第7話 結婚式
ようやく、この時が来た。
「緊張してるのか? 震えてるぞ」
「だ、大丈夫」
僕の横で、ウェディングドレスを着て、入場の時を今か今かと待ってくれる人がいる。
いったいここに至るまで、僕はどれだけの時間を過ごしたんだろう。
そこから数十回は、神大の命を奪うべくの行動……ここだけで、いったい何十年経ったことか……。
そして協力者やもう1人のタイムリープ犯との出会い……あれは大きかった。結果的に逮捕されることとなったが……真犯人、
「どうしたの?」
「あ……ああ、感慨深くてな……」
気づけば、誓いのキスか……。いけないな、ここに至るまでの道筋なんて、後でいくらだって振り返ればいいんだ。
そうして僕は、ベールを上げる。
また長い髪が片目だけにかかってるじゃないか、まったく。顔をしっかり、見せてくれ。
「幸せになろう」
「うん……よろしくお願いするッス!」
僕と
◆
「終わった……」
結婚式から1日経った。なんだか溜息が出てしまうな。
未姫も同じ想いなのか溜息を吐いた後、僕に寄ってきた。
「そのうちマイホームが欲しいッスねー」
「未姫、その、~ッス、って話し方どうにからないのか?」
「んー今更ッスねー。もう癖だからねー」
結婚式、披露宴、二次会三次会……何次会までやったっけ? 起きたら、もう12時近くとはな……。
まだ2人の貯金ではマイホームは厳しく、アパートを借りるしかない。それでも2DKある。まあ、新婚には充分だろう。
「なんッスか? じーっと見て」
「未姫の髪、綺麗だなと思って」
「ええ? 結構クセっ毛ッスよー」
こうして未姫を見ていると、知らないことばかりだと気付いた。同棲を経ずに結婚したからか? 未姫の長い髪がクセもありつつ綺麗なこと、それが片目にかからないようかき上げる動作が色っぽいこと、何気に脚が長いこと。知らなかった。
ま……そういう新しい発見が続くのも、新婚生活の醍醐味なんじゃないかな。
「んーー、そういう
撫でるな撫でるな。
未姫も同じように思っていたのか……似た者同士だな。そういえば初めて会った時も、全く同じ境遇だったな。懐かしい。懐かしいが……あれはどこだった?
「あれ……?」
未姫が人差し指を唇に当てて上を向いている。たぶん僕がしている表情も、同じようなものだろう。お互い、頭の上にハテナマークが浮かんでいる。
「初めてって言って思ったんスけどー、あたし達って、何であんな公園の片隅で出会ったんだっけ?」
そうだ、公園の小屋だ。
あそこで、僕は警察に追われていて、未姫もそうだったんだ。
「警察に……?」
いや、そうだ。僕はタイムリープの波の中で、警察に追われたこともあった。けど、未姫と出会ったのは大学のテニスサークルで……。
「ん?」
いや、大学のテニスサークルで出会ったのは雛子……
「奏多くん、なんであたし達、結婚してるんスかね?」
「そんなこと、僕の方が……!」
そうだ……そうだそうだそうだ! 僕は時間を取り戻すために、何度も何度もタイムリープをした。犯人を殺すために! その中で、この協力者、未姫を利用して……!
待て、ということは、これは……。
「もしかして、また……」
「またタイムリープによる改変だ!」
僕と未姫は同じ大学だったようで、年齢的に僕が大学3年のとき未姫は1年のはず……未姫が本来の大学に入るようにして時間改変すれば、出会わせることは難しくない……。
そしてそうなると……!
真犯人は、雛子じゃない!?
ありえない……もう雛子の周りにいる人間で怪しい人物はいなかった!
だが、こうしてまた偽りの時間が始まっているということは、他にいるってことじゃないか……! 雛子の周りにいる人間が犯人、そこからすでに間違っていたとでもいうのか!?
それに、なんで今回、時間改変が起こったと感じるまで時間がかかった……? これまで、目覚めて少ししてから、それに気付けたのに。いや、タイムリープがあったこと自体は分かっていた……結婚式の最中、僕はそれを思い返していたんだから。じゃあ、なんで改変には気付かなかった!?
「困ったことになったッスねー。でもあたし的には、奏多くんに一目惚れしてたからいいッスけどね! そうじゃないと、警察に追い詰められた時、自分を犠牲になんかしないッスよー」
何を呑気な……!
「とはいえ」
ん?
未姫……いつ見ても笑顔だったのに、なぜ突然無表情に……?
それに、手に持っているものは何だ……いつの間に……?
「全部思い出した所で……聞きたいことがあったんスよねー……」
「み、未姫、それは……」
「包丁ッスよ? 見たら分かるよね?」
な、なんでそれを僕に向けて近付いて……! いや、心当たりはあるんだ……僕は……!
そ、それに未姫は、神大をめった刺しにして笑っているような人間……今だって、僕に、いつもと違う笑顔を向けて……! そんな底の見えない瞳で僕を見るな!
