戦うべき、相手
その頃、坂上はナナイ達からはぐれ、一人喧騒の場を離れていた。
正確に言えばはぐれたわけではない。自ら離れたのだ。もちろん、巻き添えを喰わないためである。
「美人の課長さんは生き残って欲しいかな……デートにOKもらえてないし」
坂上としては、標的である塚本だけなんとかなればそれでいいのだ。または、塚本が生き残っていたとしても、それはそれで良かった。そういう意味では、すでに目的は達成したとも言える。
「あとは……なるべくさりげなく戻りたいけど」
そう言いながら、入り組んだ通路を進む。ここも、事前に調べてあった通路だ。
その通路の角を曲がって、広い空間に出ようという時、目の前に何かが立ちはだかった。
昨日、ナナイが倒した
ズドン!
坂上に覆いかぶさるようにして襲い掛かった
その腹の辺り、人間でいえば
「はぁぁっ!」
坂上は身を翻して、続けざまに当て身を打ちこみつつ、
坂上は倒れたそれへと近づき、既におかしな方向へねじ曲がっているその首へ向け、捻り切るかのように足刀を叩きこんだ。首の部分が完全に潰れ、
「戦うべき相手を見極める知恵さえないのは、悲しいな」
頬に飛んだ魔獣の返り血をぬぐい、坂上は呟いた。
*
イサナは少女と対峙していた。
ミヤビ、と呼びかけられた少女は、明らかに困惑の表情を浮かべている。
「まさか……本当にミヤビ、なのか……?」
「なんなの……なんでわたしの名前を呼ぶの?」
「俺だよ! イサナだ! わからないのか!?」
イサナ、という名前を聞いた少女は、顔色を変えた。
「お兄……ちゃん……?」
少女――ミヤビは、目を泳がせた。イサナは今こそ、自分の認識が正しかったことを確信した。
「そうだ! 俺だよ……ッ!」
久しぶりに会った者同士、話が弾むかと思いきや、言葉が出てこない時というのはある。ましてや、この異常な状況である。ミヤビは、イサナたちを襲ってきた。それも、魔獣と一緒に――
なにを問い質すべきかすらわからずに困惑するイサナの前で、ミヤビは俯いていた。
「あんたがお兄ちゃんなら……」
ミヤビは俯いたまま、絞り出すような声で言った。それと同時に、ミヤビの腰の辺りにある「翼」が開いた。
「どうして……私たちの土地を踏み荒らすの!?」
翼に青白い電光が宿った。
「ミヤビ……ッ!?」
ミヤビは翼を羽ばたかせた。電光が無数の矢に変じ、イサナへと襲いかかった。
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