第14話 ジョン・ファウスト。

 同類を引き連れて砂漠を進んでいると、ルシファーのレーダーが大多数の移動物体を捉え、メインカメラの望遠機能で前方の映像を拡大すると、土煙を上げながら向かってくる小型外獣の大群が見えた。


 ルシファーの射程圏内に入ると、左腕のマシンガンを撃って最前列の敵の一部を撃ち殺し、さらに距離が縮まると、機体の出力を上げて地面からジャンプして、ビーム刃を放出したビームソードを振り下ろしながら敵群に飛び込んだ。

 回避の間に合わなかった外獣を焼き殺しながら地面に当たったビーム刃は大量の砂塵が噴き上げさせ、砂の粒が降り注ぐ中、四方八方から向かってくる敵を、振り回したビームソードとバルカンの同時攻撃によって倒していった。


 その間に追い付いた機動兵器が敵群に雪崩れ込んできて、敵味方入り乱れての混戦状態となり、同類から何十発もの誤射を受けたが、ルシファーには傷一つ付かなかった。


 小型をある程度倒すと、後方から大型がやって来て、剛毛で覆われた右腕で殴りかかって来るも、高速回転させた左パンチで対抗し、性質の異なる二つの拳がぶつかると、大型の右腕は肉片を撒き散らしながら削れていき、そのまま頭部を削ぎ落として殺した。

 右腕と顔の無い死骸が倒れる中、中型が角を振り回しながら突進してきたが、左腕を飛ばし、顔面から突入して尻から貫通させることで倒した。

 そこへ地鳴りが起こって、地面から超大型外獣が砂塵を撒き散らしなら姿を見せ、回避の間に合わなかった同類が弾き飛ばされていく中、延長したビーム刃を横一直線による一振りで真っ二つにして、攻撃行動に出る前に斬殺した。

 ここまでの戦いにおいて、改めてルシファーの高性能を実感すると共に、機動兵器がいかに最低レベルの兵器であるかを痛感したのだった。


 銃撃や鳴き声といった激しい音が止むと、戦場には機動兵器の残骸と外獣の死骸が散乱し、所々で黒い煙を上げ小さな音を立てる残り火が焚かれていた。当然のことながら外獣は全滅だった。

 一方、機動兵器は半数以上が破壊され、残っている機体も五体満足なものはほとんど無く、どれも概ね損傷し、中には動けなくなっているのもあった。


 「全機、撤収させろ」

 ウェルギリウスに命じた。

 「了解、あなたはどうされるのですか?」

 「この先へ行く」

 同類に背を向け、ペダルを踏んで、ルシファーを前進させた。


 外獣がどこから来るのか知りたくなったのだ。


 戦場を離れてどのくらい進んだのか分からないが、砂漠と残骸ばかりで、目新しいものは何も見えず、レーダーも動くもの一つ探知しなかった。


 それでも構わず進み、望遠機能を併せて、周囲の風景を見ていると、正面モニターにこれまでの風景とは異なるものが見え始めたのと同時に警報が鳴り、レーダーが上空に一つの機影を捉え、空に目を向ける前に右方向に一筋の赤いビームが見えた。

 ビームは地面に当たった後、機体の進路を妨げるように、前方を横切り、その後すぐ着弾箇所を起点に大きな爆発が発生したので、停止して急速バックしたことで直撃こそ免れたものの、衝撃の強さに後方へ吹き飛ばされ、背面を叩き付けられたが、砂漠であったことと乗っている機体がルシファーだった為に、僕自身への振動は少なく、軽く背中を打った程度で済んだ。

 機体を立て直しながら再度上空を見てみると、機械か外獣か分からないものが浮かんでいて、さっきのビームを発射したのがそれだと判断した。


 それは、ゆっくりと降下してきた。

 先ほどの行動を攻撃行為と判断した僕は、攻撃しようとしたが、射程圏外だったのでどうすることもできず、射程圏内に入るまでその場で待機しつつ、フットペダルを軽く踏むことで、いつでも攻撃を回避できるように備えた。

 

