最終話 “参加者”

「とまあ! 今回あたしと上社くんがやったゲームの全容を明かしたところだけど……実は、もうひとつ、あたしは仕組んでたことがあるの」


 散々僕は、下田さんから負けを突き付けられた。そんな僕を、まだ蔑むというのか……?


「“メール・ゲーム”開始前、お互いが承認したことを証明するため、“参加者”同士がメールをしないといけない。けどあれ、いつもの日記みたいな所に表示されてた?」

「いや……あくまで、“参加者”権限を執行した時のものしか……」

「“参加者”同士のゲームだって、立派な“参加者”権限を行使したメールよ? それなのに、表示されないのはおかしいと思わない?

 ちなみに、これまでのゲームはちゃんと表示されてたわ。今回のゲームは、あたしの方にも表示されてないけど」


 それはどういう……。


「あたし、送らなかったのよ、“メール・ゲーム”の内容」

「はぁ!? それじゃあさきのゲームは不成立!? いったい僕らは何のために戦って……!」


 そもそも、何で下田さんはそんなことを!?


「あたし言ったわよね。最初に怒ったのは演技で……あれは相手の反応を見たるため。で。上社くんの反応は面白かった、って」


 その面白いは、どう考えても嘲笑の対象という意味にしか……。


「そもそもね、この“メール・ゲーム”をやる前から、あなたはあたしが倒すべき対象だったわ。テストやスポーツなどでね。

 で、そんな相手が次のゲームの対戦者になった……嬉しかったと同時に、残念だとも思った。あなたは“参加者”としての経験が浅い。だからどうやったって、あたしがゲームに勝つなんてことは分かってたから」


 言ってくれる……! と言いたいところだが、僕は実際に負けた。何も言い返すことは出来ない……。


「さてちょっと話が戻るけど、あたしは全ての“参加者”に勝ちたいと思ってる。けどね……何人いるか、日本のどこにいるのか、あるいは世界のどこかなのか? 何も分からない“参加者”達。あたし1人でそれを成すのは、ちょっときついなーとも、思ってたわけ」

「下田さん……まさか……!」

「そう!

 今回やったゲームは、“参加者”権限を奪い合うためのものじゃない! あたしが上社くんを見極めるためのやったゲーム! だからあたしは、ゲームのルールをメールで送信しなかったのよ」


 僕を見極めるため? 傲慢な!

 でも……これで僕は“メール・ゲーム”で敗北したわけじゃない……むしろやってもいない。“参加者”権限は失っていないということ……!


 全部、下田和乃の手の平の上だったのか……。


「下田さん、勝手に盛り上がってる所悪いけど……」

「やらないとは言わせないわよ! もしやらないのであれば……あたしはあなたの“参加者”権限を失わせるわ」


 は? そんなこと出来るはずがないだろう。

 “参加者”権限を行使して僕に行動を強制させることは出来ないし、この力は、何を引き返しにしても失いたくない!


「あと、2日かしらね」


 あと2日……?


「あ!」


 ルール……“メール・ゲーム参加者のルール”……!


・“参加者”が“参加者”を発見した場合、1週間以内に“メール・ゲーム”を行わねばならない

・ゲームで敗北した“参加者”は、いっさいの“参加者”権限を失い、これが復活することはない。また、1週間以内にゲームを行わない場合も同様である


「いや、ちょっと待ってくれ! 下田さんの考えていることを実行したら下田さんまで!」

「嫌でしょ?」


 下田さん……僕がもう、下田さんの話に乗るしかないこと、確信して……。


「そこまで言うなら仕方ない、と言いたいところだけど……」

「あたしと上社くんが行う“メール・ゲーム”、これは、ルールの裏をついて、これすら利用して“参加者”探しをするわ!」


 もう僕が何も言わなくても話は進みそうだ……。


「“メール・ゲーム”は、あくまで1週間以内に開始しないといけないってだけ……勝敗がいつ付くか、ということは関係ないの。これを使えば……」

「そうか……勝敗が一向に着かないゲームにすれば、僕らが何をしようと関係ない!」


 例えば今回、僕らがやったゲームは、相手の隠した物と場所を見つけて宣言するまでは勝敗が付かない。そういったゲームなら何の問題もないということ。


「今夜、今度こそあたしと上社くんの“メール・ゲーム”を、送信しましょう。ゲームは単純明快。

 『“メール・ゲーム”を仕掛けた犯人を見つけた方の勝ち』

 これで決まり!」


 な……それは……。


「驚いた?」


 驚いたさ……絶対口には出さないけどな。

 下田さんは、“参加者”を探すだけじゃない……“メール・ゲーム”の全てを知ろうとしているのか……!


「そのゲームなら、勝敗はずっとつかない。

 しかも、“参加者”くらいならいくらでも見つける方法はあるけど、全ての黒幕を見つけることはそう簡単じゃない。だけど……」

「そう! これをゲームにしたことで、あたしか上社くんの“参加者”権限が使えなくなった時、まだ使える方が見付けた人が……黒幕で決まり!」


 ここまで下田さんが考えていたなら、いよいよ僕も引けなくなってしまった……。でも、最後にひとつ、確認しないといけない。


「下田さん、下田さんは何で、そこまで知りたいんだ?」


 下田さんは、手を腰にしたまま、僕の顔の前に、ずいっと顔を寄せて、


「この“参加者”権限! 超万能な力だけど、“参加者”相手には効かない! けど、“メール・ゲーム”を続ければ“参加者”は減らすことが出来る……世界を牛耳れるじゃない!」


あまりに輝く笑顔でそう言った。


 まるで大げさな表現じゃない。この権限を使えば、間違いなく、それが出来る。


「上社くん! セカイセーフク、やってやろうじゃない!」


 少し前まで、勉強しか知らなかった僕。

 でも下田さんは、本当に色々なことを知っていそうだ。


 世界征服……付き合ってみるか!


 下田さんが指差す空の上。僕もそこを、真っすぐと見つめた。

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メール・ゲーム DAi @dai_kurohi

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