第7話 宿命の重さ

(数秒間、あるいは数分間、室内を静寂が包み込む)

エルローズ:「……花奴隷は、一体どんな役割を持つ存在なのですか?」

テオ:「簡単に言えば、依り代」

エルローズ:「依り代…?」

ブレス:(微笑みながら)「十二の花の依り代、というのが常識となっていますから、その反応は致し方ありませんね。花奴隷は、二つの依り代となる、と言ったほうが適切です」

エルローズ:「二つ?」

ブレス:(頷きながら)「花の依り代に選ばれることはもちろんですが、もう一つ、十二の神聖な花の依り代となるのです」

エルローズ:(首を傾げる)

クリフト:「十二の神聖な花に選ばれた人間は、【魔法】という誰もが憧れる力を手にすることが出来ますが、万能ではないんです」

ナコ:「おおきなちからをえるには、それとどうとうのたいかがひつよう。でも、ゆうしゃやせいじょにそれをもとめることはできないから」

テオ:「等価交換、みたいなもの」

エルローズ:「対価……」(何故か、冷や汗が流れ落ち、心臓が妙な音をたてはじめる)

ブレス:「……この短時間で接しておりますが、エルローズ様は聡明だとお見受けしました。既にワタクシ達が言ったことの顛末も想像が出来ているのではありませんか?」

エルローズ:(ブレスの瞳から目を逸らすことが出来ないが、それと同時に身体が少しずつ震えはじめていることにも気付く)

ブレス:「ワタクシ達花奴隷が、神聖な花に選ばれた方達の【魔法】という大きな対価を命を削ることで支払っているのです。故に、花奴隷は皆短命です」

エルローズ:(顔がハッキリとわかるほど真っ青になっているが、本人は自覚していない)

ナコ:(エルローズの手に頬をすり寄せる)

クリフト:「神聖な花に選ばれた方達と違い、僕達花奴隷は、幾度もの周期で代替わりします。物心がつかない頃に選ばれる人もいれば、子ども時代に選ばれる人、と様々なんです」

テオ:「神聖な花に選ばれる人間は、物心がついていない時分が圧倒的に多いな」

エルローズ:(震える手の中に居るナコを見つめながら)「(どうして……。どうして、この人達はッ。まるで自分の出来事ではないように語れるの?!)」

ブレス:「ここまでは、ご理解いただけましたか。エルローズ様?」

エルローズ:(鷹揚に頷く)

ブレス:「では………。ここから話すことが、エルローズ様のご両親である、カハール様とリュシーナ様が生涯隠し通したかったことです」

エルローズ:(ノロノロと顔を上げる)

ブレス:「伝説では、【扶桑】と名付けられた者が帚木である、と言いましたが、そもそも帚木とは、十二の神聖な花と対になる存在なのです。違うことは、その身に花奴隷のような依り代を必要とせず、十二の神聖な花と同等の力を授かっているんです」

テオ:「と言っても、帚木も一枚岩ではない」

エルローズ:「え……?」

ブレス:「本当に限られた者達にしか伝えられないことですが、帚木は二対一体の存在なのです」

エルローズ:「二対一体…? ……それは、帚木が二人、存在する、ということですか…?」

テオ:「話が早くて助かる。帚木は、【神秘】と【母性】を象徴し、加護する者に分かれている」

クリフト:「エルローズさんは母性を加護する帚木なんですよ」

エルローズ:「ちょ、ちょっと待って下さい! どうして私が母性を象徴している側だとわかるんですか?!」

テオ:「神秘を象徴と加護する帚木が既に確認されているから」

エルローズ:(驚愕に目を見開く)

ブレス:「ただ………。帚木は二対一体、という存在でありながら、複雑なのです。表と裏、隣合わせの存在であるにも関わらず、両者が交じり合うことは決して出来ません」

エルローズ:「何故………、ですか?」

テオ:「何故かは自分達も知らない。誰も知らない。伝説上の昔からそうだった。帚木である己の力を真に発揮したくても、片割れの帚木の存在がある限りは無理」

ブレス:(エルローズの瞳を真剣に見返し)「双方の帚木が真の力を得る為には………、もう一人の自分ともいうべき存在を永久的に閉じ込めるか………」(哀しげに瞳を揺らし)「命を絶つしかないのです。己の手で」

エルローズ:(全ての音や景色が遠ざかったような感覚を受ける)

ブレス:「カハール様とリュシーナ様は、そんな世界の勝手な諍いに、娘を巻き込みたくはない、と言い、中枢の人間達の言葉を無視して、田舎のほうに移られて………」

エルローズ:(そこで、全ての感覚が暗転する)


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