霧を追う少年

@okri_ameba

第1話

STAGE:0

 


今日は、故郷へ降りる日だ。

僕はいつものように眩しいくらいの白い服を着せられた。

うん。髪も跳ねていないし、頭の先からつま先まで、どこにも白以外の色はない。完璧だ。

部屋を出るとすぐに黒づくめの男たちに囲まれて、大きな塔へと向かった。ビルの遥か彼方にある天井と床を繋ぐ塔のようなモジュールは、内部に階下へと移動するためのエレベーターが設置されている。

厳重な審査を受け男たちはゲートへ、僕はコンベアに乗せられ進んだ。

最終チェックが終わると、担当官に付き従われつつエレベーター内に乗り込んでいく。

外から見れば相当な大きさの建造物であったのに、肝心の箱自体は大した大きさでなく人が10人ほど乗れるだろうかといったサイズであった。その中の操作盤付近に担当官が2人、周りに男たちが4人、そして僕が真ん中で皆に囲まれている。ぎゅうぎゅうに詰められた箱の中は、あまり快適ではないが、「厳戒態勢」というやつらしいので仕方がない。

数十秒の沈黙の後、加速も減速も感じないまま操作盤の上のモニターは、目的の階層に移動したことを示していた。

プシュッっと短く空気が抜ける音がした。

扉が開かれると担当官が先に降り、僕らはそれに続いた。

最低限の照明が施された廊下を進むと、セキュリティーゲートが見えてきた。

担当官たちはその前で静止し、先を促す。

僕らの中で先頭に立っていた男が、腕につけていたデバイスを翳し、認証を終える。次々に進んでいき、僕もそれに続いた。

そこから先は三つほどドアを通って、それぞれの検問官の判定を受け、ようやく出口にたどり着いた。


外に出ると、といってもここは地下なのでどういう表現が正しいのかよくわからないのだけれど、とにかく建物の外に出ると、茶色い街並みが見えた。上の階層とは違う低めの建造物と、抑えられた明かり。人通りは少なく、皆同じように簡素な服を着ている。

ああ、僕がここを離れたときから何も変わっていないのだと、喜びと落胆がないまぜになった。

「おい。仕事だ。ここからもう一つ階層を降りる。そのためのルートをナビゲートしろ」

ぼうっとしていた頭に命令の電波が走る。そう、僕はただそのためにいる。

「3ブロック先まで進んで…右に曲がります。道なりに進んだ後、左へ、路地が入り組んでいるけどその先はあまり分かれ道がないので迷わないと思います。そこを進み切ったらそこに下へ行けるルートがあります。」

「よし、またポイントに着いたら知らせろ。行くぞ。」

僕たちが進んでいくと、人々は家に籠ってしまった。そりゃあそうだろう。僕らの格好といったら、ここの住民じゃないことは明らかだから。もっとも、そんなことをわざわざ黒服達に教えてやるつもりもないけれど。

指示した通りに進むと路地を抜けた暗がりに、下へ向かう崩れかけた階段を見つけた。入口には錆びついた看板が辛うじて引っかかっている。文字はすっかり掠れてしまっていてstationという単語だけ無理やり判読できた。何だったかなこの単語。予備の検索リストに入れておく。

階段のまわりには立入禁止を伝えるテープが張り巡らされていたが、男は気にせずに取り去り、中へと進んでいく。

僕は男たちの丁度真ん中あたりの位置へ並ばされて、所々崩れ落ちている階段を下りていった。

入口から辛うじて入ってくる明かりは、数メートルで届かなくなった。

あらかじめ持ってきていたらしいライトと、男たちのデバイスで辺りを照らしつつ進む。

「ここから先は?」

「情報をローディング中です。…この方向へ、しばらくは道なりのようです。細かな道は作業用の通路のようなので無視してください。太い分かれ道が来たら下への通路が見つかるはずです。」

「道なりって言ってもな…」

一人がそう呟く。そこで予備の検索がヒットした。ああそうか。ここは駅なのか。階段を下りてすぐには気付かなかったが、ここはどうやら廃線になった地下鉄のホームのようだ。僕のデータでも道としてわかっているものは線路の記号で表されている。初めてみたので見逃していた。

「線路を辿っていっていただいて問題ありません。他にルートはありませんし、現在この区画は政府側から使用を制限されておりますので、車両が乗り込んでくることもないでしょう」

