第11話 せめぎ合う願いと決意

ナレーション(エルローズ):テオを話した夜の出来事から、私は自分の殻に閉じ籠ることを止めた。命の危機が迫っているのに、塞ぎ込んでばかりはいられない。一週間近くまともに食事をしていなかったから、体力が戻るまでに時間がかかってしまった。まず私が取り組んだのは、神聖な花と花奴隷達の匂いを嗅ぎ分ける練習だった。帚木だけがその匂いを嗅ぎ取れる、というのなら、必須事項である。匂いの嗅ぎ分けの訓練は、思いのほかスムーズに終了した。これが帚木の予備能力なのだろうか?、と首を傾げたものだ。

その後はテオとブレスさんの協力で指導に来てくれた方達から、護身術を習う日々。こればっかりは、個人差があると何度も断念しかけたくなった。そんな中で、気分転換という名目でクリフトと共に街へ繰り出したのだ。正直、何も知らされていないのであれば、勇者も聖女にも非を望むことなど出来ない。けれど、出会った瞬間、驚愕の次に湧き上がった感情は激しいほどの嫌悪感だった。ブレスさん、テオ、クリフトは己の運命を受け入れている。神秘の帚木の側にいる花奴隷もそうなのだろう。そんなことを一切知らず、幸せそうに先の未来を他者に話す姿は、我慢が出来ないほど煮え滾るものがあった。他者に不快なことはしない、とお父さんとお母さんから教わってきたことさえ無視してしまうほど。それと同時に感じた焦燥感。何かが神聖な花の側で起こっている。それに気付いていない。出来るなら、出来るならばッ、もう一人の帚木と争いたくなんてない。けれど、私は殺されるのも、閉じ込められるのも嫌だ! 大切な人達と共に生きていきたいのだ。

余談であるが、私の実年齢を知った時のブレスさん以外の反応はおして知るべし。童顔で小さいのはどうしようもないじゃないか。食事を食べられるようになった折、ステーキ皿を六十枚完食し、ブレスさんを含めて更に唖然をされてしまった。「どこにその量が消えてんの?!」、とテオには言われたが、物心がついた頃からこの食欲量でした。年々ヒートアップしてるけど。ブレスさんとクリフト、テオ、ナコには、お父さんとお母さんが呼ぶ私の愛称を教えた。これから長い付き合いになるだろうことは想像に難くないので、親睦の意味もある。



(一週間後、催事当日)

クリフト:「スゴイ! 二人共、よくお似合いで綺麗です~!」

エルローズ:(ショートラインのドレスに身を包み)「そうかな……? ドレスなんて着たこともないからわからない」

テオ:(両肩が隠れる、ベルラインのドレスを着用し、左腕はショールを巻いて包帯を見せないようにしている)「……まあ、しょっちゅうこんなドレスを着回せる方達が凄いんでしょ」

エルローズ:「…凄い嫌味」

クリフト:「エルシャさん、ブレス様が出掛ける前に自分の所に来てほしい、と言付かっています」

エルローズ:「そうなの? わかった。行ってくる。テオはもう出掛ける準備してて」

テオ:「了解」

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