第15話

真夜中となり、宴会が終わった。

参加し、騒いでいた村人達は各々の家に帰り、眠りについた。

疲れたのか、それとも酒の飲み過ぎで酔っ払ったのか、宴会の時とは一変し森は静寂に包まれ、月明かりが照らしている。

そして、そんな中、俺、誠一はどうしているかと言うと、


臨戦態勢でホブスさんと対面していた。



俺は全身を鎧で包み、右手には刀を、左手には盾を構えている。

対して、ホブスさんは自然体で立っているだけだ。



事は一時間前に遡る。



アンちゃんの爆弾発言の後、アンちゃんの説得を試みたのだが、断固として自分の意志を曲げず、俺は折れた。

だって、駄目って言おうとすると泣きそうになるんだもん。俺には無理だよ。


しかし、アンちゃんが一緒に来るとなると、一番の難関がある。


あの親バカホブスだ。

自分の娘が、村を出て俺に付いて来るのだ。

もし、そんな事を聞けば、間違いなくアイツは理性を失い、復讐の獣と化すだろう。


襲われると分かっていて話したくはないが、避けては通れない道だ。

そして、俺は【森羅万生】で造り出した刀、盾、鎧を装備し、万全の状態でラスボスホブスに立ち向かい、現在に至る。





「いいぞ、別に」


「・・・・・・え?」





俺は耳を疑った。

ホブスの口から、予期しなかった言葉が放たれたからだ。

誠一は一瞬思考停止をしたが、


「有り得ない!さては、俺の隙を作って、亡き者にするつもりだな!小さな頭でそんな策を良く考えたな!」


「お前にとっての俺のイメージがよ~く分かった。それについては後で問いただすとして、俺はいいぞって言ったんだ」


誠一はこれまでのホブスを思い出し、狼狽うろたえながら盾を構え直した。

自分の事を全く信用しない誠一に、青筋をたてながらホブスは説明した。


「前に夫婦でバビオンにいたって話したじゃねえか。あれは成人の儀で行ったんだよ」


「成人の儀?」


戸惑う誠一にホブスは説明をした。

ホブスさんの説明によると、人狼族では子供を村から旅に出し、世界を学ばせるそうだ。

ホブスさん夫妻は、幼馴染だったらしく、十三才の時に二人で一緒に村を出て成人の儀を行ったらしい。


「つまり、成人の儀のアンちゃんを俺に同伴させるという事ですか。でも、それって成人の儀として良いんですか?」


「いいんだよ。昔は誰も知人がいない地で、一人でやらせたそうだが、最近は、町にいる親戚の家に預けるなんてのもあるから」


なるほど、だからホブスさんは怒らなかったのか。

しかし・・・


「俺で良いんですか?」


「お前を信頼しているからな」


「ホブスさん・・・!」


「コカトリス並みに強いボディーガードなんて他にいないし」


「ああ・・・やっぱり。そんな事だろうと思っていましたよ」


俺の力(物理)を認められ、嬉しいような、虚しいような。

落ち込んでいると、不意にホブスさんがここ一番の笑顔になって誠一の耳元にささやきかけた。


「ただし・・・娘に手を出したら容赦しねえからな。分かってるよな?」


「は、はい!もちろんですよ!ハ、ハハハハハハ」


ドスを利かした声で釘を刺され、誠一は渇いた笑い声しか出なかった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


宴会から翌朝、そこには四人の人影がいた。


ホブス一家と誠一だ。


誠一の服装は、ホブスのお下がりではなく、カミクロの上下セットだ。

レダさんが修復し、朝に渡してくれたのだ。


「本当にありがとうございます、レダさん」


「下手でごめんなさいね。あと、お礼なら夫に言ってあげて」


「おい、レダ!」


「この人、私に誠一の服を直そうって言い出して。色が同じ布を探して、ご近所さんから貰ってきてくれたのよ」


「ホ、ホブスさん・・・!」


ホブスさんは、レダさんに秘密をばらされ、顔を赤くし照れている。

俺はホブスさんの心遣いに心打たれた。

いつもは駄目で、不真面目で、どうしようもない重度の親バカだと思っていたが、改めて見直した。


「何故だろう、誰かに貶されている気がするんだが」


「そんなことないですよ」


意外に鋭いホブスさん、野生のかんだろうか。

話をそらすべく、誠一は話を進めた。


「短い間でしたが、ありがとうございました」


「お父さん、お母さん行ってきます」


「セーイチ、また来てね。アン、迷惑かけちゃダメよ」


「うん、分かった!」


元気よく挨拶をするアンちゃんの頭を撫でながら微笑むレダさん。

レダは頭から手を離すと、そっぽを向いているホブスの方を見た。


「ほら、あなたも何か言って」


「・・・アン、元気でやれよ。困ったことがあったら、すぐに相談しなさい。お父さんたちが駆け付けるから」


「うん!お父さんも元気でね」


恥ずかしがってたホブスさんは、自分の娘と目線を合わせ、優しく語りかけた。

こうして見ると、立派な父親にしか見れない。

しかし、アンちゃんにマジで何かあったら例え地の果てだろうが来そうだな。

すると、話を終えたホブスさんは、不意に俺の顔を見た。


「誠一・・・」


「は、はい!」


突然、話しかけられ驚く誠一。

娘に手を出したらコロスと言われ、また脅されるのかと怯える。

そんな、誠一にホブスは、




「娘を、アンを頼む」




真摯に頭を下げた。

誠一の目の前には、一人の娘を思う父がいた。

誠一は、一瞬、呆気にとられるが、すぐに真剣な顔をして、



「任されました」



父親の信頼に答えた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


村の入り口に、ホブス夫妻が立っていた。

アンと誠一は二人に別れを告げ、既に村を去って行った。

母と父は娘の姿が見えなくなっても、未だに娘がいるであろう方向を見ていた。


「行っちゃったわね」


「そうだな。・・・・・・レダ」


「なに、あなた?」


「もう我慢しなくていいんだぞ」


「・・・・・・・」


その言葉を口切りに、レダはホブスの胸に顔をうずめた。

微かな嗚咽おえつの音と共に、ホブスの服に染みが生まれる。


「ウウ・・・ヒック、あなだ~」


「よくこらえた。大丈夫、二度と会えないわけじゃないんだから」


ホブスは妻の涙を受け止め続けた。

しばらくし、レダは泣き止み、夫の胸から顔を離す。


「ヒック・・・ごめんなさい」


「良いってことよ。たまには、俺にも頼れよな」


「・・・フフ、ありがとう」


涙をふき、笑顔になるレダと白い歯を見せるホブス。


そこには、仲むつましい夫婦の光景があった。














「ところで、レダ」


「何、あなた?」


「少しの間、膝を貸してくれ」


「・・・はあ~、本当にあなたという人は」


レダは何かを察し、呆れながらも破顔して腰を下ろす。

ホブスは、その膝に顔を埋めると、




「うわああああああん!俺の娘が、他の男の所に行っちまったよー!」


「大の男が泣かないの。ほら、いい子、いい子」




声をあげ、レダにすがりつくホブスとなぐさめるレダ。


やっぱり、最後は締まらないホブスであった。





第一章  ~完~

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異世界にて料理はいかが(仮題) NewBLTサンド @rook

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