4 ジッドとレイメル


 4 ジッドとレイメル


 ざっ――

 ざっ――

 二人は穴を埋めている。

 もう埋める物を沈めた穴を――

 ざっ――

 ざっ――

 ジッドもレイメルもその十歳の体には少し大きいシャベルを使って穴を埋めている。

「……っ」

「少し、休んでもいいぞ」

 この単調な作業はもう二時間近く続いている。少女の肉体は限界に近いはずだ。

「――うぅん、少しでも早く終わらせないと」

 掘り返した時に出来た雪砂の山にシャベルを突き立て、切り崩すように足下の穴へ落とす。

 広い穴だ。それに深い。

 ちょうど小学校の授業で使われるようなプールほどの大きさだが、今はもう半分近く埋め直していて、更地のようになっている。

 雪砂は軽い。それでもシャベルで一掻きするごとに疲労は着実に蓄積していく。

「……別に、放っておいても勝手に埋もれていくんだろうけどな」

 見上げれば、微かな無数の粒子が視界に映る。この白い砂は一日で一センチほど積もる。もう隠す物は隠せたから、一ヶ月も経てば誰にもわからなくなるだろう。

 ざっ――

 ざっ――

 しかし、ジッドは作業を再開した。レイメルは尻から座ってそれを眺めた。

「続けるんだ」

「やっぱり、何かやっておきたくて」

「もう死ぬのに」

 ジッドは答えなかった。

 今、ここにある二つの命はもうすぐ終わる。

 シュンヤとレイカ――終わりの見えない旅だったが、ようやくセーブポイントを作ることができた。

「なんとか言ってよ」

 世界は雪砂で覆われている。

 地表からおよそ二メートルにまで達した雪砂の上に今の人類は生きている。

「バカみたい。何百年後になるのかわからない自分たちのために、リベリオンⅩを埋めるなんて」

「……いつか」

 シャベルを動かしながらジッドは呟いた。

「いつか、世界が滅びかけて、リベリオンⅩが少なくなった時がコイツの出番だ。ただ一機あるだけで戦争に勝てる。その時、オレ達が英雄なんだ」

「英雄か……あはっ」

 誰もが欲しがるであろう称号を繰り返して、レイメルが笑う。

「数百年生きて、ようやく英雄かぁ……とっくに神様にでもなってたのかと思ってた」

 レイメルが起き上がって尻を叩いて雪砂を払うとシャベルを手にした。

 ざっ――

 ざっ――

 シャベルの音が重なる。

 二人は穴を埋めている。

 もう埋める物を沈めた穴を――

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