第2話
【 青の谷へ 】
『 ピキが いない!』
『 さっきまで、そこにいたけど。』
『トイレだよ。』
『・・・・・』
『ピキー!どこ?』
3人はピキを探した。声を限りに名を呼んだ。
『 ピーキー!』
すると、谷川の方から白い物体が
こちらへ駆け登ってきた。
『 いた!ほら、あそこ。』と、
『ピキ!』
御庭はピキに走り寄った。
『こら!心配するじゃないの、めっ‼︎』
御庭はピキを抱き上げ、頭をコツンとやった。
『ピキ、どうしたの?これ。
おでこにコブができてるじゃない!』
御庭はピキの額を撫でて、
痛い?と聞いた。
『あー、ほんとだ。
どこかに ぶつけたんだよ。』
痛そうだな、と尚もピキの額にできた
コブの様なものを触って言った。
『あっ!見て!』
『あそこに谷に下りる道があるんだ。
探してきてくれたんだね。
よくやったぞ、ピキ。』
凄いぞ、賢いぞ、
そう言って慎はピキの頭を撫でた。
ピキは3人を断崖絶壁の谷あいに架かっている、
吊り橋の所へ連れていった。
崖と崖との間の峡谷が、
5本の吊り橋でつながっている。
その先に、崖づたいに造られた細い道が見えた。
下は谷川が流れる溪谷、非常に危険な所だった。
だが、
この吊り橋を渡っていく
3人は覚悟を決めた。
お互いの身体を
尚を先頭に
溪谷から吹き上げてくる風に
右へ左へと大きく揺れる吊り橋を
慎重に渡って行った。
1本目、2本目、3本目…、
そして4本目までは何とか無事に渡れたが
最後の5本目に差し掛かる手前の
ひときわ狭い崖づたいの道で
急に慎の足元が崩れ落ちた。
足元にあった岩が小さな米粒ほどの
大きさになって溪谷へ落ちていく。
慎は見えない左目のせいで
バランスの取りづらい身体だった。
ふだん、歩いている時も身体が右へ傾く。
『うわ…っ!助けて‼︎』
慎の身体は崖から宙吊りになった。
『慎、がんばって!』
『慎、その岩に足を掛けろ!』
『右だ、もう少し右!』
ふたりは叫びながら縄を引っ張ったが
縄は慎の重さに耐え切れず、
ブチッと切れてしまった。
『 わぁぁぁぁーっ・・・!』
慎は真っ逆さまに溪谷へ落ちていった。
『 ピキーィ!キュルルルル・・・・』
と、ピキがひと声鳴いた瞬間、
辺りに目の眩むようなような閃光が走った。
そして、信じられないことが起きた。
小さなピキが飛んだ!
ピキは落ちていく慎の後を追いかけて
慎とピキは溪谷へ
吸い込まれるように姿を消した。
『慎!』
『ピキー!』
『慎が…、ピキが死んじゃったよう、、』
泣きじゃくる御庭に尚は言った。
『御庭!まだ慎が死んだとは決まってない。
ピキには何か不思議な力があるみたいだ。
大丈夫、きっと無事だよ。』
ここで、止まっているわけには いかないと、
尚は御庭を励ました。
ふたりは崖道を先へと進んで行った。
崖から落ちた慎は、すんでの所を
三途の川を渡る代わりに谷川を渡った。
ピキは河原の大岩の上へ慎を降ろした。
(・・・・・。)
慎は頭の中が真っ白になった。
自分の身に何が起こったのか
理解できずにいた。
崖から落ちたあの時
・・終わった。短い人生だったな、
と思っていたが、自分は生きている。
ピキのおかげであの世に逝かずに済んだのだ。
『ピキ、ありがとう。
おまえのおかげで助かったよ。
けど、ピキ…、
おまえはいったい何者なんだ?』
と慎はいった。
ピキは褒められて嬉しかったのか、
ピキーィ!と鳴いて宙に舞い上がり、
慎の顔の前で宙返りをしてみせた。
『ほう、その白いのは
また、ずいぶんと変わったヤツじゃな。
面白いのが空から降ってきたと
思うておったら…。』
と、慎とピキは
河原で釣り糸を垂れている、
白髭の老人に話かけられた。
この老人こそ、
3人がめざす次の目的地、青の谷の
鳥の長と呼ばれる谷の一族の最長老、
『お前は紫の宮からの使いじゃろ?
