#3 あしでかせぐのがきほん
「安請け合いだったかなぁ……」
僕は一人ぼやく。平日のカフェで、一人。薄暗い店内には寿命の近いステンドグラス風の電飾の光と、短調なコード進行の曲が満ちている。なんだっけ、よく支部長が聞いている「懐メロ」という感じの曲だ。落ち着くのかはわからないけれど、短調は記憶に残りやすいのだと言っていたのを覚えている。
平坂市は田舎ながらに……いや、田舎だからか、こういった個人経営のカフェがいくつも点在している。さすがに閑古鳥と付き合いながら続投するのも難しいからか、平日の朝に開店している店の方が少ないみたいだ。実際、その辺の機微は僕にはわからないから、"イージス"の受け売りだったりするんだけど。
ぼんやりとコーヒーを口に運んでみる。そろそろ待ち合わせの時間になる。人によって基準がばらばらで、一度五分前に到着したことですごく怒られてからは、30分ほど前から待つようにしている。人間って難しい。
市販のコーヒーより幾分か豆の成分が濃い一口が、じんわり体に沁みる。反射的に漏れる溜め息。同時に、出入り口の鈴が鳴る。焦点をそちらに合わせると、だらしなく制服を羽織る少女が見えた。
「急にごめんね、"
「システムが違うんだけど! いや、あー、その呼び名やめてくんない?」
軽く手を挙げて挨拶をしようとした彼女に、思わぬクリティカルが出てしまったらしい。苦虫を口にねじ込まれたような顔をしながら、僕の向かいの席に"リターナー"……
「じゃあ、本名がいい?」
「んー……ティル君にならいいかな」
悪戯っぽく笑って、彼女は僕越しにパフェをオーダーする。背中の方で店主が調理場に引っ込んだ気配がした。
「それで、今日のご注文は?」
「そうだねー……"コトリバコ"の件で、被害者の情報とか聞きたいかも」
「"コトリバコ"かー……
目を細め、唇を歪める九頭見。男性受けがいい笑顔なのだと、いつか彼女自身が言っていた気がする。僕に愛嬌を振りまいたってプラスにならないよ、と言うと、彼女はいつもにやにやと笑うんだ。それにしても、ここで"スターターピストル"の名前を彼女が出したということは、「自分はこの件について詳しい」ということの表明なんだろうか。
「とりあえず、前金はいいや。えーっとね……」
被りっぱなしのヘッドホンを両手で押さえながら、九頭見は目を閉じる。過集中状態を自分から作り出すことで、彼女曰く「冒涜的な生き物とコミュニケーションを取る」のだそうだ。……彼女と話していると、いくら僕が人知を超えた存在であっても、知らないことはあるんだなって再認識できる。
「あー、違う、ルルハルリ……今回は違うんだって……」
……"リターナー"は何もない空間に手を伸ばし、押しやるような動きをしている。大変だなぁと呟いて、僕はコーヒーを啜った。
「あー、お待たせ。えっと、"コトリバコ"の被害者の話だったよね」
5分ほど虚空とやりとりをした九頭見の顔は、少し青くなっている気がする。多分レネゲイドかなにかを使うのに疲れたのだろう。集中している間に運ばれてきたパフェが見えていないだろうから、そっと差し出してみた。
「……ありがと、えっと、食べながらでも?」
「だめなら僕が食べてるよ。気兼ねしないで」
「んふー、そゆとこ好きー」
そういうと彼女は、満面の笑みを浮かべて飾りの生クリームをスプーンで掬う。とりあえず、僕は相手のペースに合わせることにしてコーヒーをもう一啜りした、
「……そうそう、現状明らかな被害者は二人。
「パフェ、食べ終わってからでもいいんだよ?」
「いいのいいの。なんかその辺の感覚だいぶおかしくなっちゃって。で、えー、そう、二人とも夕方……16時頃が死亡推定時刻。発見したのは一般人ね」
パフェの山を崩しながら、天気の話でもするように事件についてつらつらと話す女子高生。日常ってこういうものなのだろうか。多分違うのだろうということしか、僕にはわからない。
彼女はそんな雑談の表情の上に真顔の仮面を貼り付け、さっと周囲を見渡すと……ごくごく小規模な"ワーディング"を展開した。
そんな"ワーディング"下で、九頭見は再度言葉を紡いだ。
「それでー、あれ、あれ。なんでこの状況だけで"レネゲイドビーイングの仕業だって断言できてるか"」
「確かに気になる。支部長が断言してたってことは"スターターピストル"にも流した情報だよね?」
