#2 だいたいきょひけんはない

 呼ばれるままに、僕はUGN……人類の盾となる組織ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク与持あともち市支部の狭い廊下を歩いていた。各地に存在する支部毎に特色は異なるらしいんだけれど、この支部の長は特に変わり種らしい。不動産業を営んでいる傍ら、風俗業やインターネットカフェといった業務にも手広く手を伸ばしている。それで小さな支部にも関わらず、"イージス"のように日向の世界を歩けない三人のエージェントと、一人分の苔ぼくを抱えるほどの資金がある。実際、試験管の中で生活していたことを考えれば6畳と水道出し放題は破格の待遇だと思う。


 表向き老朽化の進んだマンションとして売りに出されている、借り手のつかない「マンション平坂 Ⅲ」の薄汚れた廊下の突き当り。301号室が支部長の部屋だ。よく物を忘れる僕にとって、突き当りというシンプルな場所は本当にありがたい。前高寄たかぎ市支部にいたときは図書館が隠れ蓑で、何番目の棚の何番目の本を貸出カウンターに持っていく、というややこしい方法でないと支部長の部屋に入れなかった。……最終的に呆れた支部長が、手書きのメモをカウンターに渡すという手立てを取ってくれたっけ。あの時は子供を見る目で見られてた気がする。仕方ないじゃん、苔なんだし。


 そんな風にぼんやり考えながら、301号室の扉を軽く叩く。ノックを三回。形式だけのノックの後、ゆっくりと扉を引いた。割とすぐ僕でも気軽に開けられる重さ。中は他の部屋同様、開けた途端に6畳ほどの居住スペースが待ち構えているプライバシーのない見晴らしの良い空間だった。……中央に置かれたソファを除けば。緑色のふかふかのソファには無精ひげの不健康そうな壮年が一人。言うまでもなく、支部長だ。


「やぁもすくん。今日は君に頼みがあって呼んだんだ」


 人懐っこそうな笑顔を浮かべる痩せぎすの男。ラフに青いジャージを羽織り、軽く会釈している。僕は床に軽く座り、話を促すように顔を見た。


「……あー、"コトリバコ"って知ってる?」

「都市伝説でしたっけ、ネット発の……それで僕が呼ばれたってことは」

「察しが良くて助かるよ」


にや、と軽い笑顔を浮かべる支部長。


「そんな噂話の流行と、それをなぞらえたような不審死……悪性情報由来の怪異オリジン:レジェンドが、おそらく発端と思われる」


オリジン。僕らレネゲイド生命体……通称:レネゲイド・ビーイングの、言ってしまえばベースになるものを大別する呼称だ。うわさ話や都市伝説などの情報レジェンド動物をモデルにした生命アニマル、僕のような集団を個とする群体コロニーを含めて、大きく7種類に分類されている。僕たちは人間を観察する、あるいはベースになった存在の意識を継いで行動する……目的は様々だけれど、いずれにせよ目立たず活動するために、人の形をとっていることが多い。それをレネゲイド・ビーイングと見破れるのは、同類だけだ。つまり――。


「まぁ、人死にも二人出ちゃってるし、これ以上後手に回るわけにはいかないんだよね。見つけ出してぶっ潰しておいて」

「"イージス"は?」

「彼は防衛向きだからね。受け身になる」

「"ヨダカ"ちゃん」

「夜勤担当だから夜は彼女に任せたまえ」

「えーと、"スターターピストル"……」

「絶賛調査中、優秀だね」


つまり――僕以上に適任はいないということで。


「さて……受けてくれるね、"先史者エルダー"……ティルクーニア君?」


それは、つまり断れないということで。

僕はしぶしぶながら、今回同類殺しダブルクロス」を引き受けることにした。

目論見通りって、支部長の笑顔にため息をつきながら――。














―――――――――以下、内部処理GM・PL視点のメタ情報―――――――――

→オープニングフェイズ インフォメーション

情報1、「コトリバコ」についての事件である。

情報2、被害者が二人出ている。

情報3、恐らく今回の事件はレネゲイドビーイングによるものである。


次回 → 情報収集フェイズ 1

この場合の行動指針は3つ

1、RBの元になっている「コトリバコ」の噂を調べる(情報:噂話)

2、RB:"コトリバコ"についての情報を調べる(情報:裏社会、情報:UGN)

3、被害者情報について調べ、共通点や襲撃傾向を調べる(情報:警察、情報:インターネット、情報:UGN)

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