来訪の知らせなら、すでに
『あのう…、僕、さっき崖から落ちて…』
慎は焦っていた。
一刻も早く、尚と御庭に自分の無事を
知らせたかった。
『ああ、しまった!また、逃げられたわい。』
自分の話を聞いているのか、いないのか…
蒼月は釣り糸を上げて言った。
『そろそろ、お前の仲間たちが
谷の入り口に着いた頃じゃ。
ああ、そう
お前の
心配せんでもええ、
後から連れていってやるわい。』
老人は慎の無事を一族の長に伝えるべく、
青の谷の一族の別称は" 鳥使いの民 "
それは彼らが鳥を使って情報を集め
遠く離れた仲間と連絡を取り合うから
であった。
また、一族の嫡流に生まれた者は
鳥と意志を通じ合わせる稀有な力を持つという。
青の谷の人々は
闇の民の侵略を免れた数少ない者たちだ。
余りにも奥深い秘境の地ゆえ、
さしもの黒き闇の民も
この青の谷までは
足を踏み入れること叶わず、
手を出せなかったのであった。
谷の一族の住む地、青の谷は
それほどまでに厳しい自然の中にあった。
青の谷は
青龍山脈に連なる最高峰 標高2000mの
青龍山を源に流れ出す青雲川が
急峻な谷あいに造り出した秘境である。
しぶきをあげて落下する
大小無数の滝群は四季折々に装いを変え、
観る者の目を楽しませてくれる。
青の谷の一族はこの雄大な自然の中で
山で取れる春の山菜、秋は茸や木の実、
その他、鹿や猪、川魚などの
山がもたらす恵みを糧に
鳥たちと共に暮らしていた。
また、少量ではあるが金と水晶が採れた。
ゆえに、
この谷の民たちの暮らしは とても豊かだった。
青の谷の民・
人口1000人ほどの少数民族である。
一族は血縁ごとに4つの集落に別れ、
各々が独立した村を谷あいに造って
生活している。
谷の一族の長、
今年で18歳。紫の宮の
端正な顔立ちで色白、
スラリとした背格好の美青年であった。
細面に切れ長の目。
腰まで届く亜麻色の髪は
後ろで一本の三つ編みにされ
額には一族の長たる証、
金のサークレットをつけている。
その ゆったりとした所作は
青年の出自の良さを感じさせた。
だが、この青年を最も印象づけるのは
眉目秀麗な容姿よりも
人里離れた山奥に湧く
清らかな泉が
その
全てを見透かされているような気がする。
" この人には嘘はつけない "
この
そう思わせる不思議な魅力の持ち主であった。
慎より一足先に青の谷に着いた尚と御庭は
渓流沿いのコテージに通され、
この若き長と会っていた。
(・・・あれ?
この人、どこかで会ったことがある。)
尚は思った。
そうだ、
彼は湖の地で摩文仁を亡くした時、
危うい所を助けてくれた
あの赤い瞳の若者とよく似ている。
赤い瞳を碧い瞳に
小麦色の肌を色白に換えればそっくりだ。
阿緒に会った時、
初めて会った気がしなかったのは
そのせいだったのかと思った。
『 ねえ、御庭・・・』
尚はそのことを聞こうと
隣にいる御庭に声をかけたが返事がない。
『・・・御庭?』
尚は御庭の顔を覗き込んだ。
『・・・・・。』
御庭は耳まで真っ赤になっていた。
甘いマスクの阿緒ににっこりと微笑まれ、
" ようこそ、可愛らしいお
といわれて、ぼーっとなっている。
どうやら、
阿緒の笑顔にノックアウトされたらしい。
鳥の長に連れられて
部屋に入ってきた慎とピキが
後ろに立っていることに
気づかなかったほどである。
『 慎!』
『 尚! 御庭!』
ふたりが呼び合う声で
御庭は、ようやっと慎とピキに目がいった。
『あ、よかった、無事で 。』
と、あまりにも素っ気なくいったものだから
御庭は慎に
『つれない奴・・・』と、
大ひんしゅくをかった。
『あ、そうだ、ピキ。
やっぱりお前、モモンガの子だったのね。
空飛んでたもの。』
そう言って御庭は足元にいる、ピキをだきあげていった。
ピキは、何が面白くなかったのが、
ビクーッと鳴いて御庭の鼻の頭をカプッと噛んだ。
『 痛ったぁーい!何すんのよ、ピキったら!
