鳥谷「どうすりゃいいんだ…」

@Alicecry

鳥谷「どうすりゃいいんだ…」

本拠地、甲子園球場で迎えた読売戦

先発メッセンジャーが8回の好投もいつも通り勝ちが付かず、ゴメスのポロリ、範囲も狭いし息も合わない二遊間、打線も鳥谷の送球も勢いを見せず惜敗だった

スタジアムに響くファンのため息、どこからか聞こえる「何が超変革だ」の声

無言で帰り始める選手達の中、阪神タイガースのキャプテン鳥谷は独り無表情でベンチで俯いていた

WBCで手にした名声、喜び、感動、そして何より信頼できるチームメイト・・・

それを今の阪神で得ることは殆ど不可能と言ってよかった

「どうすりゃいいんだ・・・」鳥谷は感情を殺し続けた

どれくらい経ったろうか、鳥谷ははっと目覚めた

どうやらフルイニング疲れで眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した

「やれやれ、帰って体のケアをしなくちゃな」鳥谷は真顔で呟いた

立ち上がって伸びをした時、鳥谷はふと気付いた


「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」

ベンチから飛び出した鳥谷が目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりの観客だった

千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのように六甲おろしが響いていた

どういうことか分からずに呆然とする鳥谷の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた

「鳥谷、守備練習だ、早く行くぞ」声の方に振り返った鳥谷は目を疑った

「い・・・今岡さん?なんですかそのカツラ」  「なんやトリ、居眠りでもしてたのか?」

「か・・・金本監督?」  「なんだよ鳥谷、かってに金本さんを引退させやがって」

「赤星さん・・・」  鳥谷は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた

1番:赤星 2番:鳥谷 3番:シーツ 4番:金本 5番:今岡 6番:スペンサー 7番:矢野 8番:関本 9番:下柳

暫時、唖然としていた鳥谷だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった

「勝てる・・・勝てるんだ!」

ポジションを奪われない辛さもあるんだぞと思いながら藤本からグラブを受け取り、グラウンドへ全力疾走する鳥谷、その目に光る涙は辛かった日々とは無縁のものだった・・・


翌日、ベンチで冷たくなっている鳥谷が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った

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