第三章 鬼と出会う

第11話 昔々、あるところに

 ――――この地区が町に合併される前、まだ村だった頃。村を囲む山々の奥のまた奥に、いつの頃からか二匹の鬼が棲みつくようになっていた。普段は山奥から出てくることはないが、昼だろうと夜だろうと、山道を歩く者を見つければ食らい、時には村へ下りてきて若者をさらっていくこともある。無力な村人は成す術もなく、ただ我が身や家族が無事であるよう日々祈るしかなかった。

 そんなある日、村に忠憲ただのりと名乗る旅人が訪れた。彼はまだ修行中の身だったが、それでも術者である。村人たちは忠憲に自分たちの窮状を訴え、どうか鬼たちを退治してくれと懇願した。

 忠憲も己の未熟を知っていたが、困っている人々を見捨てることはできない。仕方なく、鬼退治を了承した。

 忠憲は山道で赤い鬼を見つけるとまず、何故人を食らうのかと尋ねた。すると赤鬼は、傷を癒すためだと返した。岩屋で共に暮らしている青鬼が大きな傷を負っており、滋養のために若い人間の肉が必要なのだと。

 そこで忠憲は、もし自分がその青鬼の傷を癒すことができたなら言うことを聞くよう、赤鬼に取引をもちかけた。自分は癒しの術だけでなく、薬にも通じているからと。傷を癒すふりをして自分たちを退治するつもりかもしれないと赤鬼は疑ったが、もし自分にそのようなそぶりが見られたなら殺しても構わないと言い切られては、忠憲の本気を感じざるをえない。渋々であるが、自分たちの棲みかへと案内した。

 さいわいにして、伏せっていた青鬼の傷は忠憲の手に負える範囲のもので、彼が癒しの術をかけると青鬼はたちまち傷の痛みを訴えなくなり、さらに薬を塗って数日経てば傷はすっかり癒えた。鬼たちは大変喜び忠憲に感謝し、二度と人間に迷惑をかけないと誓い、さらにその証として忠憲の従者となった。

 村人たちもまた忠憲に感謝し、彼に免じて鬼たちを許した。深く反省した鬼たちは詫びとして、山の獣たちが村や村人に悪さをしないよう命じた。

 以来、村は獣にも悩まされることなく、作物にも恵まれ、平和に暮らしたのだという。

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