「落ち着け……落ち着け未姫ー!」
「あ!」
未姫は油断していた。
僕が出来ることなんて、隙をついて家の外に逃げることだけだ!
◆
「
アパートから離れ、何度も後ろを振り返った。
この前警察から逃げた時よりも、息が上がっている気がするな……。
「やはり、バレているということか……」
前回の時間の中、僕は未姫に2つの嘘を吐いている。未姫はどうも、そのどちらかか、あるいは両方に気付いた後、この時間軸にリープしてきたようだ。
まず僕は……ココノエを殺していない。
だから僕は、1年で刑務所から出ることが出来た。捕まったのは、真犯人が僕のPCに仕込んだ犯罪予告が実際に起こっていたから。僕は何もしていないがそれを証拠にされてしまった。でも、僕としては捕まった方が都合が良いから罪を認めた。その起こった犯罪も軽いものだったからな。
未姫に見せたココノエが死んだものを映した画像は、ココノエと手を組む代わりに、ココノエに協力させて撮影したもの……ただココノエに倒れてもらっただけのもの。
それをした理由は、未姫も神大を殺さずに戻った場合に使えると思ったからだ。
あの交換殺人を行った時、僕がココノエを殺してしまえば未姫だけタイムリープが解除され、神大を殺す人間がいなくなる。未姫から見たらその逆。待つしかない、という状況だった。だから、互いに何も起こさず戻ることもあり得た。
そんな時、僕がココノエを殺した画像を見せれば、なぜタイムリープが戻らないかは分からないが、未姫に神大殺しを強制する材料になる、というわけだ。
もうひとつの嘘は、警察に追い詰められた時のもの。あたかも2人が助かる方法を取るため、未姫を一旦犠牲にしたようにしたが、そうではない。あれは僕が、雛子や神大の周りを洗うための、探偵に依頼する時間を稼ぐためのもの。未姫には何も関係がない。
ひとつ目の件は、未姫が刑期を終えてか脱獄でもしたか分からないが、どこかでココノエと出会ってしまったから気付かれたか。ふたつ目の件は、まあ、バレると思っていた。
「いや、待て」
僕が雛子を殺し、タイムリープが起きたのは僕らが捕まってから1年後。しかし、明確な殺人を犯した未姫が1年で出てこられるはずもない……なぜタイムリープが起きるまでの1年間で、ココノエが生きていることに気付いた?
そうだ、そもそも。
なぜ互いに、タイムリープをしたと分かっているんだ? そうだ……これが一番の問題じゃないか!
これまで、僕は真犯人XのXリープ、未姫はココノエリープを感知出来たが、その逆は出来なかった。なのに、なんで……!
「ココノエの方が未姫に接触した? そして、Xとココノエが同時にタイムリープをした……?」
ココノエが未姫に接触した理由は分からないが、同時のタイムリープと考えれば、多少納得が行く。2人のタイムリープ犯が同時にリープさせたせいで、僕も未姫も2人ともが感知出来るタイムリープとなった。しかし、感知できないリープも合わさっているんだから、時間改変に気付くことが遅れた……!
「だが、そんな偶然に……」
ありえるのか? 2人の犯人が同じタイミングで行い、そして2人のタイムリープを感知できる僕と未姫が結婚させられる。
ありえない。
「Xとココノエ、繋がっている……?」
あるとすれば、これしかない。勿論、繋がったのはどのタイミングかは分からない。僕とココノエが会う前か、後か……。監視しないといけない僕と未姫を同じ場所に置かせることで、2人の犯人が交代で見張るというなら、犯人らにメリットがない訳じゃない。
ココノエ……僕と組もうと言っておきながら……!
こうなってしまったらどうなる? 僕はXもココノエも殺さないと正しい時間に戻れないのか? いや……記憶が混濁したのは、片方のタイムリープは感知していないんだから、やはり僕が殺すべきは、Xだけ。そしてそうすれば、僕は正しい時間に戻ることが出来て、未姫と出会った事実もなくなる……この未姫から狙われる事態からも逃れられる……!
とにかく、僕は犯人を見つけ出して殺す……それが僕の目的だったじゃないか!
「奏多くん」
……あれ。
「奏多くん、悪いクセッスね。考え始めると周りが見えなくなって、足、止まってたッスよ?」
そうだ、僕は考えるのは苦手じゃないが、どうしてもいつも……。
……ん? 僕は考えるのは苦手じゃないんだ、なぜ頭が周らない……?
「これ、またあたし逮捕されちゃうッスね。まあ仕方ないですねー。どうせそのうち、タイムリープが起こるから、それを待つッス」
そうか、僕の身体から血液が抜けていっているせいか……いつからだ? こんな地面が顔の近くにあったのは……。
未姫……ヤンデレというよりメンヘラの類か……そっちも嫌いじゃないが……実際に刺されるなんて……。
はは……僕はいったい、最後に何を考えているんだ……よ……。
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