「そういう心配をしているわけじゃないの。これだから知識しかないやつは」

後ろにいた一人が厭味ったらしい視線を僕によこす。僕はそれを無視した。だって僕はそのためにここにいるのだから。

「今どき接地型車両なんて骨董品が動く訳ないし、動かせるやつもいないでしょうが。そんなことじゃなくてこの光源だけで進んでいくっていうのはちょっと無謀過ぎやしないかってこと」

なるほど、人間の目ではこの暗さは少しばかりきついのかもしれない。持ってきたライトだけではせいぜいが30m照らせるかどうかといったところだし、さらに言えば、柱が至る所に立っているために照らせる範囲はかなり狭い。何が潜んでいるかわからない空間というのは、精神的に疲弊する。

「だがここを通る他にルートはないのだろう?」

常に先頭に立っている男がこちらを向いて問いかける。

僕はこくりと頷く。

「ならば我々はそれを成し遂げるのが仕事だ。必要最低限の装備は揃えてきている。それで防げないというのは力不足ということだ」

大きく張り上げたわけでもないのに、はっきりとした声は空間の隅々にまで響いて、僕らの芯に刃を突き付けてくる。

「行くぞ」

誰も何も言わなかった。

無言で進んでいくと、耳にノイズが走るようになってきた。まだ小さくチリチリとした程度だが、ネットワークの圏外に近づいているようだ。

「すみません」

「なんだ」

「なんだか圏外に近いみたいで…オフラインモードの使用許可を」

「まだ繋がっているのだろう?」

「はい…でもノイズが入り始めていて…」

「使用は許可しない。今のうちに階下のマップをローディングしておけ」

「……わかりました」


頭が軋む。

大量のデータのローディングは、ただでさえ負荷がかかるのに、こんな通信環境ではとてもじゃないが処理が進まない。データ処理に機能を優先しすぎると、足元が覚束なくなり後ろの男に叱られる。だが、それでも通信が切れる前にデータだけでも取得し終えないと、僕の意味が無くなる。

ざっ。先頭の男が止まる。なんだか嫌な予感がする。

「おい。道が塞がっているぞ」

どうにか顔をあげると、目の前は瓦礫に埋もれていた。

「なんで…」

「早く他の道を探せ」

「…っ。……はい」

ルート検索を第一優先にする。頭が痛い。耳鳴りがする。ピーッ…耳鳴りがする。ピーッ、ピーッ、ピーッ。

「何の音だ!」

『ネットワーク圏外へ入りました。位置情報が検出できません。所定時間内に機密保護処理を実行します。繰り返します…』

どうやら通信が絶たれたために僕のアラートが鳴ってしまっているらしい。

「アナウンスを中止しろ。時間ギリギリまでは現行のまま任務にあたれ」

「は…ぃ」

もう、息も絶え絶えだ。

外部アナウンスを止めても、頭の中のアラートは消えることがない。

ピーッ、ピーッ、ピーッ。

ぐらぐらと景色が歪む。

ピーッ、ピーッ、ピーッ。

頬を撫でる汗の感触がぞわぞわする。

ピーッ、ピーッ、ピーッ。

それでも優先すべきタスクの処理は続く。

「そちらに…」

なんとか声を絞り出し、左側を指さした。

「進むぞ」


「どういうことだよぉ!仕事しろクズ!」

おかしい。どう進んでも道が塞がっていて、先ほどからまったく前に進めていない。でも僕の持っているデータではこれ以上の対処はできそうにない。

ピッ。

「ひっ」

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。

アラート音の間隔が短くなってきた。時間がもうない。

「一度戻りましょう」

「何いってんの」

「僕の持つデータではこれが限界です。時間もない。今戻らないと入口にたどり着くまでのナビゲートができるかギリギリのところまできています」

「お前は進む道を探せ。下に行けば通信環境も戻るはずだ」

「何を根拠に!」

「進めと言っている。お前の役目は地図だ。指揮をとるのは私だ。通信が途絶えてからまだ一時間。あともう一時間は猶予があるはずだ。その間に道を見つけて降りるだけだろう。無駄な時間を使わせるな」