・・・顔は
御庭は両手で鼻を押さえながらいった。
『あのねえ、
性格は二の次。
足と顔の美しい
姉さんがいつも、そう言ってたわ。
わかった?ピキ。』
『ピックゥ…?』
『それに
オンナが
パサパサになっちゃうのよ。』
『…それも姉ちゃんが言ってたのか?』と尚。
『 そうよ!』
御庭はきっぱりと言った。
『・・・・・・。』
『 御庭…。
それ、どういう意味かわかってる?』
と、慎。
『もちろん、わかってるわ。
美しさは罪ってことでしょ?』
『 ・・・ ! 』
3人のやり取りを聞いていた阿緒は
おかしさに堪えきれず、プッと吹き出した。
そして、
『 それも、姉君が
と聞いた。
『 いいえ、母さんです。』
御庭は大真面目で応えた。
『・・・ブブッ!』
男子一同は、アハハと大笑い。
つられて御庭も笑いだした。
ちびっ子ゴーヤ騎士団の面々は
ようやく顔を揃えたのだった。
阿緒に紫の宮からの新書を渡し
参戦の承諾をもらった ちびっ子ゴーヤ騎士団は
白銀の冊封が住むという時の祠を訪ねるにあたり
その情報を阿緒に求めた。
『
3つの
まず、ひとつめ、一の瀧は滝壺が2つある、
” 二段の瀧 ”
ふたつめ、二の瀧は”
瀧幅が300mほどある難所だ。
そして、3つめの瀧。
残念ながら、この瀧についての情報が少なく
詳しいことはわからないが、
その3つめが
” 歌う銀の瀧 ”だと いわれている。
君らが目当ての
瀧の洞穴・時の
時の
夏の間、この祠で過ごすと聞いている。
ときに
少年たちよ、君らは小舟を操れるかな?』
阿緒の問いに尚と慎、
ふたりはハイ、と元気よく応えた。
『ならば、我らの くり舟をお貸ししよう。
瀧の洞穴へは
青雲川の支流、マンケ川を上って行くのが
最も近い。
マンケ川の河口は ここから直ぐだ。』
話の最後に阿緒は言った。
『 長旅の上、こんな山奥までこられたのだ。
さぞ、お疲れであろう。
日暮れも間近ゆえ、
世話方に言って、
君たちに夕餉と寝間を用意させた。
今宵はゆっくり休み、
長旅の疲れを癒されよ。
明日の朝、船着場まで ご案内する。
くり舟の支度と旅に必要な物は
今宵のうちに、我らが用意しておこう。
ご安心 召され。』
3人は阿緒の申し出を
はい、とありがたく受けた。
翌早朝、3人とピキは
阿緒をはじめ、谷の一族に送られて
船着場へ。
めざすは白銀の冊封のいる、時の祠だ。
『気をつけて行かれるがよい。
お
阿緒はそう言って、
御庭の首に綾紐を通した小さな竹笛を掛けた。
" 困った時に吹いてごらん "と言って。
『あ、あ、、ありがとうございます』
御庭は緊張したのか、真っ赤になって応えた。
『
ありがとうございました。』
『お世話になりました。』
『 帰りは青雲川の河口まで一本じゃ
下りだから楽じゃよ。一時もあれば着く。』
と、鳥の長、蒼月翁が教えてくれた。
3人とピキは阿緒や谷の一族に礼を述べ、
谷の民たちが見送る中、
用意してもらった くり舟に乗り、
青雲川の支流のひとつ
両岸にマングローブの群生林が並ぶ
マンケ川を意気揚々と上って行った。
ピィーヒョロロロロ・・・
その くり舟の後を追い
1羽のトビが青の谷から飛び立って行った。
【 三つの瀧 】
両岸のマングローブの群生林がきれ
間もなくすると、
くり舟は阿緒が言っていた一の瀧、
二段の瀧の前を通った。
水量はさほど多くはないが、
瀧壺が二段に分かれて谷川へと落ちていく様が
なんともいえず、秀麗だった。
3人とピキを乗せたくり舟は
マンケ川を更に上流へと進んだ。
だんだんと川幅が広くなってきた。
遠くでザーザーと水の流れる音がする。
3人は谷の長、阿緒が教えてくれた難所、
二の瀧が近いことを知った。
『 見て、あそこ!きっとあれが百丈の瀧よ。』
御庭の大声で左手の崖を見やると
ドーッと轟音をたてて
崖を削るようにおちる、瀑布が見えた。
『 尚ーっ!くり舟を右岸に寄せるぞ。
瀧の水流に巻き込まれる‼︎ 』
『 了解!』
『 御庭、しっかり
ピキを離すなよ。』
『 うん!