 距離が縮まっていくに連れて、形がはっきりと見え出すと、それは人型をしていることが分かった。機動兵器、ガンテツ、ルシファーよりも遥かに人間に近く、背中には飛行型外獣のように翼が生えていて、角に似た一本の突起物のある頭部には二つの目が有り、手には大型のライフルを持っていて、色は全体的に赤かった。

 その一方、大きさに関してはかなりの差があって、スキャンさせたところ、三十五メートル有るとのことで、ルシファーとは五倍の身長差だった。


 射程圏内に入り、左腕のマシンガンを撃ったが、それは避けず弾は全弾命中したものの、赤い外装の前に全て弾かれてしまい、射撃を止めて左腕を飛ばしたが、相手の左腕に掴まれるなり砕かれ、手を開くと同時に破片が地面に落ちていった。

 ビームソードを最大に伸ばして斬り付けようとしたが、それよりも早くビームが発射され、すぐにビーム刃を回転させて防御に回ったが、ビームに押し負け右腕は丸ごと溶解した。


 武装が尽き、撤退しようとすると、数十メートル先に発射されたビームによって引き起こされた爆発によって進路を塞がれ、振り返った時には地面に着地していた巨大兵器に腹部を蹴られて、吹っ飛ばされ、立て直そうとするより先に右足を機体の両足に乗せられたことで、身動きが取れなくなった上に、コックピットにライフルの銃口を突き付けられてしまった。


 「おい、その機体のパイロット、ハッチを開けて出てこい」

 巨大兵器から人の声が発せられたる。ルシファーや機動兵器と同じく人が乗っているようだ。

 そうして、このまま撃破されるのはまずいと判断し、指示通りにハッチを開けて外へ出た。

 「ようし、それでいい」

 言い終わると、巨大兵器の胴体中央部が上向きに開き、それに続いて内部の装甲が下向きに開くと、中から僕等のパイロットスーツとはデザインの異なるスーツを着た一人の人間が現れ、上向きの装甲から引き出されたワイヤーに付いているフックに手足を掛けた状態で、地上へ降りると、僕の正面に歩いてきた。


 「ヘルメットを取れ」

 「地上の空気を吸ったらまずいんじゃないのか?」

 「ここは楽園の影響化にあって空気も正常だから、ヘルメットを取っても問題無いぞ」

 言われるまま、ヘルメットを取った。言った通り空気は正常で、理想郷で吸ったものと大差無かった。

 「ほんとに、俺と同じ顔をしているんだな」

 相手も同じように取ると、現れたのは僕と同じ顔だった。

 「同類だったのか」

 「違う。お前達のオリジナルだ」

 「ジョン・ファウストか?」

 「そうだ」

 巨大兵器に乗っていたのは、僕等クローン兵のオリジナルであるジョン・ファウストだというのだった。


 「理想郷で戦死したと聞いたぞ」

 「戦死扱いにされただけだ。実際こうして目の前にいるだろ」

 笑った顔は、ハデスと同じだった。僕も笑うとこうなるのだろうか?

 「だったら、証拠を見せろ」

 「お前等は首の後ろにデータ収集のケーブルを繋ぐプラグと製造番号が刻印されているだろ。俺にはそれが無い」

 言いながら後ろを向くと、同類やベアトリーチェにあったプラグや刻印は見られなかった。

 

 「どうだ。信じる気になったか?」

 「信じよう。だが、なんで生きているんだ? 100年以上経っているのに」

 「ちょっとした技術の恩恵さ」

 「それでオリジナルのジョン・ファウストが、ここで何をしている?」

 「この先にある”楽園”の警護だ」

 「楽園?」

 「自然派の連中が造った理想の世界さ」

 「その施設を何から守るんだ?」

 「人間からに決まっているだろ。人間は自然を食い物にするからな。そこで楽園にとって今の人間が脅威と感じた場合、俺の出番ということになるわけさ。そうそう俺の機体はウリエルって名前だ。なんでも聖書とかいうありがたい書物に出てくる楽園を守る天使様の名前なんだってよ」

 「あの巨大兵器はウリエルというのか、それと人間だが、今は何もできないぞ。理想郷の外に世界があることさえ知らないからな」

 僕は、理想郷の現状を話した。


 「だったら、この機動兵器はなんだ? だいたいお前クローン兵だろ。どうしてここへ来た? 戦いが終わったら引き上げるもんだろ」

 僕は、ここまでの経緯を話して聞かせた。自分のオリジナルに自身の話をするのはなんとも奇妙な気分だった。

 

