第2話 異世界


僕はここに至るまでの経緯を全てリンに話した。


「・・・」


リンは俄かに信じ難いという様子だ。

そりゃそうだろう、僕だったら信じられない。


リンは暫く考え込んでいたが、意を決したように口を開いた。


「____散々だったわね。」


え.....?


「信じてくれるのか?」


「そう言ったでしょ?」


リンは当然、と言った顔でそう答える。


「まあ、取り敢えずあなたには色々とやって貰わなければならないことがあるの。」


「.....なんだ?」


「___貴方はここを異世界パラレルワールドと考えているのよね?」


「あ、ああ。」


「じゃあ、まずこの世界について教えなきゃならないわね。」


リンは続ける。


「知りたい事を言ってみて、できる限り答えるわ。」


知りたい事か....じゃあまずあれだな。


「あのバケモノは?」


「____クリーチャーと呼ばれているわ。」


「クリーチャー?」


「1964年に、アメリカのワシントンで講和会議を行ってる時、初めて確認されたとされているわ。」


ん?平和会議?


「ちょっと待ってくれ、平和会議とはどういう事だ?それもアメリカ?それだけ大きな戦争があったのか?」


「大きいも何もそんなの誰だって知って____」


リンは言いかけたところで止まる。


「もしかして.....第三次大戦はそっちでは起こらなかったの?」


「第三次大戦....だと....?」


第三次大戦....1964年だとすると....人類はキューバ危機を回避できなかったのか....?


「ああ.....続けてくれ。」


リンは頷き、続ける。


「その講和会議で、虐殺事件が起きた。会議に出席した人間、警備に当たっていた人間を含めて全員死んだそうよ。しかも全員なにか鋭い爪のような物で引き裂かれて死んでいたらしいわ。そして、シークレットサービスの最後の通信、『バケモノ』という言葉を最後に一切の連絡が途絶えた。」


「それが人類が確認した最初のクリーチャー....?」


「そうされているけど....本当がもっと前から民衆を襲っていた可能性も十分考えられる。いや、逆に無い方がおかしい。」


ワシントンに行くまでにどこか襲われるから....か。


「____アメリカは最初、それはソ連の仕業だと思ったらしいけど、ソ連は一切の関与を否定。第一、自国の首相を殺してどうするの、て話よ。まあそんな事件があったせいで、世界中が大混乱。そして同年7月3日、各国で同様の事件が起きた。そして、彼らの写真が収められた。」


リクは唾を飲み込む。


「ソレは目が退化した、人型の生物だった。両手には鋭い爪が生えていて、四足で移動するらしいわ。写真に収められたその生物は直様捕獲されて、アメリカのリディ・T・ケイラー博士はそいつを調べた。すると、そいつは体から大量の放射性物質をばら撒いている事がわかったらしいわ。リディ博士はそいつらを『クリーチャー』と命名、研究を開始した。」


「それがクリーチャーか.....そいつらの正体は?」


「まだわからない。」


まだわからない.....マジかよそんなことあるか.....?今は2016年だとしたら50年以上もわからなかったというのか.....


「他に聞きたい事は?」


「その剣は.....?銃を使うのが普通じゃないのか?」


「これも歴史の話になるけど.....?」


「なんでだよ....」


「これが一番話しやすいの。」


「ハァ.....わかった、言ってくれ。」


「アメリカでクリーチャーが捕獲されてから2週間後、日本でも一体のクリーチャーが捕獲された。そいつは一ノ瀬 勇輝いちのせ ゆうき博士の元に送られて、研究が始まった。そこで、彼の娘だった一ノ瀬 浴衣いちのせ ゆか博士が興味深い発見をした。元々クリーチャーの血液は粘膜性が非常に強くて、銃で撃っても弾はそれによって回転力を失い、貫通しなかった。そこで浴衣博士が日本刀で切断してみたところ、スッパリと斬れたの。このことから銃撃より斬撃が有効と立証されたわ。」