時間がある?そんなわけがない。リミットが来たらどうなるのかわかっているくせに。

僕の仕事は地図だ。その仕事を全うしなければ存在価値はないし、機密保護の名目で処理されても文句なんて言えない立場なんだ。

でも、僕は生きているんだ。

嫌だ。僕は、まだ、死にたくない。

「くっ!」

もと来た道を目指して走り出す。

さっきまでふらついていた足に必死に命令を出して。すべての処理よりも最優先だ。自分の体を制御しろ。速く、速く、最大出力で。

一瞬の隙をついて飛び出したはいいが、こんな事当然想定されているから、男達はすぐに追いついてきた。僕の“最大”は男達の“普通”にも満たないのだろう。

「あっ」

足の動きだけに気をとられすぎて、足元に飛び出ていた瓦礫に気づけなかった。

転げて頭だけでも衝撃に耐えなければと腕を前に翳す。

こんな時に目を瞑ってしまうのは僕の悪い癖だ。

ドンッ。

体に伝わる衝撃は思ったほどではない。

と、いうよりも何かにぶつかったような?

目を開けるとフードをかぶったやつが僕を支えていた。


「誰だお前っ…」

顔は見えないが、口元がゆっくりと下弦を描いた。

「へぇ、“生体メモリ”って本当に人間なんだな」

男の声だった。その声が僕の正体をつきつけてくる。

そう、僕は生体メモリ。生きながらにして、自身の専門分野においてはあらゆる知識にアクセスする権利を持つ“便利な”存在。

「君は…」

「そいつから離れろ!」

そうだ。呆けている場合ではなかった。

追いついた黒服達は、次々に銃を出してこちらを狙う。

「おやおや。それで撃つつもりかよ」

「はっ。これだから下層の人間は。ただの銃だと思ってるのか?」

笑いながら男達は距離を縮めてくる。

最新鋭の銃は脳と通信によるリンクを行っていて焦点の補正どころか、筋肉の動きの一部までサポートしてくれるらしい。うるさい男がよく自慢をしていたものだ。


ダンッ。

あともう十歩というところで、フード男が飛び上がる。

男達は焦らずに頭上を目視し、銃を向ける。

黒い影が最高点を過ぎ、重力に引かれて落ちてくるところを、

「発射」

黒服達は引き金を引いた。

弾は、撃たれなかった。

「は?」

男達が思わず銃を調べ始めた瞬間。

たん。

フード男はその真ん中に降り立った。

着地した際の低い姿勢から男の顎を蹴り上げ、後ろから殴ろうとした男の腹を、バク転しながら踵落としで仕留める。

「なっ。くんなよ!」

叫びながら後ずさりながら、使えない銃のトリガーを引き続ける男の目は、開ききっているのに焦点が定まっていない。

足を払い、尻をついたところで頸椎を叩き失神させる。

「あんたが指揮官か」

「だったらどうする」

「別に、あんたが知ったことじゃない」

どちらともなく右腕を突き出し、交錯する。

二人の攻防は速すぎて、僕はただ見ているだけで精いっぱいだった。

右手を繰り出す。

払う。

と、思っている間に、黒服の銃を持っている手は掌底で突き上げられ、銃が後方へ吹っ飛んでいた。

黒服の視線が一瞬、銃を追う。

その隙にフード男は上着に隠れていた腰のあたりに手をやった。

黒服が視線を戻したとき、喉元にはナイフが突き付けられていた。

「覚えておきな。武器は使いどころによっては古いものの方が優ることもあるって」

いうやいなや腹に蹴りを入れ、黒服が前屈みになったところを、持っていたナイフのグリップで頭を殴った。

完全に伸びていることを確認したあと、腕のデバイスを操作している。考えたな。と、思った。今時デバイスは生きた本人の手でしかで操作できないようになっているから。

「こっちこいよ」

その時点でアラート音の間隔は無いに等しくて、頭が割れそうで、たった3mもない距離を、僕はずるずる引きずるように這っていった。

その間にもフード男はデバイスの操作を進めている。何をしているんだろうか。

あれ?

アラート音が消えた。解除コードなんてわかるものなのか?

