第9話 基地。

 僕は、基地に帰還できず、ルシファーで砂漠を走り続けていた。


 基地の場所が分からなかったのだ。

 地下施設には気を失っている間に連れて来られたので、自分が現在どの地点に居て、基地がどこなのか検討も付かず、ルシファーのメインカメラの望遠機能を使い、巨大なものを見つけて近付くと、岩や廃墟という行為を繰り返していた。


 その間、僕はルシファーに搭載されているサポートシステムを通して、性能情報と操作方法を習得していた。

 浮遊しての移動はホバーリング、光剣はビームソード、射出する左腕はブーストパンチなど、この機体に使われている技術と利便性の高さに、これまで乗ってきた機動兵器やガンテツが不便な機種に思えてきた。

 ハデスが、どうやってこの機体を製造したのか気になったが、死んでしまったので確認する方法は無かった。


 それとは別に空腹を感じていた。地下施設を出て以来、なにも摂取していなかったからだ。何故かウォン達からもらった食物とコーヒーを思い出していた。かなりの圧迫感を生じさせるものだったのに、どうしてだろう?

 

 基地に帰還すれば栄養食を摂取できるだろうと、周囲を見回している中、煙を上げながら進んでいる集団を発見した。

 外獣であることを考慮して、警戒しながら近づいていくと、同類が乗る機動兵器の集団であることが分かった。

 僕は、機体の速度を一気に上げて集団の数十メートル先で停止した。彼等から基地の場所を聞こうと思ったのだ。


 視認できる距離になり、ルシファーのハッチを開けるよりも早く、機動兵器が攻撃してきた。僕を敵と認識したらしい。

 機体を左側に移動させて攻撃を回避し、そのまま集団から離れていった。話は無理と判断したからだ。

 距離が離れると、集団は攻撃を止めて、移動を再開した。外獣を倒すことが本来の任務である為、僕を深追いする必要が無いからだろう。


 遠ざかっていく機動兵器の後ろ姿を見ている中、ローラー跡を逆方向に進めば基地に行けると考え、跡を辿っていった。

 そうして進んでいくと視線の先に白くて巨大な外観が見えてきた。それは僕が生成された基地だった。

 壁に近付いたものの、入り口がどこだか分からず、ルシファーに壁をスキャンさせながら、機動兵器の発進箇所であるメインゲートの場所を見つけたが、完全に閉じた状態だった。

 

 「外敵有り、外敵有り」

 抑揚を欠いた声の後、壁の上部が開き、内部から大砲のようなものが迫り出し、砲身をこちらに向けるなりビームソードと同じ色のビームを発射してきたので、バックして回避すると、直撃を受けた地面は大きな爆発を起こし、着弾箇所には真っ黒な穴が空いていて、幾筋もの白い煙が上っていた。

 ブーストパンチで破壊しようかと思ったが、基地に損害を与えてはまずいと思い直している間に、他の箇所からも砲台が現れ、一斉に撃ってきたので、機体のスピードを最大にして基地から離れることにした。その間、砲台はビームを連射し続け、ルシファーの後方一帯を爆発で覆い尽くした。

 他の機種であったなら、今の攻撃で破壊されていたことだろう。


 垂直にほど近い勾配を下って着地すると、爆発音がしなくなったので、ルシファーの首を伸ばして、基地のある方にカメラを向けて様子を伺ってみると、砲台は全て壁に収納されていた。姿が見えなくなったので、外敵である僕を排除できたと判断したにちがいない。

 ルシファーで近付けば撃たれるが、僕だけで行って撃たれないという保証も無いので、機動兵器の帰還を待って、ゲートが開いたところで中に入ることにした。


 機体を停止させて待っている間、戻ってきた機動兵器と直に接触した場合、再度攻撃される可能性があると考え、ローラーの跡を辿って、戦闘区域へ向かうことにした。

 外獣と戦闘している機動兵器の様子がメインモニターに映し出されると、流れ弾に当たらないようにカメラが捉えられる限界の距離で停止して、戦闘の様子を見ている中、夢で見た光景と似ていると思った。


 戦闘が終了し生き残った同類達が、基地へ帰還していく中、気付かれないと思える距離を保ちながら後へ付いていった。

 基地が見えてきて、ゲートが開くと、スピードを上げ、機動兵器を押し退けるようにして中に入った。


 「侵入者有り、侵入者有り」

 ルシファーが基地内に入ると、警報が鳴り、基地の外で聞いたのと同じ声による警告が発せられた。

 「僕は、この基地のクローン兵だ」

 ルシファーのハッチを開け、ヘルメットを取って声を出した。


 「侵入者を排除する」

 僕の行動は意味を成さず、警告の後、天井から銃器らしき物の付いたアームが出てきて、ビームを発射してきたので、機体に乗って回避すると、直撃を受けた床には砂漠と同じ規模の穴が空き、その後に出てきた他のアームと合わせて連続発射してきた。

