第6話 花奴隷

エルローズ:「………改めて、エルローズ・伝承・ベルニアです」(頭を下げる)

ブレス:「さて……、カハール様とリュシーナ様からお伺いしておりますが、エルローズ様はこちら側のことを何一つ教えられていないのですよね?」

エルローズ:(顔を上げて)「父と母をご存知なんですか?!」

ブレス:(優しく微笑みながら)「はい。定期的に連絡を取らせていただいておりました」

エルローズ:「父と母がどうなったか知りませんか?!」

ブレス:「大丈夫です。連絡を取ることは出来ませんが、命は保障致します」

エルローズ:(気が抜けたような表情になり、顔を両手で覆い、俯く)「………良かった」

ブレス:(そんなエルローズの様子を優しい瞳で見つめ)「これからお話することが本題なのですが…」

エルローズ:(突然服のポケットから光が溢れ、気が付くとエルローズの肩の上にナコがのっている)「ナコ?!」

ナコ:「ようやくでてこられた~」

クリフト・テオ:「「うわぁ!」」(ナコが喋ると、驚いて身体をのけ反らせる)

ナコ:(クリフトとテオを見て)「しつれいなっ!」

ブレス:(ナコの存在に目を見開くものの動じず)「…もしかして、歴代の帚木のお傍に存在するとされる神獣様でしょうか?」

ナコ:「うん!」

エルローズ:(一拍おいた後)「神獣?!」(肩の上にのっているナコを勢いよく凝視する)

ナコ:「そうだよ。ナコはおおむかしからははきぎのそばにいたしんじゅう」

エルローズ「………全然神獣に見えない」

ナコ:「エルローズひどい!」(長い耳でエルローズを叩くが、ちっとも痛くない)

エルローズ:「いや、一般的に見ても、の意見」(ナコを肩から降ろして、膝に座らせる)

ブレス:(微笑みながら)「ナコ様の登場で、更にお話がしやすくはなりました」

ナコ:「よびすてでいいよ。えっと、アジサイ?」

ブレス:「はい」

ナコ:(クリフトとテオを見て)「それにトリカブトとマツムシソウ、だよね?」

エルローズ:(ナコに怪訝な表情で)「それは名前じゃないよ、ナコ。花だよ」

テオ:「……いや、合っている」

クリフト:「流石、帚木の神獣様もおわかりになられるんですね」

エルローズ:「えっと…、どういう……」

ブレス:「それを説明する前に、まずは前段階のお話が必要ですね。エルローズ様は十二の神聖な花がどの花を象徴されているか知っておられますか?」

エルローズ:(ブレスの問いに頷き)「薔薇、牡丹、カトレア、ダリア、百合、蓮、ラン、向日葵、アマリリス、木蓮、フヨウ、桜。ですよね。」

ブレス:(にこやかに頷き)「それでは、扶桑の伝説はご存知ですか?」

エルローズ:(キョトン、とした後、思い出すように逡巡した後)「『神聖なる花を全て喰らい尽くし、世界の終焉と新たな世の始まりを紡ぐと伝えられる存在。歴史上において二人の【扶桑】の存在が確認されており、この二人の【扶桑】が存在した時代はどちらも歴史上の転換期とされ、混迷を極めている。』」

ブレス:「そうです。そして、一般には出回っておりませんが、その伝説には続きがあるのです。『この二名の【扶桑】はどちらも自身のことを《帚木》だと語っていたと記されている。』」

エルローズ:(傍にあったカップを取ろうとして取り落とし、茶器からお茶が滴り落ちる)

クリフト:(すぐに茶器を整え、布巾で零れたお茶を拭きとり、扉の外に居た使用人に布巾を手渡す)

テオ:(空になったエルローズのカップに、再びお茶を注ぐ)

エルローズ:(そんな二人の様子に気付かないほど、頭の中が混乱し、両手でおさえる)「え…? えっ?」

ナコ:(エルローズの膝の上で)「おちついて、エルローズ。ブレスはまだ、しんじつをちょっとだけはなしただけだよ」

ブレス:「……ここから先のお話は、十二の神聖な花に選ばれた方達ですら知らないことです。世界の中枢に身を置くことが出来ても、信頼されなければ、この事実を知ることは叶いません。それだけのお話だと思っていただければ幸いです。………本当ならば、エルローズ様の気持ちを慮りながら話したいのですが、エルローズ様には、その時間すら与えられないのです。お許し下さい」(エルローズに向かって、深々と頭を下げる)

エルローズ:(ブレスの言動に、幾ばくか落ち着きを取り戻し、深呼吸を繰り返す)「………わかりました。私も真実が知りたいです。どうか話して下さい」

ブレス:「…エルローズ様、この世界には十二の神聖な花に選ばれた方達以外に、【花奴隷】、と呼ばれる者達が存在致します」

エルローズ:「花……ど、れい?」

ブレス:(ゆっくりと頷き)「花奴隷の存在こそ、世界が最も隠したい存在。帚木よりも」

テオ:「…十二の神聖な花が、魔法勇者と魔法聖女を選ぶように、花奴隷もまた、選ばれて成り立つ存在」

クリフト:(苦笑しつつ)「十二の神聖な花と対を成すように、こちらも十二の花から選ばれるんです」

エルローズ:「どんな花ですか…?」

ブレス:「リンドウ、クロユリ、メハジキ、オシロイバナ、アリウム、彼岸花、イラクサ、ガマズミ、キスツス。そして紫陽花、トリカブト、マツムシソウです」

エルローズ:「え…ッ」

ブレス:「ワタクシとテオ、クリフトは花奴隷に選ばれた者です」



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