「お前のコンテナ・カセットはどこにあるんだ?」

問われると、僕は首の付け根のところを手で叩いて示した。

「これと入れ替えろ」

渡されたのは僕と同タイプのコンテナ・カセットだった。

珍しい。僕は初期のラインナップどころかプロトタイプに属するような型番で、ようするにほとんど生産なんてされていない。

「僕をどうするつもりだ」

いくら僕の所有権が僕自身にないからと言って、簡単に人の言うなりになるつもりはない。

「俺には関係ない。お前、あるいはお前の持つデータを俺のクライアントが所望している。俺は期限までにお前を引き渡せば報酬が手に入るってわけだ」

まあそんなことだろうと思った。相変わらずこの界隈では誘拐(というよりこれは強奪になるのだろうか)は珍しくないようだ。まさか身をもって知るとは思わなかったけれども。

いや、正直なところここまで踏み込めるとは思っていなかったのだ。人間はどこへ行っても自分の領域に他者が踏み込むことを嫌う。街で人々が家に籠ってしまうのを見て、すぐにこいつのような輩が現れると思っていたのに、案外すんなりと進めてしまったから、最優先のリストからこの事態を除外してしまっていた。

「まぁそんな不安な顔をするな。終わったら自由にしてやる」

「信用できない」

「はっ。すぐに人を信用しないことは賢明な判断だ。だがそう言っていられる立場ではないだろ。」

「うるさいよ!お前も僕を物扱いするのか!そうだよ!僕は生体メモリで、地図の分野においては僕は役立つけれども他は役立たずだ。でも、生きてるんだよ!ちゃんと、息をして、心臓が動いて、痛みだって感じるんだ。なのに皆、メモリは言われたことだけしかできないって、それ以上のことはするなって言うんだ…」

“立場”という言葉に反応してカッとなってしまった。そんな僕をみてフード男は呆気にとられているようだった。

「ははっ。お前面白いな。別に物扱いしようとは思ってない。そうだ名前も知らなかったな。俺はアエルという。お前は?」

「えっ。えっと、型番でいいかな?エリアコードはここでは意味ないだろうし。あ、それともヴィジョンナンバーの方がいい?」

僕は初めてされた質問に戸惑ってしまい思わず聞き返してしまった。アエルはなんだか悲しそうだった。

「お前、本当に最初っからメモリなのかよ…。誰かに呼ばれたりするときにいちいちナンバーで呼ばれていたのか?」

「あ、それなら地図野郎って言われてたけど」

「あー…」

アエルは頭を掻きながら何か悩んでいるみたいだ。こちらの方をじろじろみてくる。なんだかこそばゆいな。

「じゃあお前の名前は“ヴィト”な」

「へ?」

「白いって意味。お前頭の上から下まで真っ白だし、確か知力とかいう意味もあったからぴったしだろ」

「あ、ありがとう…」

「礼なんていうことじゃないさ。“人”ならそれらしい名前がないとな」

とても、嬉しい。なんだかとてつもないものを、貰った気がする。

「どうだ。信用できそうか?」

うっかり肯定の返事をしてしまいそうになる。多分、人間としては信用できると思う。けど、

「このカセットだけど、これ以上僕は自分に爆弾を積む気はないよ。ここでは電波が届いていないみたいだから今の所は何事もないだろうけれど、どうせネットワークに接続し次第、僕は見つかって上へ戻されるんだ。」

僕が吐き出す言葉を聞きながらアエルはにたにたと口元で笑った。

「ああ。やっぱりお前頭がいいんだな。」

そう言いながら、立ち上がった。

「カセットのことなら安心しろ、それは制御フリーだ。これでお前は晴れて自由の身ってことだな。疑うなら俺の利点を言おうか?お前の言う通り、今のままのお前をクライアントに引き渡しても、感知されて引き戻されちまうだろ。それを防ぐために替えてもらう必要がある。当然、今セットされてるものはここに捨てていけ。」

そう言うと、僕の後ろに回り、カセットを取り出して伸びた黒服達の方へ投げてしまった。

「いつの間にロックまで解除してたの…」

「いいから早くよこせ。あいつらが起きてくると色々と面倒だ」

先ほど渡されたカセットを取られ、素早くはめ込まれる。

「やけに扱いに慣れているよね。アエル…さん?あいつらの銃も通信できていないってわかっていたんでしょ。そうでなかったらあんな風に飛び込むことなんてできないし。でも、単なるネットワーク通信の電波なら僕でも感知できるけど、銃と脳を繋げる短波通信なんてどうやって繋がっていないかなんてわかったの?」

