僕がとうこさんにふられるまでの記録 2
いつもより長く待ち遠しく感じられた一週間が過ぎ、果たしてとうこさんはたしかに、前と同じ講義室、前と同じ席に座っていた。長机に近づいた僕の姿を認めると、すこし微笑んで「おはようございます」とあいさつしてくれた。
今日のとうこさんは半袖の薄い青のブラウスに、ふんわりした長い黒のスカート。
僕はとうこさんのとなりに、ひとりぶんのスペースをあけて座る。鞄はとうこさんと反対側に置いた。
その日は講義のまえに、それから講義のあとも、それぞれ十分くらい会話をした。出身地や大学生活の話。とうこさんは四国の出身で、上京して学生向けの物件で独り暮らしをしている。サークル活動は募集期間に入り損ねてしまい迷っているところ。そろそろアルバイトをはじめようかと思っている。
この日はとうこさんからもいくつか僕のことを聞かれた。趣味とかサークルとか。
僕はといえば、趣味についてはあまり熱くなりすぎないように注意して、とうこさんが興味を持ってくれそうな、専門的すぎないレベルで話すように心がけていた。
話をしているあいだは、僕にとって本当に楽しい時間だった。
「そろそろ次の講義に行かないと……ありがとうございました」
とうこさんは頭を下げた。僕はあわてて「いいよ」と言う。
「それでは、また……」
「また」ととうこさんが言ってくれたので、僕ははっとして、気が付いたら言葉が出ていた。
「あ、あのさ」
「はい?」
とーこさんは穏やかな顔で、僕の言葉を待っている。
僕はつばを飲み込む。
「今度よかったら、ご飯でも」僕はカバンの肩紐をぎゅっと握っていた。「どうかな」
とーこさんはちょっと眼を丸くして、それから小首をかしげて微笑んだ。
「はい、だいじょうぶですよ」
やった、と声に出てしまいそうなのを抑えて、僕は平静を装って言う。
「じゃあ、来週、予定決めようよ。いまは次の講義急がないとだよね」
「あ、そうでした。それじゃあまた、来週に……」
「うん、またね」
「おつかれさまでした」
挨拶すると、とうこさんは小走りに次の講義へと向かって行った。僕はその後ろ姿をじっと見つめていた。
また待ち遠しい一週間が始まる。
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