「んん、そうそう。まあ、単純に目撃者がいたんだよね。鵬さんの友人、
「学校の後輩かぁ……大丈夫なの?」
僕の問いかけに、彼女は少し眉を顰めた。
「口封じ対策ねー……まあ、一応口止めはしてる。UGNにも報告してあるし……不安要素ではあるけどね」
九頭見はそう言って空になったパフェの容器を机に置き、軽く背伸びをした。
「ってことで、彼女に会って話を聞きたいなら仲介料よろしくね」
「抜け目ないなぁ……ところで、さっき"なにか"と話してたよね。プラスの情報もあったりする?」
既知情報共有だけなら、わざわざ能力を使ってまでなにかを調べる必要はない。そう踏んで尋ねた言葉が琴線に触れたみたいで、"リターナー"は顔を綻ばせた。
「うわー……同じ言葉、お返しするよ。ほんとティル君好き。うちの支部の脳みそまで筋肉な子と交代してくんない?」
「僕は構わないけど、こっちの支部に子守役いないから……無理かも」
「だよねー……っと、本題本題。今回の件の裏に、要注意人物が見え隠れしてる、って話ね」
ちょいちょいと手招く女子高生の誘うがままに顔を寄せると、耳元に温もりを感じた。子供がやるように両手を覆いにして、ひそひそ話をするつもりらしい。
「"パーガトリ―"ってコードネーム。以前にもレネゲイドビーイング関連で事件を起こしてるらしいの。気を付けて」
「ん……ありがと。"ワーディング"中だけどひそひそ話する意味、ある?」
その言葉を待っていた、とばかりに九頭見は満面の笑みを浮かべ、軽く小首を傾げた。僕が苔じゃなかったら、何かその仕草に感じるものがあったんだろうか。でも、人間じゃないしなぁ。
「……やりたかったからじゃ、だめ?」
「そういうのは勘違いしてくれる人にやるといいよ」
「ちぇー」
途端に頬を膨らませてふて腐れる少女。なんとも目まぐるしく変わる表情だ。とりあえず、残ったコーヒーをぐいと飲みこむ。すっかり温くなった黒色の液体が、自分の一部になる感覚。
「……ありがと。お代はまた支部に出しておいて」
「はいはーい。またご贔屓に」
立ち上がって別れを告げると、ひらひらと手を振って見送られた。彼女はどうやら、まだ食べたりないらしい。……あるいは、学校に戻るのが嫌なのかもしれない。彼女が"ワーディング"を解除するなり、レジに佇んでいた店員が我に返ったように僕の顔を見た。
僕は、苦笑いを返して、そっとレジの横にコーヒー代の500円を置いた、
ほんと、今回は安請け合いだったかもしれない。
―――――――――以下、
→情報収集フェイズ1
ティルクーニア「情報:UGNで被害者情報について調べる」
この場合社会の能力値分の10面ダイスを振り、10が出たダイスを振りなおし、最終的に出た目の中で一番大きい数+10がでた回数×10(振りなおした回数×10)+情報:UGNの数字が達成値になる。
ティルクーニアは社会が5、情報:UGNの技能値が2あるためダイスを5つ振る。
今回はツイッターのアンケートを利用して達成値を出したが……
5dx@10+2→26
……次回は達成値をどうやって出すか要検討
基本的にダブルクロスで能力を使わないダイスの結果が10超えることは滅多にない。ので、クリティカルな情報でも12であることが多い。つまり……26とかになった今回の被害者情報については、まるっと出た上おまけがつくレベル。
情報1(目標値5)、
情報2(目標値7)、16時頃の夕方に繁華街の裏路地で発見されている。ワーディングの気配はなかった模様。
情報3(おまけ) 、レネゲイドビーイングの関与が疑われているのは逃げることに成功した鵬の友人、
情報4(おまけ) 、"パーガトリ―"というコードネームの、過去レネゲイドビーイング事件に関わったことのある人物が周辺で活動しているとの情報が入っている。
次回 → 情報収集フェイズ 2
この場合の行動指針は4つ
1、RBの元になっている「コトリバコ」の噂を調べる(情報:噂話)
2、RB:"コトリバコ"についての情報を調べる(情報:裏社会、情報:UGN)
3、雛山にコンタクトを取る
4、"パーガトリ―"についての情報を調べる(情報:裏社会、情報:UGN)
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