そうだ、キャラの視点を変えてみよう
《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ
第1話スライム視点
草花揺れる草原地帯。
辺りには遮るものなど何もない場所で、水色の半透明な物体が跳ねている。
ポヨポヨ。ポヨポヨ。ポヨンポヨン。
あっ、どうも皆さん。
僕はスライムと呼ばれるものです。
別に自分で付けた名前ではないですが、人々からそう言われるので、そういうことにしています。
意外とこの名前気に入ってます。
とりあえずやることもないし、喋れないのでポヨポヨ跳ねて暇潰ししてます。
僕の住む平原の近くには王国があって、人間達が賑やかにしています。
しかもごくたまに勇者と呼ばれる人が旅だったりもします。
どうして勇者と呼ばれる存在は、いつも僕達スライムのいる付近に現れるのだろう?
僕にはいまいち分かりません。
とりあえず僕のお仕事は人間を見つけたら襲うことなので勇者か一般人であるかは関係ありません。
でも僕達スライムは自分で言うのもなんですが弱いです。
レベル1の相手にもあっさり負けてしまいます。
それでも戦うのは、それが唯一のお仕事だからかな。
あっ、人間見つけた。
いざ勝負ー。
……あっさり負けてしまいました。
体のほとんどが吹っ飛んで動けません。
まぁ、水分が大半だから痛くないけど。
目の前では、僕を倒した人達が経験値でレベルアップしたようで、笑顔でハイタッチをしています。
おめでとう、そしてさようなら。
あーからだが地面に吸い込まれるー。
*
ふははははー、どうも皆さん、スライムです。
えっ、なんで生きているのかって?
僕達スライムは他の生物と違ってほとんどが水分なので、死んだスライムの体は他のスライムに吸収されて、一定水準を越えると分裂します。
もちろん死んだときに自我は一度死にますが、別に脳があるわけでもないので、体が復活すればその体に宿っていた自我も勝手に復活します。
おかげでこの通りピンピン……じゃない、ポヨポヨです。
こうして僕達スライムはある意味半永久的に復活するのです。
でもやっぱり僕達のお仕事は人間と戦うことです。
少ない経験値しか持たない僕達スライムですが、レベル1の初心者には良く狩られます。
理由は単純。
倒しやすく、なおかつ数が多いから。
余程の病弱や不幸な人でもない限り、倒せない人はいません。
あっ、小さな女の子発見。
いざ勝負ー。
……杖でボコボコに殴られました。
体のほとんどが散って動けません。
女の子はレベルが上がったらしく、側にいた母親らしき人に満面の笑みを浮かべる。
そしてこちらに向き直り。
「ありがとう!」
何故かお礼を言われた。
変な人間。
僕達スライムはただ倒されるために存在するだけなのに。
あーからだが地面に吸い込まれるー。
*
何度も何度も同じサイクルを繰り返しています。
倒されては蘇り、倒されては蘇り━━。
退屈じゃあないのかって?
もちろん退屈ですよ。
僕達はこの土地を離れられません。
遠くのまだ見ぬ未知の土地を夢見ても、夢が叶うことはありません。
この決められた土地でポヨポヨするか、戦うか以外に道はありません。
だって、それがお仕事だから。
生まれたときからそうだった。
与えられたのは自我とたった一つのお仕事。
「モンスターとして人間に倒されて彼らの経験値になること」
僕達はさんざんに言われてきた。
「スライムは最弱」
「スライムは定番」
「スライムと言えばやっぱりこれ」
何度も何度も、多くの人に。
でもスライムは僕達だけじゃない。
僕達と異なるスライムはたくさんいる。
見た目が違うもの。
毒を持つもの。
属性を持つもの。
経験値を多く持つもの。
彼らは僕らより強く、そして需要も高い。
特に経験値が多いものなど弱い人はもちろん、強い人にも狩られる。
でも僕達ただのスライムは違う。
最初こそ戦うけど、後には誰も相手にしてくれない。
経験値を持たない雑魚は誰も相手にしてくれない。
あっ、人間見つけた。
いざ勝負ー。
……「邪魔だ」と言われて斬撃で消し飛んだ。
それでも復活するんだけどね。
本当に損な役割だなぁ。
あー、からだが地面に吸い込まれるー。
*
やぁやぁ、どうも皆さん。
相も変わらぬスライムです。
今は夜、満天の星空を眺める絶好の空模様です。
長いときをモンスターとして過ごし、多くの人間を見てきたからこそ僕は思います。
確かに僕達スライムなんて、所詮は雑魚に過ぎません。
モンスターである以上、人間とは分かり合えません。
でも僕達を倒してきた人達はたくさんいます。
それこそ今は屈強な戦士であろうとも。
確かにかつて僕達を倒してきたはずです。
この空に映る星を、人間の経験値と例えましょう。
そのほとんどの星は、別のモンスター達の、それこそ経験値の多いモンスター達のものかもしれません。
ですが、僕達スライムを倒して得た星達は確かに存在しているはずです。
誰よりも何よりも昔から……あの空で一番最初に輝いていたはずです。
僕らにとってはたったそれだけが━━。
このお仕事に対する、唯一の誇りなのかもしれません。
*
ヘイヘイ、どうも皆さん。
うんざりしつこいスライムです。
だって僕スライムだもの。
ベットリ張り付いてしつこく離れなくても仕方ないよ。
かつて僕らと戦い、旅立っていった多くの人間達はもうこの辺を訪れることはほとんどありません。
見知った顔の人間など当然おりません。
でもそれはつまり、それだけ数多くの人間と戦ってきたということ。
それだけ多くの人間の役に立てたということだと思います。
ときどき、誰もこの平原を訪れないことがあります。
あまりにも長くてポヨポヨさえ飽きてしまったときもありました。
それでも永遠ではありません。
必ずまた新しい人間達がやってきます。
あっ、人間見つけた。
いざ勝負ー。
ポヨポヨ。ポヨポヨ。ポヨンポヨン。
いつものリズムで、跳ねていく。
僕らはスライム。
周りにはよく最弱と呼ばれます。
ですが━━。
人間達が最初に踏み越えるべき壁となる
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