第1話 異世界の私

僕らは暫く互いの顔を見つめあった。

目の位置、鼻の形、輪郭、雰囲気。

その全てが僕と全く同じだ。


髪型まで同じにしたら僕ですら見分けが付かないだろう。


ドッペルゲンガー?生き別れの兄妹?クローン?

色々と考えたがその全てが全く意味不明、そんな事あるわけが無いという始末だ。


「あなたは.....一体誰なの.....?」


そう切り出したのは彼女だった。


「それはこっちの台詞だ......君は一体......」


そう答える他無い。

彼女は僕の中でとても異質な存在だ。

それは、彼女からする僕も同じ事だろう。


「おーいリン!どうした?!なにかあったのか!」


突然そんな声が響き渡る。


「!_____付いてきて。」


僕にそう言い、そのまま腕を掴んで廃工場の裏まで連れてこられる。


「あなたは.....どこから来たの?」


「____神奈川から.....」


突然そう聞かれ、僕はそう答える。


「神奈川......?あそこから来たの?」


「?それはどういう.....」


「____まあいいわ。それで、どうしてあそこにいたの?」


「_____わからない。」


「わからない?」


「ああ、どうやって来たのか、何故あそこにいたもか。全く思い出せないんだ。」


「_____まあいいわ、ここにいるのも危ないし、早く安全な所に移動しないと....」


安全?一体どういうことだ?

殺人鬼でもいるのか?


そうだ、さっきの声が彼女の名前なのかを聞かないと。


「自己紹介がまだだったわね。」


「え?」


「自己紹介。」


「あ、ああ。」


先に言われるようだがまあそれはそれでいいだろう。


「私は、三葛 凛みかずら りんよ。」


「!?」


三葛だと!?

____苗字まで同じとは......こんな偶然が本当にあるのか.....?

実際起こっている事か.....


「____僕は、三葛 蓼だ。」


その言葉に彼女も驚いた様子だ。

恐らく考えていることは同じだろう。


「__兎に角、移動するわよ。着いてきて。」


「え?さっきの声は知り合いじゃないのか?」


「いいから。」


「・・・」


僕は黙って彼女の後に着いて行った。


◇ ◇ ◇


「お、おい......ここは......?」


僕は自分の目を疑った。

30分ほど歩いた先には、荒廃した都市があった。

倒壊したビルに、折れた電波塔、しかもほぼ全ての建物が何かに焼かれた様に真っ黒だ。


「ここは昔、秋葉原って都市が広がっていたらしいわ。」


「はあ!?」


ここが秋葉原だと!?

どうなっている!?

なにが.....一体.....どうしてこんな.....

そして、僕の頭に『タイムスリップ』という文字が過った。


「なにを驚いているのよ。」


「リン。」


「ん?」


「今は....西暦何年だ?」


「?おかしなの事を聞くのね?今は2016年よ。」


「2千.....16か....」


タイムスリップじゃない?

てっきり第三次大戦かなにかでこうなって、彼女は僕の子孫であると思ったが.....しかしそうでなければ辻褄が合わない.....一体ここはなんなんだ?


「!?」


すると、一つの答えが浮かんだ。


「パラレル.....ワールド....」


ここは異世界パラレルワールドじゃないのか?

だったら彼女は女の僕で、ここは何かが引き金で戦争かなんかがあって.....


____なにを馬鹿げた事を考えているんだ僕は。

ここが秋葉原なわけない。

そう、そんな訳がない。


「そうか、僕は騙されているのか.....」


「え?」


「きっとこの辺りにカメラがあって.....皆が僕の反応を見て笑っていて....」


「ねえちょっと、ちょっと!しっかりして。」


しかし僕が漁った瓦礫には、カメラなど隠れていない。


嘘だろ.....こんなこと....本当にあるのか.....


僕は両膝をつく。


訳がわからない。

一体ここは?秋葉原なのか?

西暦2016年?

僕がいたのと全く同じじゃないか!


こんなことありえるか?異世界パラレルワールドだと?

一体なにを考えているんだ僕は?そんなことありえない。

つまり最も有力な説は......なにかのドッキリだ。

そうに違いない。


「お前達は.....一体なんなんだ.....?」


「え?」


「お前達は一体僕になにをしたいんだ!?こんな事をして楽しいか?たのしいだろうな!何も知らない人間に色々吹き込んで、どっかからみて嘲笑ってるんだろ!なあ!?」


「一体何を....?」


「惚けるな!ああ、もういい!主催者は誰だ?一体何処のどいつだ!」


「落ち着いてってば!一体あなたはなんの話をしているの!?主催者がどうだとか、一体何!」


「お前もお前だ!こんなくだらない事に僕と全く同じ顔にして!」


「落ち着いて!」


「グルォォォォ!!!」


「「!?」」


今のは.....一体?


