第二話 仕切り直しで、緊急事態発生!!


 ようやく緊張感が出てきたようで。サギリの言葉に、リインとシェーラが表情を引き締める。部外者のオリガとメノウでさえ緊張してしまう程だ。

 そして、ジルの美貌も何となく強張っているように見える。


「ドラゴンって、人間界でもよく聞くモンスターだけれど。このお城の上空に居るドラゴン達も火を吹いたりするのかしら?」

「ああ。今回襲撃して来たドラゴン達は、ドラゴン達の中でも小型から中型の部類にあたる。ああいうドラゴンはブレスも吐くが……小回りが利く分、飛行で対象を惑わし接近戦を仕掛けてくることが多い」


 メノウの問い掛けに、サギリが答える。続いて、リインが口を開いた。


「現在、魔王城と城下街の防御魔法を最大限まで高めています。一部、被害が出ている場所もありますが既に対処しており大事には至っておりません。ドラゴン達の力は絶大ですが、防御魔法を崩せる程ではありません。このまま籠城すれば、恐らく数日以内にドラゴン達は諦めてこの近辺から離れるかと」

「じゃあ、結局は籠城すれば良いだけの話なの?」


 オリガが言った。数日間城に籠っていれば良いだけなら、話は単純だ。食糧などの備蓄によるが、サギリ達が騒ぐ程の脅威でも無いように思える。


「籠城するだけの備蓄はあります。数日、いえ……数か月は何とかなるかと」

「防御魔法も、魔法軍で交代しながら維持することが出来ます」

「医薬品の備蓄もバッチリですー」


 サギリにリイン、シェーラが言う。彼等の言葉に、オリガはほっと息を吐いた。


「じゃあ、このまま籠城すれば――」

「駄目だ。それだけは出来ない」


 オリガの言葉を遮る声。思わず見返したのは、オリガだけではなかった。

 全員が彼、ジルを驚きの表情で見る。


「え、ジル……な、何で?」

「この城からドラゴン達が居なくなるということは、他に縄張りを探しに行くということだ。この周辺に、魔王城以上の戦力を蓄えた国は無い」

「ええ、そうですね。あのドラゴンの数は、周辺国では太刀打ち出来ません。最悪の場合、一晩で壊滅するでしょう。ですが、この城周辺まで避難させる時間はありません」

「そんな!?」

「被害を最小限に食い止めるには、奴らをここで蹴散らし元の巣に帰って貰う必要がある。ドラゴンは頭が良い生き物だ、一度でも痛い目を見れば早々人里に降りてくることも無くなるだろう」

「そうですね……自分も、陛下に賛成です」


 ジルの考えに、リインが同意するように頷いた。確かに、ここからドラゴン達が去れば次に向かう先が被害を受けることになってしまう。

 この城に戦える力があるのなら、立ち向かうべきだとはオリガも思う。だが、一つ気になることがある。


「いえ、僕は反対です。ここは陛下の御身を護る城です。敵対国が関与していない以上、ここは防御に徹するべきかと」


 異を唱えたのは、サギリだった。彼の言いたいこともわかる。これが誰かの悪意によるものではなく、自然災害に等しいものであるのなら。

 城の主。つまり、ジルをわざわざ危険な目に合わせなくても良いのではないか。


「サギリ、お前は私に自身の安全の為に民を見捨てろと言うのか?」

「今、魔界を統治できるのは陛下だけなんです。危険が回避出来るのなら、それに越したことはないかと」

「やれやれ、お前は心配性だな。私はこれでも勝てる見込みがあるからこそ言っているんだが」

「陛下の実力はわかっています。でも、だからと言って今回はいくら何でも危険です! 相手は一〇〇〇体のドラゴンですよ!?」


 サギリが必死に説得するも、ジルは聞く耳を持たないよう。意外と頑固者らしい。


「ねえ、オリガ。勇者としては、どうした方が良いと思う?」

「え、ええ!? あ、あたし?」

「そうよー、このままじゃ多数決をしても決まりそうにないしー。ここはー、オリガちゃんの意見を参考にさせて頂くっていうのはどうですか?」


 突如、話を降ってきたメノウにシェーラが乗っかる。いったい何を言い出すのか、とサギリ辺りが怒鳴るかと思ったが。


「そうだな。このままでは埒が明かなそうだ。よって、勇者殿のご意見を聞かせて貰おうか」

「ゆ、勇者として……」


 くそう、ジルめ。こういう時だけ勇者扱いするとは、ドキドキと高鳴る心臓を落ち着かせるように胸元を撫でながら、オリガは考える。

 ドラゴンがどれだけ強大な力を持っているか、正直オリガは正確に把握出来ていない。だが、並々ならぬ相手ではあることだけはわかる。

 しかし、ジルの桁違いの強さも身をもって知っている。もしもここがオリガ達の故郷であったのなら、たとえ勝ち目が無かったとしても迷わず剣を取るだろう。


 でも、とオリガは悩む。


 ……今日のジルは、どこか様子がおかしい。


「……オリガ」


 不意に、ジルがオリガを呼ぶ。妙に艶やかで、色付いた声。反射的にそちらを振り返ると、紅い双眸が真っ直ぐにオリガを射抜いた。


「オリガ、私の格好良い姿を見たくはないか?」

「超見たいです!」

「よし、決まりだな」

「おいコラー!! 魔王が色仕掛けをするな!」


 ちっ、とオリガが舌を打つ。全く、この大臣わかってねぇな。


「まあ、冗談はここまでにして。あたしは……戦うべきだと思う。ていうか、ジルが戦うって言うのならあたしも一緒に戦う」

「オリガ、本気?」

「あたしは勇者で、本来は魔族の敵だけど……あたし、この魔界っていう世界が気に入ったの! 人間界で聞いていた話と全然違う。見た目や種族は色々だけど、馬鹿なことして笑ったり泣いたり……そういう根っこの部分って、種族とか関係なしに皆同じだと思ったから! あたしは皆の平和の為に戦いたい、その為に勇者になったんだもの」


 胸元を軽く叩いて、オリガは堂々と宣言した。魔王がジル――シキのような男だったら、話は違っていたかもしれないが――だから、だけではない。

 小生意気なサギリに、面倒見の良いシェーラ、度が過ぎる程に真面目なリイン。彼等を護りたい、助けられることがあるのなら助けたい。


 その思いに、一点の曇りも無い!


「きゃー! オリガちゃんかっこいいー!!」

「感動しました、オリガ殿! それでこそ、勇者殿です!!」

「……やれやれ、お前達は一応客人だろう?」

「あらぁ、ボクちゃん……それって凄く今更じゃない? 美味しいご飯とお酒、それにフカフカのベッドのお礼くらいさせて頂戴」


 きゃっきゃとはしゃぐシェーラに、感極まったのか涙ぐんでいるリイン。メノウまでもがやる気を見せつければ、もうサギリに反論する余地はない。


「……はあ、わかりました。こうなったらヤケです! あんなドラゴン達なんて一体も残さずけちょんけちょんにやっつけてしまいましょう!」

「わーい! しばらくはドラゴンのお肉料理がたっくさん食べられそうねー?」

「え、あれも食糧なの?」

「よし、それなら早速作戦会議をしよう。ほらサギリ、話を進めろ」

「くうう、珍しく陛下がやる気になったのは良いですけれど……せめて、アルバート将軍が居れば状況はもっと良くなったでしょうに!」

「アルバート将軍?」

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