「ヤンデレ」という、突き詰めれば腹を凶器で貫かれてしまうような物語になり兼ねない題材を、本作では高校生の青春の比重を高める事でマイルドに描かれている。
過去の贖罪、気持ちのすれ違い、伝わらない想い……もう一人のヒロインの出現で、物語は少しずつ泥沼の展開を予期させる。
それでも、憂鬱な雰囲気を感じさせないのは主人公の性格設定の妙ではないだろうか。彼を取り巻くサブキャラクター達との交流もいい具合にそれを緩和させている。
「病む」という感情は、誰にでも潜在的に秘めている純粋な恋心の延長でしかないのかもしれない。もう一人のヒロインの物語を読んで、私はそう思った。
ヤンデレ彼女とおつきあいするには
ヤンデレというと、私はジョジョ四部の「山岸由花子」くらいしか、ちゃんと知らないわけですが。
まぁ、聞きかじっただけでも、強烈なイメージがありますよね。
お腹の中がどうとか、空の鍋がどうとか、緑の悪魔がどうとか。
この作品は、そんなヤンデレ気味な幼馴染と、どう付き合っていくか、というテーマに対して真っ向から挑んでいます。
ともするとこの手の作品は、スプラッターというか、ホラーというか、主人公がどんな酷い目に合うんだろう、という、下品な出歯亀心を満たす所に焦点がいくものです。
しかし、そこにあえて常識的な思考――このヒロインをなんとか救ってやらなくちゃならん――を加えたらどうなるか。
この手の物語を読んでいて、ふと、頭によぎるその発想を、巧みな文章力と説得力のある展開、そしてなんとも青春物語にマッチした爽やかな作風で、見事に物語へと昇華されている本作。
なるほど、素晴らしい、こういう展開を見たかったのだよ、と、読後妙に満足してしまいました。
きっと私以外にも、ヤンデレの女の子から逃げ回らずに、真摯に付き合ったらどうなるんだ、と思っている人は居るはず。
そんな方には是非オススメ。
そうでなくても上質な青春モノを読みたい方にはオススメです。
追記 梢編読了
コンテスト終ってからもなんか始まっているなぁと思いつつ、ちょろちょろとしか読めなかったのですが、最近読了しました。
当て馬にされてしまったライバルヒロインの梢ちゃんにも、ちゃんとスポットを当ててあげるあたりが実に粋なはからいです。
当然こちらのルートでは、雫ちゃんはこれから主人公を失った悲しみから立ち直っていかなければいけない訳ですが――まぁ、それはそれ。
最後、さりげなく告白する辺りが、いかにも青春という感じで、なかなかこちらはド直球な素晴らしいラブコメでした。
雫編も梢編も、二つ揃って読むといいですよ。
おすすめです。