中学時代からの親友である笠地かさち裕人ゆうとと放課後の屋上で話した何気ない会話からだった。丁度、梅雨が明けて間もない頃…。

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