 僕は、ハデスがやったように射出したビームソードを回転させながら、ビームを弾きつつ、逃げられる場所はないかと施設内をスキャンすると、ハンガーの奥に別の区画があることが分かったので、回転状態のビームソードで後方を防御しつつ、前進しながら左腕のバルカン砲を撃って壁に穴を空け、ロケットパンチを発射して穴を広げ、左肩を前面に出した姿勢で突撃して、奥の区画に入った。


 その区画は機械で埋め尽くされていた。

 溶かした材料を使って部品が鋳造され、ベルトコンベアに乗せられている各部品をアームが組み立て溶接していくという流れ作業によって、機動兵器を製造しているのだった。

 機動兵器が造られていく過程を初めて見たので、少しの間視線を注いでしまった。


 「侵入者発見、侵入者発見」

 すぐに警告が発せられ、天井から光線を撃つアームが出てきた。

 僕はハッチを閉めると、場内をスキャンしてルシファーを入れられる広い区画を選び、ビームソードで障害物となるものを破壊しながら別の区画へ突入した。


 そこも機動兵器の組み立て場と同じく機械で埋め尽くされていたが、ベルトコンベアに乗っているものを見ると、基地で摂取していた栄養食で、別のコンベアには栄養ドリンクが乗っていて、警告が鳴る前に摂取して空腹を解消しようと、機体から降りてヘルメットを取り、手で掴めるだけ掴んで口に運んで飲み込んでいった。

 地下施設で食べたものに比べて口の中には何も感じなかったが、一番慣れているものだけに問題無く飲み込めた。

 奥のベルトコンベアには原材料らしきものが運ばれていて、見てみると乗っているのは大小様々な人間だった。


 動かないので死んでいると分かった。

 僕達クローン兵は人間を加工したものを摂取していたわけだ。なんとも言えない気分になったが、地下施設で食べていたものも何を原材料にしているのか分からなかったので、気にせず摂取し続けた。

 警告が聞こえると機体に戻り、場内をスキャンし、ここよりも広い場所を探した。少しでも広い場所に出れば、身を隠せる場所があると思ったからだ。


 スキャンの結果、三区画ほど進めば、開けた場所に出られることが分かったので、壁を壊して進んでいくと、結果通りの場所に出た。

 

 そこは縦横奥行など、全てが広い場所で、さっきまでの区画と大幅に異なる場所だった為に、ほんとに基地の中なのかと、後ろを向いて確認すると白い壁があったので、壁の内側に入ったのだと分かった。

 機体周辺は緑色のもので覆われ、その数メートル先には頭に角が生え体の色が白黒の四肢の動物が緑色のものを食べていた。外獣かと思い、トリガーに指をかけたが、襲ってくる様子は無かったので指を外した。

 緑色の地面から数十メートル下った先には、様々な形をした建築物で埋め尽くされていて、長さの基準は分からないが、地面に敷かれたレーンによって区切られ、レーン上を平らな乗り物がホバーリングで進み、その周りを無数の人間が歩いていて、視線を上げると窓越しに外に居た時と変わらない青い空が見えた。


 これまで聞いてきた警告声が聞こえてこなかったので、少しの間なら安全だろうと思い、ハッチを開け、シートから離れマスクを取って深呼吸した。マスクを外して呼吸するのは地下施設を出て以来だった。

 ここの空気は、地下施設とは比べ物にならないほど吸っても問題無く、気づけば胸いっぱいに吸い込んでいた。


 十分な呼吸を終えると、しゃがんで地面から生えている緑色のものに触れてみた。やわらかくざらざらしていて、外や地下施設では見たことがないものだったので、いったい何かと考え、動物が口に入れていたので食物と判断して、引っ張ってみると簡単に抜け、その下には茶色に地面が見えた。

 外や地下施設とは異なる場所なのだと思いながら、緑色のものを口に入れてみると、あまりの味に吐き出してしまった。角の生えた動物にとっては食物でも、僕には適していないらしい。


 体を起こして周辺を見回すと、十数メートル先に建築物が見えた。それほど距離が離れていないので、ルシファーをその場に残して近付いていった。

 その建築物は、先に見える場所にある建築物とは異なり、とても小さく高さはルシファー二台分くらいで、材質も鉄やコンクリートではなかった。

 入口と思われる箇所を手で押すと、内側に動いたので中へ入っていった。


 内部にある椅子やテーブルも、外装に使われている材質と同じで、ほんとに使えるのかと疑問に思った。

 そうした中で、一台のモニターが目に付いた。どうして僕でも分かる技術が使われている物があるのかは分からなかったが、何か情報が得られると思い、赤く点滅しているスイッチを押した。


