[解説]第一席

豊臣秀頼西国轡物語は、下記のような一文から始まる。


『エエ、本日ほんじつより観客かんきゃく諸君しょくんのおのぞみによりまして、西国さいこくくつわ物語ものがたり豊臣とよとみ秀頼ひでより表題ひょうだいの下に、豊臣とよとみ二度にど目のはた揚げといたって活発かっぱつなるお講談こうだんもうしあげます。どうか鷹揚おうようの御遊びあらんことをねがっておきます。』


これは講談師の語りを真似て書いている。今では口語体の小説なんてあたり前だけど、明治の35年あたりまで物語に耐えうる文体を持っていなかった。だからこういうことになっている。


一席だと『見台をポンと叩けば』など、講談師っぽい語り口が出てくるものの、話が進むにつれ消えていく。作者が面倒くさくなったんだろう。


この章で活躍するのは大久保彦左衛門、事件を未然に防ごうとするのだが、失敗してしまう。失敗しなけりゃ話が始まらないから仕方ない。


講談速記本の世界では、彦左衛門は偏屈者だが有能で彦左衛門がいなければ家康は5回くらい死んでいる。


この章で天海が死んでいることも語られている。これは徳川家にとっては大ピンチな状況で、天海は講談速記本の世界では史実以上に重要な人物である。なぜなら彼には忍術を防ぐという特殊能力があり、天海がいなければ徳川家康は暗殺されてすぐに死んでいたことだろう。そして豊臣勇士の面々は、薩摩で虎視眈々と徳川天下を狙っている。


こういった状況下で起きた事件だと認識しながら読んでいくと、なかなか面白い。


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