第2話 『嵐の日』

 バルトニアの忌むべき日、『嵐の日』。

「どうかまた此処に現れて、此処で死んでくれ『血の狂人』よ」

イデア様の『巨人』の儀まであと数日を切った、彼奴が此処の『聖堂』に現れるのかは正直賭けだが、『儀式』の場に居れば取り逃がす事はないはずだ。今思えばイデア様が『血の保有者』に選ばれたのも此処だった。

「絶対に殺す…『神』に等しい存在だろうと。僕の手で息の根を止める。『カタリアの血』を塞き止める。」

「あらぁ、怖い顔しちゃってぇ。」

突然後ろから耳元に「ふーっ」と息を吹き掛けられる。

「ひゃわぁー!!?」

「可愛い声出しちゃってぇ、そんな顔してないで私と、イ・イ・コ・としましょ?」

全身に鳥肌が立つのが分かる。先程までの純粋な『怒り』とは違い微妙な苛立ちを感じる。

「僕の後ろに立つなぁぁ!!!」

「ちょ、わっ!! …いきなり右ストレートはひどいわよぉ」

渾身の右を容易に受け止める華奢で色白な手、可愛らしい顔なのに真っ赤な二つの目が妙に大人びている。初対面のやつは大抵がおとされるのも納得できる美少女顔だ。…だが、これで僕の上司、しかも『処刑者ノイ』だなんて二つ名まで持ってる。

「なぁに?その『何でこんなのが僕の上司なんだろ』みたいな顔わぁ」

「ソンナコトアリマセンヨ」

じとぉっとした目で見るのは止めていただきたい。元々嘘はつけない性格だし、そもそも、そこまで分かってて聞いてくるのもたちが悪い。

「ところぉで、こんなところで何してるわけぇですかぁ」

「何となく寝れないので夜風に当たりに」

「あっ、こら! そっぽを向くな」

ノイの瞳が爛々と輝く、怒ってるときの輝きかただ。

「真面目な話、イデア様の儀式まであと一日しかない、今日までうちの騎士団は『嵐の日』に備えている、今だって精鋭を集めた部隊が此処を取り囲んでるだ」

「僕だって、僕だって戦える!僕がやらなきゃいけないんだ…だって、僕が生まれなかったらこんなにも、誰も…誰も傷付かず済んだんだから!!!」

「生憎、お前に構ってる余裕はないんだよ。大人しく帰れ」

足がすくむ、情けない。本物の実力者の眼光は、まるで脊髄を舐めあげられるように体を硬直させる。

「確かに、あんたは強いよ、僕とは比べ物にならない。いや、こんなこと言ってるのもおこがましいよな。だけど…だけど、俺の血で全部終わらせるのが正解なんだよ!!!!!」

「そう思ってる内は、何も救えないし、正解なんて見つけられないよ。所詮は自己満足さ、だから私みたいな『竜』にも成りきれない馬鹿に道を塞がれるんだ」

眼球を抉り取られるような『熱』と『光』に意識を奪われた。瞼の裏にノイの悲壮な顔を焼き付けたまま。

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