第13話 殺人。
「寿命で死ぬんじゃダメなのか?」
「さっきも言っただろ。百年生きていると。私はその役割故に長寿を与えられているいつ死ぬのかは自分でも分からない。だが、もうこの世界で生きること自体が苦痛で耐えられないんだ。寿命で死ぬまで待っていられないんだよ」
「二世代目のように自殺できないのか?」
「その一件があった為に私は自殺できないように心理プログラムが施されている。お前が敵の排除を最優先にするのと一緒だよ。だから他の者でなければダメだが、人間には管理者である私は殺せない。だが、同じクローンのお前ならできる。だから、頼んでいるんだ。お前がここに現れたと聞いた時、私は心の底から安堵したよ。やっと殺してくれる者が来たと確信できたからな。さあ、殺してくれ」
「どうやってだ?」
僕は、方法を聞いた。
「首を絞めてくれ。あっさり殺されては命の重さを感じられない」
「分かった」
僕は、ベアトリーチェの首に両手を掛け、力を込めて絞めていった。両手全体に喉の感触が伝わってくる。
「躊躇い一つ無しか、さっき性行為した仲だっていうのに」
薄笑いを浮かべながらの言葉だった。
「お前が、そう命じたからだ」
「お前は、立派なクローン兵だよ」
その後は無言で首を絞め続けたが、ベアトリーチェは一切抵抗しなかった。
どのくらい絞めていたのか、ベアトリーチェは動かなくなり、首から両手を離し、心臓に触れると停止していて、脈も呼吸も無く、完全に死んだと分かった。
死体となったベアトリーチェの側に居ずらくなった僕は、ベッドから降りて床に座って両手を眺めた。ガチメタルで人間や同類を殺してきたが、それはガンテツに装備されている武装や拳銃といった武器を使って行ってきたことで、自分の手でもって直接殺したのはこれが初めてだった。そのせいなのか、胸の奥がえぐられたような、なんとも言えない気持ちになった。
そうして気付けば肘の上に置いた両腕に額を乗せた姿勢のまま何もできず考えられなくなっていた。
いつまでそうしていたかのは分からないが、窓から日が差しているので、朝になったことを知り、体を起こしてベアトリーチェを見ると、とても安らかな顔をしていた。
「なあ、人を殺すことを人間社会ではなんて言うんだ?」
ウェルギリウスに聞いてみた。
「殺人と言われています」
「ここでは殺人は無いのか?」
「理想郷ではそのような事態は発生しません。こうなる前の社会では頻繁に起こり、その為投獄に処刑といった罰則が存在しました」
「僕は、罰せられるのか?」
「あなたは人間ではありませんし、管理者なので罰することはできません」
「そうだったな。僕は管理者になったんだな」
ベアトリーチェから、引き継いだ立場になったことを思い出した。
「死体はどうすればいい?」
死体をこのまま放置するのはまずいと思い、処置法を聞いた。
「通常死体は焼却され、その灰を墓に入れますが、クローンの場合は研究用に回収されます」
「もう回収など必要は無いだろ。他に処分する方法は無いのか?」
「クローン兵は戦場で死にますが、長寿のクローンに関しては研究による回収以外の前例が無いので回答できません」
「そうか、お前も分からないことがあるんだな」
「申し訳ありません」
「死体の処分に付いても考えておいてくれよ」
死体に声を掛けるという実に無駄なことをした。どうしたこんなことをしたのだろ?
このまま放置するのも焼却するのもおかしいと思った僕はある処分方法を思い付き、ウェルギリウスにルシファーに搭乗した状態で死体処理区画に移動できるように指示を出すと、裸のまま死体を担いで部屋を出た。何故かスーツを着る気になれなかったのだ。
エレベーターに乗って地下へ降ると、制服を着た男達と出くわし、全裸であることに驚いたが、管理者になった為か何も言わず道を開け、そのまま進んでルシファーの前に来た。
「ルートの確保完了しました。管理者より受け取られた情報取得装置にてルートを表示します」
「あのサングラスのことか、確かルシファーの中だったな」
ハッチを開け、死体を乗せた後に僕自身が乗って、シートに座って死体を脇に置き、ハッチを閉じつつメインスイッチを押しつつ、拾い上げたサングラスをかけてペダルを踏み、ホバー走行でタワーを出た。
理想郷に出ると、レンズにルートが表示されたので、その通りに移動すると、ルート上の道路にはホバークラフトは一台もおらず、スムーズに進むことができた。
理想郷の区画外に出て、生産プラントが近付くとルシファーでも余裕で入れる大きさの横開き式の自動ドアに着き、機体を停止させると同時に開いて中に入った。その後は大型の作業機械を搬入する為の通路に沿って進んだので、内部を破壊することなく死体処理区画に行くことができた。
目的の場所に着くと、ルシファーから降りて、稼働している設備を止めさせ、レーンに乗っている他の死体をどかし、ベアトリーチェを乗せたところで再稼働させた。
死体が処理機の中に入ると、以前見た通り、栄養食と栄養ドリンクに処理されてレーンを流れてきて、それを全部手に取って摂取した。こうするのが一番いい気がしたからだ。
その後、理想郷に戻る気にもなれず、じっとしているとウェルギリウスから外獣の襲来があるという知らせを聞き、僕を指揮官にして全機を発進させるように命じ、ルシファーに乗って搬入路を通ってハンガーに向かった。
ハンガーに着くと、生産を終えた機動兵器が並んでいて、その先頭に立つと、右からは戦闘で生き残り、左からは今日生成された同類が出てきて搭乗していく中、僕はルシファーから降りて、機動兵器の頭を飛び超えながら通路に着くと、左の部屋に入って、残っているパイロットスーツを着用した。
全身を包むパイロットスーツの久々の感触に、僕は本来の自分に戻れたような気がした。やはり僕はクローン兵なのだ。
ハンガーに戻ると、ルシファーを先頭に搭乗を完了した機動兵器が並んでいて、来た時と同じ方法で機体に再搭乗し、メインゲートが開くのに合わせて、二足歩行で前方に移動を開始して、外に出るとホバー走行で前進し、その後ろに同類の機動兵器群が続いた。
僕は、大多数の同類を引き連れて戦場へと向かった。
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