2 ジーノとレミナ


 2 ジーノとレミナ


 暗い道を歩いていた。

 山を掘っただけの洞窟の足元は道とは呼べないが、彼らにはそれが道なのだ。

 手には松明。身に着けているものは木の皮と葉を重ねて縄で繋いだものを腰に巻きつけているだけだ。

 大人しか入れない神殿の洞窟は辺境に住む少年たちの数少ない遊び場だ。今頃は松明が減っていることに気付いた大人たちが血眼になって探しているに違いない。

「おい、本当にこの先なんだろうな?」

 松明を持つ少年のすぐ後ろにいる一人が言う。ここにいる五人は村の数少ない男子の全員だ。

「本当だって、この先にじっちゃんが連れて行ったんだ」

 もう洞窟に入ってしばらく歩いている。外では日が沈む頃だろう。

「待てっ!」

 一番後ろにいたのが、全員を止めた。足音がなくなると、彼は壁に耳をあてた。

「近づいてきてる。大人だ」

「おい、やばいだろ!」

 小さな彼らには大人は絶対的な存在だ。

 狩りで食事を獲ってきたり、病気になった時に薬草をくれるのも全て大人だ。文字や言葉を教えてくれるのも全て大人だ。世界は大人が作っているのだ。

「どうする? 戻るか?」

「今ならまだ、許してもらえるんじゃないか?」

 だが、子供は与えられる世界では物足りない。常に自分で世界を広げようとする本能が彼らにはある。

 大人たちから見れば、それはまさに〝反抗〟なのだ。

「俺は進む」

「ジーノ!」

 真ん中にいた少年の発言に、全員が振り向く。

ジーノと呼ばれた少年は先頭の少年から松明を奪って先に進んでいく。

「やばいぞ、近づいてくる!」

「ジーノ! やめろって!」

 腕を掴まれた。しかしジーノは松明を振り、突きつけた。

「ひっ!」火に恐れて後ずさっていく。

「腰抜けは帰れ。俺はレミナを探す」

「し、知らねぇからな!」

 四人はネズミのように来た道を走っていく。

 一人になった。

 少しさびしくなったが、かまわないとジーノは思った。

 この先にレミナがいる。

 そう思えば前に歩ける。

 大人たちが用意した世界は窮屈で、仲間たちと広げてみたが、それすらもジーノには狭かった。

 家から千歩ほどで辿り着くワニの河の先を知らない。

 その先を知りたくて、早く大人になりたかった。

 レミナは、それを知っている女の子だった。

 レミナの父親は河を超えた世界からいろいろなものを仕入れてくる商人で、レミナもそれに連れられてよく出かけていた。

 帰ってきたレミナの話を聞くことは、ジーノにとって最も楽しみなことだった。

 しかし、レミナの父親は、ジーノは嫌いだった。

 あいつは何かおかしかった。

 大人たちが獲ったものは全然食べなかったし、いつも機械をいじくっていた。

 そして、レミナの家に近づこうとすると、殴られた。

 たまに、夜中にレミナを連れてどこかに行くことがあった。

 その次の日、レミナに会うことはできなかった。

 しばらくして、レミナに会うと、かすかな痣が見えた。

 それが、ジーノたちの間では謎だった。

 謎は解き明かすべきだった。子供の世界を広げるのに、謎は邪魔なのだ。

 松明を手に、洞窟をさらに進む。おそらく、仲間たちは大人に捕まっただろう。

 次第に、足音が自分のものとは別に重なって聞こえてきた。ジーノは急いだ。

 わずかに前方が明るくなった時、ジーノは恐怖を感じたが、決まったようにレミナの顔を思い出した。

 この先に、行かなければならない。

 ジーノは震えながら、明かりの中に自分の身を捧げていった……

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