第2話(ゲーム)魔王視点

暗雲が立ち込める中、雷鳴が轟く。


そんな場所の真下に、異様な禍々しさを放つ建物が存在していた。


━━魔王城。それはどんな世界においても恐怖の対象となる、存在そのものが本来許されることのない禁断の領域。


もちろんそんな場所に住む主も只者ではなく……。




「……ちょー暇だわ……」


玉座の上でだらけていた。




やぁ、人間ども。俺様は魔王だ。


ついでにいうと、お前たち人間が作った(ゲーム)とやらの中の存在だ。


いくつもの電子部品の繋がりと、小さな色彩ドットが集まってできたデータの塊だ。


さて、どうして俺様がだらけているのかって?


理由なんて一つだろ、勇者だよ、勇者。


あいつら俺様と違ってレベル1から始まるからここに来るまでに時間かかるんだよ。


ついでにいうと、俺様の部下が優秀すぎる。


村、町、城、洞窟、山、森、湖エトセトラエトセトラ……。


ありとあらゆる場所で問題起こすから勇者達がそれの対応に追われてまったくこねぇ。


なんせ行く先々だからな、しかも必ず勇者が解決しないと話進まないという。


お願いだから少しは別の人間どもで解決しろよ。


勇者一人しかいないんだから何十の場所で問題起こしたらこの城に来るまでにどれだけかかるか分かるだろうよ!


でも頑張ってる部下達に文句言うのもあれだから誰にも言えないんだよ畜生め!





もうこの際だから、愚痴ろうかなうん。


この世界は所詮は作られた存在だ。


各個人に住む場所と果たすべき義務がある。


俺が今こんな風に自由にできるのは勇者がいないからだ。


(ゲーム)であるこの世界は(勇者の中の人)が勇者を動かすことで動いている。


そして勇者がいる付近は与えられたプログラムによって動くので、決まった行動パターンしかとれない。


先程、部下達が優秀と言ったが、彼らもただ刻まれたプログラムに従って動いている。


まぁだからといって(勇者の中の人)と違ってこの世界の住人たる俺達からすれば優秀なことに変わりないのだが。




まぁ何が言いたいのかと言うと、勇者が近くにいるとプログラム通りに動くなら、逆に言えば勇者が近くにいなければ自由に行動できるわけだ。


そして勇者が近くにいない今だからこそ、俺様は自分の存在も詳しく認知できる。


簡単に説明すれば、(勇者の中の人)が存在する(外の世界)から認知されない空間として、俺様の周辺は観測不可領域ブラックボックスになっているというわけだ。


……まぁ、そもそも俺様は今のところ出番ないからこのゲームが始まって以降、ずっとこの調子だけどな。


別に悲しくなんてねぇし。



(ゲーム)なんていう、外の世界の神様連中が作った世界のおかげで存在しているのはいいのだが、プログラムで逆らえないのが悔しい。


同じこの世界の神なら魔王である俺様の相手ではないが、やつらにはいくらでもこの世界の作り替えが可能だというのだから恐ろしいものだ。


俺様の世界征服がちっぽけなことみたいじゃないか!


とにかく暇を持て余す俺様としてはやれることといったら、勇者の観察くらいだ。


もしくはちょいと暇が過ぎたらバグを起こさせているが、これは(外の世界)のやつらがこの(ゲーム)を手放す要因になりかねないのでほどほどにしている。


プログラムなんてなかったら勇者を今すぐぶっ倒しに行きたいがそうもいかない。


俺様が移動可能な座標軸はこの玉座の存在する、この部屋だけだからな。


イベントがあるので誰もこの部屋には入れないようにプログラムされてるし。




……えっ、それってつまり今までずっとぼっちだったのかって?





…………………………………………。





そんなこと聞いてくんな!


そんな憐れむような目で見んな!


別に寂しくねぇし!


魔王っていうのは天涯孤独!唯我独尊!天上天下に唯一人の一匹狼だし!


てか勇者いつまでその場所でレベルアップしてんだ早く来いや!!


外の世界のやつらにとっては総プレイ時間なんて数十時間だろうが、こちとらもう既に内部時間で何百日も経ってんだよ!!