 「やあ、僕はジョン・ファウスト。この世界の平和は僕が守る!」

 画面に映し出されたのは僕と同じ顔をした男で、何かの名称を叫ぶと飛んできたパーツが合わさって一機になり、背中にある飛行型の外獣に似た翼でもって、飛行するというこれまで見たことのない機動兵器に乗り、やはり見たことのない外獣と戦っているのだった。

 僕と同じ顔をしているということはクローン兵なのだろうが、どうしてこんなことをしているのかは理解できず、ハデスのように心理プログラムに破城をきたしているのかと思えた。

 画面に見入っていると、入り口が開いて数人の人間は入ってきた。

 

 「誰だ、お前は?!」

 先頭に立っている白い髪の人間が大声で聞いてきた。

 「ジョン・ファウストだ!」

 白い髪の人間の後ろに居た小さい人間が、僕を指さしながら画面に映っている同類の名前を言った。

 「あんた、ほんとにジョン・ファウストなのか?」

 小さい人間の後ろに居て、肩を掴んでいる黒髪の人間が聞いてきた。

 「違う。僕は、あれの同類だ」

 モニターを指さしながら返答した。


 「同類ってどういう意味だ?」

 白髪の人間が聞いてきた。

 「僕はクローン兵で、あいつも同じクローン兵だ」

 知っていることをそのまま話した。

 「ジョン・ファウストじゃないの?」

 「違う」

 小さい人間の再度の言葉に即答した。

 

 「表に置いてあるなんだか分からない機械はあんたのものか?」

 「そうだ」

 「どこから持ってきたんだ?」

 「外からだ」

 「壁の向こう側ということか?」

 「そうだ」

 「うわああぁぁ~!」

 僕の返答を聞いた大きい人間二人は、大声を上げて小さい人間を引っ張りながら後ろへ下がっていった。いったい何が起こったのか分からず、その場で立っていることしかできなかった。

 

 「いいか、そこに居ろ。逃げようなんて思うな」

 「分かった。その椅子には座れるのか?」

 「勝手にしろ! もうこの家は終わりだからな」

 人間達が出て行った後、椅子に座ってモニターの映像を見ることにした。機動兵器が腕を飛ばすのは分かったが、目や胸から光線を発射したり、大きな剣を振ったりといった動作を行う度に同類が大きな声を出すので、どんな意味はあるのか疑問だった。

 

 「そこのお前!」

 どのくらい時間が経ったのか、僕が着ているものとはデザインの異なるヘルメットとスーツが一体化したスーツに身を包んだ数人の人間が入ってきて、声をかけてきた。


 「僕のことか?」

 「そうだ。我々と一緒に来てもらおうか」

 「どこへ行くんだ?」

 「中央タワーだ。管理者がお前に会いたいそうだ」

 「わかった。僕の機体はどうする?」

 「我々のヘリで運ぶ。一緒に来てもらおう」

 「分かった」

 男達の後に付いて外に出ると、一台の乗り物が止まっていて、後ろに付いている四角い箱に入るように言われ、その通りにして箱の扉が閉められる中、停止状態にあるルシファーが一瞬、視界をかすめた。

 

 箱全体が小さく揺れたので、乗り物が動き出したのだと分かった。箱の中は照明器具はあったものの、窓もモニターも無いので、外の様子がさっぱり分からず、地下施設へ運ばれた時もこんな感じだったのかと思った。

 どのくらい経ったのか分からないが、停止して扉が開けられて降りてみると、施設内だった。中央タワーと呼ばれる場所に着いたらしい。

 周辺には乗る前に見た人間と同じスーツを着ている人間が多数居て、正面に見える自動ドアに入るように言われ、中に入るとそこに居る人間からスーツを脱ぐように言われたので、その通りにした。

 服を受け取った人間が離れると、周りの人間が持っているホースから放出される液体を一斉にかけてきた。生成されてすぐに浴びた洗浄液とは異なり、全身に小さな痛みが走った。


 液体の放出が終わると、クローン兵の不具合を検知する時のように全身をスキャンされ、問題が無かったのか、熱風による乾燥処置を受けた。

 それが終わると、スーツを渡した人間が上下に分かれた服と靴を持ってきて、着用すると、銃を持ち上下が青い服を着た二人の人間がやってきて、後に付いていくように言われ、二人に挟まれながら通路を進み、エレベーターに乗った。

 

 地下施設から出る時に比べれば短かったが、止まるまで間があったので、かなりの高さまで登っているのだと思った。

 エレベーターが止まり、二人と一緒に降りた場所は、正面に自動ドアがあるだけで、二人からそのまま進んで入るように言われたので、ドアの前に立って開いた扉の中へ入った。

 内部は周囲を覆う窓から周辺の風景が見回せるようになっていて、正面には机と椅子が有り、椅子には長い髪の人間が座っていた。

 

 「ようこそ、理想郷」

 「理想郷?」

 「この場所の正式名称さ」

 「お前は誰だ?」

 「私はベアトリーチェ、この理想郷の管理者だ」 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る