 「へぇ~それでお前は、俺の女のクローンと性行為して絞め殺して食べた上でここへ来たというわけか」

 話しを聞き終えたジョン・ファウストは抑揚を欠いた低い声を出していた。

 「そうだ」

 「お前のことパーツマンって呼んでいいか?」

 「構わないぞ」

 問題無いので、即答した。


 「それならパーツマン、お前を殺す」

 「何故僕を殺す?」

 「そりゃあ、俺の女を殺したんだから復讐するのは当然だろ」

 「ベアトリーチェは、ミル・メフィストのクローンだぞ。オリジナルじゃない」

 「クローンでも俺の女と瓜二つのもんを殺されて、黙っていられるか!」

 ジョン・ファウストは、左腰に下げている棒状の物を右手に持つと、先端からビームソードのようにビーム刃が出た。

 「こいつで斬り殺してやる! お前、人間の指示には従うんだろ。だったら俺の指示にも従うよな。そこで大人しく立っていろ」

 僕は、言われるまま立ち、ここで殺されていいものかと考えている中、ビームソードが振り下ろされてきた。

 

 「ぎゃああああぁぁぁぁぁ~!」

 僕は、これまで発したことのない音域の声を腹から出していた。死ぬと思っていたのに左肩に強烈な痛みを感じたからだ。

 痛みに耐え切れず、両膝を折って地面に蹲りながら左肩を見てみると、左腕がどこにも見当たらない代わりに傷口からは煙が上っていて、視線を下げると左腕は地面に落ちていて、切断面からは体と同じように煙が上っていた。

 「殺すんじゃないのか?」

 傷口を押さえながら言った。傷口が熱いことから、ビームよって焼き斬られたことで、血が出ない代わりに熱を持っているのだと分かった。

 「一回で殺しちゃ恨みは晴らせないだろ。たっぷり痛ぶってやる。次は足だ!」

 ビームソードが振り下ろされる前に、僕は右側に側転して避けた。

 

 「なんで避ける? 俺に殺されるんだろ」

 「僕にも分からないが、ここで死ぬのは嫌だと判断した」

 「人の女そっくりのクローン殺しておいて何言っていやがる!」

 僕は、ジョン・ファウストに背を向け、傷口を押さえつつ逃走した。 

 「逃げるんじゃねえよ!」

 返事をせず、全力で逃走に徹した。傷の痛みはかなりのものだったが、死にたくないという気持ちが足を動かしていた。 

 その一方、相手もかなりの脚力があって、背後に付かれ、振り下ろされるビームソードによって、何回も背中を斬り付けられた。

 

 そうしている間に二機から離れ、気付けば左腕の残骸のあるところまで来ていて、何か武器になるものを探したものの、破片くらいしか見当たらなかったが、無いよりはマシと思い、投げられるサイズのものを掴んで投げていった。

 「そんなもんで、俺を止められると思ったか!」

 ビームソードで残骸を斬りながら迫ってきた。

 何回目かの投函で投げたものが斬られると、中から油が飛び散って、ジョン・ファウストの全身にかかった。

 「くっそ~! 目が~!」

 両目にもかかったらしく、視界が効かなくなった隙に飛び掛かってビームソードを奪おうとしたが、予想以上の抵抗力と片腕が無いというハンデの前に揉み合う形になった。

 ビームソードを振らせまいと右腕に絡みつき、左腕で何回殴られようとも決して離さなかった。

 そうしている内にビーム刃が油の付いた箇所に触れたことで引火し、ジョン・ファウストは火だるまになった。


 火の熱さにのたうち回っている間に落としたビームソードが目の前に転がってきたが、このまま焼け死ぬだろうと思って見ていると、一向に死ぬ気配も無く、自ら全身に砂を捲いて炎を消すと、何事も無かったかのように立ち上がった。

 「なんだ。その姿は?」

 僕は、そう聞かずにはいられなかった。

 何故なら、炎から解放されたジョン・ファウストは半身が機械で出来ていたからである。

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