お前がずっとそこに留まって回復のためだけに宿屋泊まるから無駄に時間過ぎ去ってんじゃねぇかプログラムのせいで世界征服できない俺様の気持ちも少しは察しろボケェ!!!




はぁ……っ、はぁ……っ。


まったくストレス溜まるぜ。


誰だよ魔王なんて存在を俺にしたやつ。


創るのはともかく、そんな役回りいらねぇよ。


てか台詞もプログラムで決まってるから練習する必要もないんだよなぁ。


……えっ、なんで魔王は勇者が来ると必ずと言っていいほど高笑いする台詞があるのかって?


そりゃあ威厳を示すためっていうのもあるだろうが、当人である俺様から言わせれば。





ストレス発散だろ。





なんでかって?


だって魔王の台詞って典型的に高笑いと勇者達への侮辱の言葉並べる傲慢な物言いだろ?


つまりは俺様のように暇過ぎてストレスたまったやつらが一気に発散するための手段としてあんな傲慢な態度なんじゃないかと思ってる。


まぁ中には物語最初や途中から既に出演してるラスボスもいるわけですが。


でもこういうこと言うのもなんだが、ずるくねぇ?他のボス達。


ラスボスって出番も少なくて、最後にほんの少しの台詞言って戦闘して散っていく存在じゃん。


だいたいのラスボスって途中まで見た目すら分からないし。


どちらかと言うと、勇者達ってラスボスより中盤佳境の苦戦するボスとかに注目しがちじゃん。


そういうのが目立つから、ラスボスなんて影薄いと思うんですけど。


あと裏ボスとか俺様より強いなら魔王継いでくれよマジで。


なんでだいたい封印されてたり眠ってたりするんだよ俺様が倒された後にすぐに復活とかおかしいだろ馬鹿野郎!


本当、(外の世界)のやつらの印象に残るのって難しいわ……。





「……ちょー暇だわ……」


あれから更に内部時間にして数百日。


一応勇者は魔王城に着いたものの━━。


「とっとと来いやぁぁぁぁ!!」


仕掛を解いて、部屋の直前まで来たと思ったら帰っていきやがった……。


確かに直前には伝説の装備や経験値豊富な魔物がいるが、だからってここまで来て躊躇して帰ることねぇだろうが!


もうお前らのレベル十分倒せるレベルだから!


少なくとも油断しなければ余裕綽々で勝てるから!


お前ら俺を滅多刺しにでもしたいの!?


それともあれか!焦らしとかいうやつか!


俺様を焦らしに焦らしまくって困惑させたいとかそんなドSなはからいか!?


いいから俺様の役割を全うさせろおぉぉ!!




……はぁ、もういい。


俺様プログラム通りに動くけど、許さんからな。


勇者来たら絶対印象に残るほど後悔させてやるからな。


今このときなら、頑張れば会心の一撃連続とかできる気がする。




……えっ、戦う話ばかりしてるけど死ぬのが怖くないのかって?


そりゃもちろん怖いさ。


データの存在とはいえ、俺様達はこの世界で生きている住人なんだからな。


だがなによりクリアしてもらわないと困るんだよ。


この(ゲーム)が外の世界でどんな評価を受けるかなんて分からねぇ。


クソゲー呼ばわりされるかもしれん。


だがどんな(クソゲー)でも、俺様達を創ったやつらは必死だったんだよ。


だったらせめて、あいつらの望んだ通りのシナリオにじゅんじるのが俺様達の役割だ。





キィィィィィィ……バタン……。





……どうやら来やがったみたいだな。


ならばラスボスとしてやつらの記憶に刻まれるよう頑張りますか。


……まぁ、さっき死ぬのが怖いって言ったけど、俺様他のボスと違ってエンディング迎えると復活するから。


ラスボスの特権なんてこれくらいだよなぁ。


……あぁ、でももう一つあったな。


さんざん振り回された訳だし。


今までの鬱憤、ここで晴らすか!


「ふはははははは!ようやく来たな愚かな人間ども!我こそは魔族の頂点に立つ者!ここまでやってきた愚行と蛮勇を讃えて低俗な輩は我が直々にほうむり去ってくれるわ!!」








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そうだ、キャラの視点を変えてみよう 《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ @aksara

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