第15話 ベルクザータ

(広大な屋敷で、ピアノの伴奏が響いている)

ベルクザータ:(とても嬉しそうに鍵盤をはじく。ピアノの上に、鷲ほどの大きさほどのある、全身真っ青な鳥が降り立つ)

ルイ:「ベル、今日はとても機嫌がいいな。勇者を始末出来た他に、何か……、良いことでもあったのか?」

ベルクザータ:(ピアノの演奏を止め)「ルイ。…そうだよ、とってもいいことがあったんだ。今日、ようやく………。ボクの対と会えた」

ルイ:(顔色を一瞬で変え)「何……?!」

ベルクザータ:(ルイの様子を気にも留めず)「想像していた雰囲気とは違っていて驚いた。ボクに、「理を壊そうとしているのに、運命や宿命に縛られるのか」、と嘲るように言ってきたんだ」(本当に嬉しそうに笑う)

ルイ:(心底呆れたように)「お前という奴は……」

ベルクザータ:「また会える時が楽しみで堪らないんだ。こんなことは初めてで、とても嬉しい」

ルイ:「…神秘である帚木と、お前の対である母性の帚木は、決して共に生きることが叶わない存在だ。気を引き締めろ」

ベルクザータ:(鍵盤を一つはじく)「………それがそうでもないみたいなんだ」

ルイ:(訝しげにベルクザータを見る)

ベルクザータ:「置き土産はしておきたいと思って、勇者を攻撃したよ。それと同時進行で、ボクの対にも悪戯したんだ」

ルイ:「………訊きたくはないが、どんな悪戯をした?」

ベルクザータ:「別に、大したことではないよ。ただの口づけ程度だ」

ルイ:(頭痛がしそうになるのを抑えて)「………それはお前にとっての大したことでない、だ! 他の者達は違う!」

ベルクザータ:「他の人間なんて知らないよ。ボクの基準で行動して結果をだせれば、それでいい」

ルイ:「…お前は根本的な対人関係を真っ当に学べ」(ため息を吐き)

ベルクザータ:「学んで役に立つならね。表向きだけでも取り繕っておけば、人間関係なんて穏便に運ぶ。まあ、それはいいとして。本当に気紛れだったんだけどね……。口づけた瞬間、一気に身体に今まで感じた以上の力の奔流を感じたんだ。試しに置き土産の勇者にぶつけたら、あっけなく死んだ」

ルイ:(途惑ったように)「………それは、」

ベルクザータ:「過去の神秘の帚木は、そういったことは試したことがない?」(首を傾げながら、ルイに尋ねる)

ルイ:(今だ困惑した表情のまま)「…ないな。歴代の神秘の帚木は、自分の対を殺すぐらいなら、と閉じ込めようとしたが、当然抗われてな。結局命を奪うしかなかった」

ベルクザータ:「それならば、試してみる価値はある。そのお陰で余計なものを消し去る期間が短縮された」

ルイ:「………確かに、な。だが、勇者と聖女側には既に伝わっているはずだ。【扶桑】の再来を。ここからは、気を抜いたら命取りになるぞ」

ベルクザータ:「充分わかっているよ。でもね、ルイ。創られた箱庭で崇められているだけの存在に、ボクは足元をすくわれる気は更々ない」

ルイ:「………それならば良い。どうせ己の対である帚木と出会ったことを、花奴隷達には教えていないのだろうがな」

ベルクザータ:「流石ルイだね。ボクのことをよくわかっている」(殊更楽しげに笑い、ピアノの演奏を再開する)

ルイ:(呆れた眼差しでベルクザータを見、首を振って他の部屋へと飛び立つ)



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