「それで剣を.....」


「そう。セイバーと呼ばれているわ。まあこれは90式だけどね。」


そう言いながらリンは腰の剣を指差す。


「.....セイバーって....軍刀みたいなものじゃないのか?それじゃナイフじゃないか。」


「まあ、これはこの武器の正式名称の略でセイバーなだけだから。気にしないで。」


____まあいいか。


「じゃあ....もう一本の長い方は?」


「え?これ?ああ、これはACSB。まあ、簡単に言えば補助用のセイバーみたいなもの。」


「ACSB.....?」


「Anti Creatures Standard Blade、対クリーチャー用標準剣。元々、セイバーは銃との併用を前提としてたから、ナイフみたいに短かったの。だけどそれだと戦闘で比較的不利になると考えられて開発されたのがこれ。サムライの国日本が作ったっていうので結構評判いいのよ?」


評判がいいって.....なんだよそれ....

つか日本製?


「で、他には?」


「そうだな......じゃあ、腕のアンカーは?」


「え?ああこれは00式腕部緊急用アンカー。まあ簡単に言えば戦闘補助用のアンカーね緊急用って入ってるけどみんな戦闘で普通に使うわ。まあ、それだけ戦闘がイレギュラーな事態って事だけど。」


「なあ。」


「ん?」


「さっきからきになってたんだが.....なんで日本式の呼び方なんだ?アメリカとの共同開発だろ?」


「ん?アンカーもACSBもセイバーも、一応日本が開発した物だけど?」


「いやアメリカどこいった。」


「まあセイバーは『セイバー』というカテゴリだから、各国で名前が違うわよ。例えばそうね....アメリカはM90 SABERだったりするわね。」


「そういうものなのか....」


「で?他には?」


「____人類の現状は?」


「50mを超えるクリーチャーが各国の都市部で目撃されて、人類は総人口の約6割を失い、地下に篭ったわ。」


「じゃあお前は....調査員の様な物か?」


「違うわ。」


「ん?じゃあなんなんだ?」


「人類は地上領土奪還部隊を結成して、領土の約1割の奪還に成功したの。」


「じゃあ.....人類は地下に潜っていないのか?」


「ええ。まあお偉いさん方は核シェルター並みの地下と地上に建てられたこれまた核シェルター並みの防壁に囲まれてる都市で暮らしてるわね。」


「一般人は?」


「地下鉄に篭ってるのが現状ね。」


は?


「それは....地上領土を奪還した以前から?」


「ええ、私もそこで育ったし。」


......まあ、人間なんてこんなものか。

人類存続の危機にまだ金を.....まあこの世界に身内はいない。

いや、僕には全く関係ない話か。


「聞きたい事は以上?」


僕は暫く考えて、そうだ。と答えた。


「じゃあ訓練開始ね。」


「........は?」


今なんと....


「だから訓練よ。」


そう言いながらリンは僕の腕を掴む。


「いやいやいやまるで意味がわからん!ちゃんと説明しろ!」


そう言いながら僕は抵抗する。


「言ったでしょう?やってもらう事があるって。その為に訓練して私みたいになってもらう必要があるのよ。」


「いやなんでだよ!」


「はぁ.....私は軍に入ってる。それはわかるでしょ?」


「まあ....一般人がそんな装備してるわけないしな。」


「この世界だと本部に3年くらい帰らないのは普通だから別に連絡が1年や2年無いくらいはどうってこと無いんだけど.....もし、貴方が死んだとする。」


「おい待てどうして死んだ。」


「あくまで例えよ、例え。___そして、その死体を軍の関係者が見つけたとする。すると私が死んだことになるの。」


「・・・」


「しかも私今隊と逸れてるし。隊員が死亡届を出してるかもね。まあ7年以内に戻れば取り消されるけど。」


「......で、俺をお前みたいに鍛えて、どうする気だ?」


「そうね.....まあ身体が二つあると考えれる訳だから色々楽しい事ができるわね。」


「・・・」


「わかった、冗談よ。___貴方の死体が見つかるとかなり厄介だから、私の弟って事にして入隊させるわ。」


「は?」


「入隊させるわ。」


「断る。」


「そう?ならここで首を刎ねて土に埋めるのも有りだけど?」


「くっ....」


こいつ....人間か?


「わかった....受ければいいんだろ受ければ。」


「話が早くて助かるわ。」


こうして、僕は強制的に訓練とやらを受ける事になった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現世の僕と異世界の私。 @NAO_2577

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