第3話 そして誰もいなくなる
あの日から、私は串刺し公と呼ばれるようになり、敵からは畏れられ、領民からは敬われるようになった。
まわりの人々は私を崇拝し、我らが神のために戦う戦士だと讃え、私は死を恐れずに戦うものだと信じた。
死を恐れない、か。全く愚かだ。
誰よりも死の恐怖を、生きることの恐怖を知っているからこそ、私はここにこうしているのに。
父が死に、母が死に、敵も味方もたくさん死んだ。私もいずれ死ぬ。戦いの果てにか、病に倒れるのか、時の流れの中で老いさらばえてかはまだ分からないが、運が良ければ簡単に死ねるだろう。
みんな死ぬ。いつかは。
だが、私が死に、国が滅び、敵を滅ぼし、この世の何もかもか死に絶え……私を知る者が、もはや誰もいなくなる日が来ても。
彼はずっとこの地に残り、深い地の底で、繰り返された戦の末に鏡のような血の海となったこの小さな墓の中で、私の恐怖として生き続ける。
昏い光として、この地を照らし続けてくれる。私を守ってくれたように、私が守ったように。
「私は死んでも、天国の門には入れない。それだけのことをした」
「だいじょうぶ。ここに戻ってくるだけ」
彼の言葉に、私たちは声をあげて笑った。
敵の血にまみれ、自らの血にまみれて、私は最期の時まで笑っていることだろう。
いかなる神でさえ私たちを引き離すことはできない。何者にも分たれることはない。
あの日、ふたりで流した血が、私たちを永遠にこの場につなぎ止めてくれるのだから。
私の名はヴラド三世、ヴラディスラウス・ドラクリア、ヴァラキア公国の君主である。
ヴァラキア公ふたり 猫屋梵天堂本舗 @betty05
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