最終話 別世界

「……!?」


 何だ……ここは……僕のアパート!? 未姫は……いない……。日付は……6月5日12時……いつものタイムリープだと?


「何で……なぜ僕はここに戻ってきた……!?」


 前回の時間軸、僕はXとココノエの策略で、未姫と結婚させられた。そして僕は未姫に殺されかけ、今に戻る。

 だが、これまでのタイムリープとは違う。今までは、犯人を殺そうとした瞬間や、犯人の大事だと思われる人間を殺した時に起こっていた。理由は明白で、自分の命を守るためや、生き返らせるため。


 ……もっとも、僕が狙った人間は誰も真犯人ではなかった訳だが……。


 今回のこのタイムリープは、これまでのどれとも違う。僕が死んで不都合でもあったか? まさか。タイムリープを感知出来る僕は邪魔なだけだろう。

 2人の犯人が繋がったことで、何か問題でも生じたのか?


「とりあえず今すべきは、この時間軸がどの状態なのか調べることか……」


 周りに警察はいない。

 雛子の家に行けば、雛子と幸之助が並んで出てきた。

 大学の後輩で同じ会社に入った奴に連絡すれば、幸之助と神大がその会社にいるという。

 未姫とココノエは……この時間軸では会えないだろう、状況は分からない。


 全部……最初にタイムリープに気付いた時と同じ状態……振り出し……?


 しかし、僕の知る限り、真犯人はいない。

 タイムリープの根幹だった、雛子の周り……その全てを調べ、殺した……。僕に、真犯人を殺すことはできないのか……?


「まあ……元々タイムリープものは好きだから……充実していた気もするな……」


 それに僕は、雛子と結婚することで入った会社で浮いていた。全て元通りになるということは、それも戻ってくるということ……。犯人を殺すことは望んでも、僕は会社復帰は望んでいない……。


 望んでいると言えば、未姫との出会いは良かった。やはりタイムリープものには、ああいった協力者は必要だ。ヤンデレにメンヘラ、どっちもいいじゃないか。


「待て……そうか」


 そういうことか……いる……これまでの時間の中で、僕がまだ殺していない人間がいるじゃないか……! そうだとすれば……全て納得が行く!



 僕は、僕が通っていた大学を訪れた。研究室棟に入る方法は知っている、学生証がなくても関係ない。

 この場所……僕と雛子が出会い、未姫やココノエも通うこの大学が、ある意味始まりの場所だったのかもしれない。

 そんな大学の屋上で、真犯人を追い詰める。


「おっと……」


 屋上の扉を開ければ、強い風が吹き込んできた。思えば、タイムリープしたときも、風に包まれるような感じがしたな。


 そうだ、そのタイムリープ。


 僕は当初タイムリープは、①過去の自分に戻る形で起こる、②今の自分が過去に移動する、のどちらかだと考え、経験する中で①だと思っていた。

 ここで、タイムパラドックスというものを考える。過去に戻って親を殺したら自分は生まれないんだから、じゃあ誰が殺したんだ、というもの。この話、親でなく自分自身を殺した場合だって当てはまる。

 ①は②のように、自分で自分を殺すということはできないが、自殺だって同じこと。過去のある地点で自殺したら、未来にいた自分がタイムリープしたという事実はどこに行く?


 つまり、タイムパラドックスはいかなる状態でも起き得るが……そうでない、3つ目のタイムリープがある。そして恐らく……僕が経験しているのはこの③だ。

 それは、タイムリープというより、ある種の異世界転生をするというもの。今自分がいる時間と、いや……今自分がいる世界とは違う、望んだ世界に飛んでいる。あまりにそれが今いる世界に近しいから、僕はタイムリープしたのだと思ってしまったということだ。これなら過去の改変なんていらないから、何だって起こり得る。


 思えば、神大を殺すための何十回ものリープ。あれは変だった。一度僕は、5年の歳月をかけた後神大を襲おうとしたが、それも直前にリープしていた。5年だ。そんな長い期間、いつ動くか分からない僕を監視し続け、そして動いたら即タイムリープ……そんな真似出来るはずがない。


 そして僕は、雛子との結婚はともかく、会社に戻ることは御免だった。どうせなら、大好きなミステリー、特にタイムリープのように過去に戻ってやり直せないかと望んだものだった。


そう言えば神大を最初に追いつめた時、あまりにあっさりすぎてつまらないと、僕は感じたな。


 そして僕の、このタイムリープを繰り返す望みは……真犯人を特定して、殺すこと。そうすれば……何が起こるんだったか? まあ、僕の望みはそこにある、その先のことはいいな。


 証拠なんていくらでもあった……真犯人は、特定出来た。


 犯人はすでに追い詰めている……屋上の隅に追いやり、手摺に手をついている。その身体は、半分外に出てしまい、すぐにでも落ちんばかりの態勢だ。


 やった。


 やっと、僕は犯人を殺せるんだ。何十回のリープで、何十年も経った。その長い長い望みの果て。


「……これで終わりだ」


 屋上から身体が投げ出された。また風を強く感じる。これはまたタイムリープ……いや、別の世界に行くのかな? 


 地面が近くに迫ってきた。


 これでようやく、僕の望みが叶った――。


<完>

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タイムリープ・オブ・アザーズ DAi @dai_kurohi

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