「響音器具か?そんなの事までして僕を追い詰めようt「グルォォォォ!!!」


僕の言葉を遮り、再び獣が吠えるような音が鳴り響く。


ドスンッ、ドスンッ、ドスンッ


次にそういう音とともに地面が揺れ始める。

まるで何か、巨大な生物の足音のようだ。


その音と振動は、だんだん近づいてくるようだった。


「......走って.....」


「は?」


「走って!早く!」


そう言い、彼女は僕の腕を引いて走り出す。


「一体どういうことだよ!」


「いいから走っててば!」


「クソ!」


僕は腕を振り払う。


「ちょっとなにやってるの!?」


「それはこっちの台詞だ!いきなり走れって.....なんなんだこの状況は!」


「グルォォォォ!!!」


「!?」


後ろを向くと、倒壊したビルを一本の『柱』が突き破っていた。

その『柱』は更に穴を広げ、巨大な蜘蛛にようなものが姿を現した。

推定全高約15m、ビルを更に倒壊させて出てきた一体巨大な『バケモノ』は僕達を見つけると、複数の目を紅く輝かせ、また吠え出した。


「ぐッ!」


「くッ!」


僕達はその轟音に耳を塞ぐ。


「クソ!見つかった!」


「あ、あれは一体なんなんだ!」


「あとで話すから!」


そう言うと、彼女は腰から剣を抜いた。


「剣!?」


右腰からももう一回り小さい剣を抜く。


そして姿勢を低くしながらその『バケモノ』に向かって走り出した。


「グルォォォォ!!!」


『バケモノ』がその脚を振り下ろす。

それを空中で体を捻りながら躱し、脚の上を走りだした。

そのまま頂上まで来ると上に跳んで脚の付根を剣で一刀両断する。


「グルォォォォ!!!」


切口から緑色の液体が大量に噴き出し、断末魔の叫びとも受け取れる咆哮が響き渡る。

そして腕からアンカーのような物を出して『バケモノ』の体に引っ掛け、地面を転がり、こちらまで走ってきた。

アンカーは切り離したようで腕に付いていない。


「馬鹿!なにやってんの!走って!。」


「あ、ああ!」


その言葉にそんな曖昧な返事をすると、彼女の背を視界に僕も走りだした。


◇ ◇ ◇


「ハァ.....ハァ.....なんで.....トドメを.....刺さなかったんだ?」


「ハァ.....ハァ.....そんなの.....出来るわけ.....無いでしょ!」


「それは.....どういう?」


彼女は息を整え、再び口を開いた。


「あれは小隊以上の規模で狩るような相手よ、私一人で勝てるような奴じゃない。」


「だがさっきは最も簡単に脚を一本切り落として.....」


「あれは最初の一撃だったからよ、次からは斬りにくくなる。」


「____あれは一体なんなんだ?」


「それより、あなたは一体なんなの?」


え?


「僕.....?」


「そう、まるで昔の秋葉原を知ってるような口振りだったし、クリーチャーも知らないようだし、第一、そんな格好で神奈川からここまで来れるはずが無いのよ。」


「・・・」


「一体あなたは誰なの?どこから来たの?どうしてここにいるの?」


僕は.....三葛 蓼だ.....それは間違いない。

中学3年で.....受験生だ.....

友達の名前も覚えている。


___津田に佐野.....石原に.....草野....坂上や多田....

そして....新田。


え.....?ちょっと待てよ....新田って一体誰だ.....?

新田.....新田......新田.....雪.....

新田 雪....?


そうだ、新田 雪。

僕は彼女に告白されて.....

そこから仲良くなって夏祭りに行って......そして....車の上にいた?


待て、夏祭りから車の上にいるまでにいったい何があった?

思い出せ.....思い出すんだ僕....


「ちょっと、大丈夫?」


すると、様子の変わった新田の表情が浮かんだ。


あれは新田じゃ無い.....この後、この後に何かがあった.....


なんだ.....一体なにがあった.....思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ!


「!」


思い出した......

あの後、僕は新田に.....いや、あれは新田じゃ無い。

新田の顔をした別の生物に飲み込まれて....目を開けたら車の上にいた.....


_____全てを思い出した。


「大丈夫?」


「リン。」


「?」


「今から、僕がここに来るまでに体験した全ての出来事を話す。信じられないような内容だが、信じてくれるか.....?」


「___ええ、信じるわ。話してみて。」


僕は新田に告白された日の事から彼女に話し始めた。











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