第4話 不思議な生物

(朝日の中、湖の畔で、エルローズは目を覚ます)

エルローズ:「ウッ………」(ゆっくりと起き上がり、辺りを見回した後、自分の身体を見る)「泥だらけ……。まあ、森の中に入っても走って転んでたから仕方ないけど」(湖の水で顔と手を洗い、リュックの中を漁ってタオルを取り出す。そのタオルを水に浸し、服の汚れを出来るだけ落とす)

「そういえば…、リュックの中にメモが入ってるって、お母さんが……ッ」(再びリュックの中を漁りはじめ、ポケットの中にメモを見つける。急いでメモを見ると、地図に印がつけてある)「この場所に、お母さん達が連絡した人が待ってる……?」(メモを片手に、草むらに寝転がる)

「何がどうなってるんだろう………」(ふと、気配を感じて顔を横に向けると、大きな身体をした猛獣がこちらを見ている。それにさして驚くことなく、手で招く)

(猛獣はエルローズの傍まで来ると、暴れることも襲い掛かることもなく、隣に座り込み、エルローズの手で気持ち良さそうに撫でられている)「これからのことを考えるにも、情報が少な過ぎる………。お母さんとお父さんが連絡した人に会うのが先決か…」(暫くの間、獣の身体をボンヤリと撫でていると、朝日にリュックの中にある何かが煌めく。リュックの中で光りに反射していたのは、とても凝った細工の施されたコンパクトだった)

「綺麗……。何だろう、これ…」(コンパクトに手を掛けた瞬間、視界を朱色のフサフサなもので塞がれる)

ナコ:「おなかすいた~……」

エルローズ:「へ?!」

ナコ:(パチパチと大きな目を瞬かせて、エルローズを見る)「おなかすいた~」

エルローズ:(呆然と、自分の両手に収まっている朱色の物体を眺める)「(な、何?!! この耳がウサギのように長いのに身体が丸まった掌サイズの動物?! いやいや! そもそも動物が言葉を喋れるかッッ!)」

ナコ:「ナコはナコっていうの。なまえきいてもいい?」

エルローズ:「え?! あ……、私はエルローズ…、だよ」

ナコ:「エルローズ? きれいななまえだね! ね、エルローズ、ナコおなかがすい………、きゃあ!」(エルローズの肩に飛び乗り、身を縮こまらせる)

エルローズ:「え?! ど、どうかした?!」

ナコ:(震えながら)「に、にくしょくじゅうのトラカがいる……」

エルローズ:「ああ………、この子は大丈夫だよ。大人しいし。ていうか、私が近付くと、動物は皆何故か大人しくなるんだ」

ナコ:(顔を上げて)「え?」

エルローズ:「物心ついた頃からそう。どうしてなのかはわからないんだけど」(トラカの頭を撫でながら)「…お腹がすいてるんだよね。私もなんだ。何かあるかな………」(リュックの中を物色し、食糧を取り出してナコとトラカにも分ける)

ナコ:(口いっぱいに食糧を頬張りながら)「エルローズ、は、ははきぎ、としては、まだみせいじゅくだけど、やっぱり、ちから、はもってるん、だね」

エルローズ:(食糧を口に放り込んで咀嚼し、ナコを再び両手で抱える)「全部食べてから喋りなよ。行儀が悪いから」

ナコ:(頬を膨らませながら、頷く)

エルローズ:(ナコの頬を指でつつく)「(可愛い…)………それにしても、帚木?、って何のこと?」

ナコ:(食糧を咀嚼し、水を飲ませてもらい、一息つく)「あれ? しらないの?」

エルローズ:「知らないから訊いてる」

ナコ:(首を傾げながら)「ナコがおもてにでてこられるのは、ははきぎのちからをかりてだから。でも……、エルローズはほんとうにしらないみたい。ふつうは、うまれたときにわかるものだから、おやからきいてるとおもった」

エルローズ:「知らない。お父さんもお母さんも何も………ッ」(話している内にハッ、とする)「(もしかして……、今のわからない状況はそのせい?!)ナコ! 何か知ってるなら教えてッ!」

ナコ:(考え込むように暫し黙り)「………エルローズは、これからだれかとあうんじゃない?」

エルローズ:「そうだけど…」

ナコ:「だったら、ナコよりもくわしくはなせるひとがきっといるはずだよ。ナコはぜんぶしってるわけじゃないもん。まずはあうひととあわないと」

エルローズ:(逡巡しながらも)「………そうだね」

ナコ:「じゃあ、ナコはまたかがみのなかにもどるね!」

エルローズ:「え?!」

ナコ:「ナコは、あんまりひとめについちゃいけないんでしょ? いぜんのははきぎがそういってたよ」

エルローズ:「(た、確かに…。可愛いけど、見たことがないような動物だし、突然喋り出されたらフォローに困る。それ以前に……、連れて歩いているだけで悪目立ちするに決まってる!)わ、わかった」

ナコ:「またね、エルローズ!」(再びコンパクトが光り、一瞬の後、ナコの姿はいなくなる)

エルローズ:(手に残されているコンパクトを見つめて)「わけわかんないことばっかりだぁ………!」(トラカの身体に寝そべる)



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