#5 まえにすすむってこと

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 情報収集 「雛山ことりに目撃した内容を聞く」

 情報:噂話 の判定 5dx+2@10 → 15

 

 開示情報

 1、被害者であるおおとり彼女ひなやまの友人(達成値5)

 2、白いワンピースでツギハギの少女?が犯人(達成値7)

 3、少女は鵬から何かを取り込もうとして、突如叫びながら消えた(達成値9)


 ※マスターシーン(プレイヤーが関与できない演出のみのシーン)発生

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 分かってた。"引き継ぎ探索者リターナー"がにやにやしながら振ってきた時点で。

分かってた。九頭見リターナーに悩み相談できるほどの関係ってことは、言うなれば似た者同士だって。


「――ということで、ソイツを見つけてとっちめてやるの!」


 ……分かってた。わかってたんだよ、うん。

カラオケボックスの狭い部屋で机越しに座る少女は、目の前で大きいパフェをほおばりながら息巻いている。彼女は雛山ひなやま ことり。今回の件の目撃者だ。本来、レネゲイドが絡む事件の関係者は記憶操作をするのが筋なのだろうけれど……少なくとも九頭見の知り合いということ、そしてその口添えがあったからこそ、こうやって事件に首を突っ込もうとしているみたいで。

量産型女子高校生っぽいぼくにはちがいがわからない見た目だけれど、意志が強いのは数分で伝わってきた。良く言えばまっすぐ。悪く言えば頑固って感じだ。


 "パーガトリー"との接触後、僕はすぐに九頭見に連絡をした。悠長にしている時間は、もうない。支部にも帰らず、指定されたカラオケボックスに向かった。相手が非オーヴァードである以上、"ワーディング"を使うわけにはいかない。内緒話をするのにはうってつけの場所だった。

出会った彼女は会うなり対抗策の相談をしようとしてきた。つまり、自分を襲った怪異と戦う気持ちでいるってことで。


 ――だから敢えて、僕は意地の悪い言葉を投げる。


「……目の前で友人が化け物じみた力で殺されたのを見たのに、それでもその脅威に立ち向かえるの?」


 僕を見つめる彼女の目が揺れた。当然だ。みんながみんな、ホラー映画の主人公みたいな行動力にあふれているわけじゃない。僕だって砂漠に行けって言われたら、今後の身の振り方を考えるもの。背後で、最近はやりらしい短調なメロディラインが、スピーカー越しにメッセージなるものを投げかけてくる――。


「……それでも」


 けれど、やはりというか……彼女は眼に光を取り戻した。


「それでも、このまま逃げたんじゃ……私は一生前に進めないから」

「……分かったよ」


 平行線。で解決できるのはお互いに折れる気があるときだけ。

――その塩梅は、人間じゃない生命体レネゲイド・ビーイングの僕にはわからない。

強く僕を見つめる彼女に、実際のところ、僕がかけられる言葉はもうなかった。

じゃあ、と目を輝かせる彼女を手で制して、苦みしかない珈琲を一口。


「……まずは、相手のことを知ること。そこからだよ。だからつらいと思うけど……」

「大丈夫、大丈夫……早く乗り越えないとだもんね」


深呼吸する少女。口元に食べかけのクリームがついてることは黙っておくことにする。語り始める彼女のために、僕はそっと機械のボリュームを下げ……右方向は大きくする方だった。背後で少女がびくりと肩を震わせたのが気配でわかる。慌てて左にひねって音量を下げた。


「……んっと、帰り道だった。アトリと、新しくできたクレープ屋さんに寄った帰り」


 僕が安いソファに腰かけるなり、彼女は俯きながら口を開いた。いつの間にか、口元の生クリームを拭っている。


「路地裏で子供が二人遊んでたの……暗くなるからちょっと心配で、私が声をかけにいったのね。そしたら――」


 ――白いワンピースの女の子が目の前に現れた。

そう言って、彼女はもう一度深呼吸した。肩が震えている。まるで目の前に恐怖がいるみたいに。



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 非戦闘用能力イージーエフェクトの使用を宣言

 "万能器具"でハンカチを生成

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「無理はいけないよ?」


 そう言って、僕はハンカチを差し出した。と言っても、能力による代物だけれど。僕は苔でできてるから、一部を切り離して成形するのは簡単だ。……触感は本物っぽいって、"イージス"にもお墨付きもらってるし、大丈夫なはず。

そしてこのタイミングでハンカチを差し出すのも、多分間違いではないはずだ。


「……ありがと、大丈夫。」


 少し戸惑ったように雛山さんはハンカチを受け取り、目元を拭った。


「それで……それで、その女の子は肌に手術の跡みたいなのがあったの。で……私、急におなかが痛くなって、しゃがみこんじゃった」

「子供はどうしてたの?」

「んー、曖昧だったけど一人がぐったりしてたと思う。もう一人の子は逃げようとしてたけど、やっぱり私みたいにしゃがみこんじゃって……その子の方に、"ソイツ"が向かってた」


 そして――。

言いかけた言葉が喉につかえたようで、彼女はぐっと息をのむ。

……そして。


「アトリが……その子を遠くへ突き飛ばしたの。そのせいで、アトリは……私は、アトリを見捨てて……!」


 ぽたぽた。握りしめたハンカチに涙が垂れる。

多分、後悔と恐怖が彼女の頭に一杯なのだろう。だから、僕は。


「……それで、彼女は死んだ。君はどうやって逃げられたの?」

「わた、わたし、は……逃げてない……アトリが倒れて、"ソイツ"が手を伸ばして……と、突然、消えちゃっ……」


 膨らんだ風船に限界がきたように、彼女の感情が破裂したのがわかった。

僕はただ、その背中にそっと手を置いて……さすることしかできなかった。





















―――――――――以下、内部処理GM・PL視点のメタ情報―――――――――

今回は文頭に情報出してみました。この方が見やすい?

ご意見募集しております。


さて、尻切れトンボのように終わりましたが、次回はマスターシーンです。

マスターシーンはプレイヤーの介入が不可能な演出シーンとなっております。

中の人向けシーンって感じですね。しばしお待ちください。

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