「呼び捨てでいい。みんなそう呼んでいる。それと、電波が通じないなんて当たり前だ。俺がそうなるように仕組んだんだからな。」

「えっ」

「話はここから離れてからだ。すぐに移動した方がいい。急げ」


僕のマップデータでは細すぎて除外していた道を進んだ。

「ここも瓦礫で埋まっているじゃないか。大人しく出口に行くなら僕が案内するよ」

「ははっ。この界隈で俺に道案内をするなんて冗談でもいうやつはいないぜ。鬼ごっこもかくれんぼも負けなしだ」

「でも現に通れないじゃないか」

「はあ…お前のデータって地面のデータしかないの?」

そういうと、アエルは軽やかに瓦礫の合間を縫っていく。

「こういうところも通れるんだぜ」

瓦礫の山を登り、天井にある通風孔のカバーを取り去る。

「よっと」

先にアエルが中に入り、こちらに手を伸ばしてきた。僕はその手を取り、引き揚げてもらう。

「右に曲がって…いやこの前崩れてしまっていたか。遠回りだが、北を目指したほうが早いか」

ぶつぶつと呟くのでしっかりとは聞こえないが、この人は僕よりも機能が高い気がする。もしかしたら“同じ”なのかな…

「こういったデータはもってないのか」

「いや、もちろん構造図としては持っているけど。こんなところ通るとは思わないでしょう?」

これでも僕はかなり上層の連中の世話をしているのだ。それは一応誇りに思っているし、そんな人間たちは自分が進む方向にはきちんとした道があると信じて疑わない。だから、僕はあらゆる場のデータを持っていても、“通りにくい道”のデータは使ったことがなかった。

「なら、これから進む道のことだけでもなるべく記録しておけ」

狭い空間を体を捩じりながら進む。


「ここらは老朽化が激しくて立入禁止にされてるんだ。いつ崩落が起きるかわからないから危ないし、昨日通った道が今日は塞がっているなんてざらにあるから、ほとんどのやつらは使わない。けど、」

フード男は通風孔から飛び降りて、瓦礫の上部で仁王立ちになる。

「俺にかかれば目を瞑っていても歩ける安全な遊歩道だ」


上に出るのかと思っていたのに、どうやらそうではないらしい。

相変わらず暗い道を進んでいくと、先になにか小さく光る集まりが見えた。

近寄ってみるとそれは機械の集まりだった。電波を飛ばすモジュールがいくつもあるし、コードがいたるところに張り巡らされている。

「さて、用も済んだからこいつも休ませてやんないとな」

そういってアエルはそれらのスイッチを切った。

あ。ネットワークに繋がった。

不思議な感覚だ。慣れ親しんだ感覚が戻ってきて安心するような気がするのに、自分の位置を探られていないという違和感が、とても心もとない。

その時だった。


バアン!!

ゴゴゴゴゴゴ…


僕らがやってきた方向から爆発音がした。そしてそれに伴う崩落の音。

あれはもしかして…

「ひええ。最近は小型爆弾も進化してるとは聞いていたけども、えげつねえ威力だな。ま、計算内に収まったし上出来かな」

僕にセットされていた爆弾。

それを爆発させてあの人達を殺した。

あの時、デバイスを操作していたのは、これだったのか。

「どうした?顔が青いぞ」

「…っ。機密保護処理は解除したんじゃなかったのか」

「機密保護?なんのことだ」

「しらばっくれるな!僕のアラートは解除したくせに!」

「お前はあいつらにいいように使われていて嫌だったろう?自由を奪われて、自分の生殺与奪の権利も所有の権利もあいつらの手中だった。むしろ感謝されたいくらいなんだけど」

「そういうことを言ってるんじゃない!」

「ふーん。意外に潔癖だったってわけだ。がっかりだよ。」

がっかりだというその言葉が、何故か耳に残った。

「どのみちあいつらをここで生かしておいたとしても、お前を奪われた時点で死ぬしかなかっただろうよ。俺の銃で撃って殺せば証拠が残るし、生かして状況を報告されたらこちらが困る。場所だって少しでも誤魔化したかったから奥に来るまではネットワークを生かして進めさせておいた。それに、お前の爆弾を使わせてもらったが、あいつらにとっては自業自得だと俺は思うね。あのまま放っておいたらお前だけ死んでやつらは戻るんだろうさ。また新しいメモリを連れてな。」

何も言い返せなかった。

その通りなのだと思った。

結局の所、僕にできたことなど何もなかったのだ。罠に気づくことも、自分であいつらを殺して自由になることも。

「行くぞ。」

僕は従うしかなかった。

でも、納得なんかとてもじゃないけどできなくて、下を向いてとぼとぼとついていった。

道はどこまでいっても暗い道だった。

(あれっ?)

道に白い何かが落ちていた。

「白い…羽根?」





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