ピキこっちへおいで。離れちゃダメよ。』
御庭はピキを抱き、くり舟の
3人とピキは
この300mに及ぶ、難所を乗り切った。
川の流れが穏やかになり、
3人はようやく、ホッと一息ついた。
『あー、まいった、まいった。』
『パンツの中までビショビショだよー。』
『ちょっと、尚!どこ見てんのよ!』
と、パンツの中を覗き込む尚に御庭は
『 レディ−の前で失礼だと思わないの?』
と抗議した。
『 はあ?レディ−?
どこにいるんだよ、そんな奴。
レディ−さーん、どこですか〜?』
と尚はおどけて言った。
『 何ですって!この、アンポンタン‼︎』
『 へへーんだ!』
ふたりは いつもの口喧嘩をはじめた。
…と、突然、
ガタン、ガタンガタン・・・
急に くり舟が大きく揺れた。
『 何だ⁉︎ 』
難所を抜けたと思ったのも つかの間、
急に川が蛇行し始めた。
3人の乗ったくり舟は
あっという間に急流に巻き込まれ、
再び激しい水の洗礼を受けた。
流れが激流に変わった。
『頭を低くして前屈!』
『振り落とされるぞ、しっかり掴まれ!』
『きゃぁぁぁ・・・!』
3人とピキを乗せた くり舟は
木の葉のように水流に舞いながら
流れの先に口を開けている、
巨大な岩のトンネルに吸い込まれていった。
『 わぁぁぁぁーっ・・・』
そして、
暗闇が子供たちの行く手をふさいだ。
【 銀の瀧 】
何処からか漂ってくる
尚は目覚めた。
どうやら自分たちは くり舟の中で気を失って
いたらしい。
ピキが御庭の
漂ってくる
太陽は西に傾き始めていた。
『御庭、慎、起きて。』
尚はふたりを揺り起こした。
『う・・・ん、』
『あれ、ここは何処?』
『僕ら、トンネルの中で気を失ってたんだ。
ほら、ごらんよ。』
岩のトンネルを抜けたそこは別天地だった。
澄んだ冷たい空気
歌うように流れる水
見たこともない色とりどりの花々
たわわに実る黄色や橙、紫の果樹…。
雲ひとつない抜けるような青い空には
小鳥たちが飛び交い
緑の大地ではウサギやリス、ネズミなどの
小動物たちが戯れていた。
そして、
虹を
時を刻むように ゆったりと流れる瀧・・・
まるで、誰かが織り上げた夢の中に
迷い込んだようだった。
『・・・きれいな所。』
『 この地だけ、
時の流れが止まってるみたいだ。』
『たぶん、あれが長の言ってた銀の瀧だよ。』
3人とピキは、
その虹の映えた瀧まで行ってみることにした。
近くへ寄ると滝壺の後方から
風が吹きあげてくるのがわかった。
瀧の裏側に風の道が通っているようだ。
よく見ると、瀧の裏手に洞穴が!
『いってみよう!』
きっとここに、探す白銀の冊封はいる。
3人とピキは、喜びと期待に胸を膨らませ、
水飛沫で びしょ濡れになりながらも
瀧のカーテンの裏側へ
洞穴の中へと走って行った。
・・・が、中には誰もいなかった。
『おーい!誰かいますか?』
どこからも返事は返ってこない。
洞穴はもぬけの殻、
白銀の冊封らしき人影はなかった。
人がいた形跡すら残されていない。
せっかく、ここまで辿りついたのに…。
白銀の冊封を見つけれなければ、
守り神 暁の神獣シーサーを喚ぶ方法は
分からず
瀧のシャワーを浴びて、
びしょ濡れになったピキと3人は
銀の
ガックリと肩を落とた。
『 帰ろう、紫の宮へ。姫さまのところへ』
『 ・・・うん、そうだね。』
『 あたし、姫さまのお顔がみたい。』
まだ、お役目は終わっていない、
無事に帰って姫さまに報告するまでは...と
3人は気持ちを切り替えた。
" 困った時に吹いてごらん "
御庭は青の谷を出発する時
阿緒から渡された竹笛を何気なく吹いてみた。
ピィー・・・
鳥の鳴き声のような音がした。
『 鳥笛だね』と、慎。
『 行こう、まだまだ先は長いぞ!』と尚。
『 うん。』御庭は頷いた。
『 ピッキー‼︎』と、ピキも元気よく応えた。
『 よし、出発ーっ!』
灰色水軍の船が待つ、青雲川の河口へ!
3人とピキを乗せ
くり舟は、まるで追い風を受けるように
一気にマンケ川の流れを下っていった。
ピィーヒョロロロロ・・・
一羽のトビが
夕映えの茜空へと舞い上がっていった。
〜 つづく 〜
シーサー暁の王国ラ•ムー伝説 @Wako0128l
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