第8話 ルシファー。

 僕は、体勢を立て直しながら使える武器で攻撃した。相手がガンテツでないとしても戦って倒すことに変わりはないからだ。


 ルシファーは作動音を鳴らしながら地面から一メートル程浮くなり、予想以上のスピードで攻撃を回避しながら迫ってきて、光剣を持つ右腕を大きく振り上げた。

 攻撃を回避するべく右側に機体を走らせると、光刃の直撃を受けたリボルバズーカは砲身が根元から斬られ、かすめた機体上部は白い煙を上げたながら溶けていって、白いコックピット上部が変色していくのが見えてくると同時に、熱も伝わってきた。


 使えなくなったリボルバズーカを切り離すよりも早く、その場で回転したルシファーの左パンチを本体に受けて、再び壁に背部をぶつけ、その反動の大きさによって機体は前倒しになって地面と激突した。

 目の前に立ったルシファーは、逆向きにした刃を突き立ててきた。

 刃が届くよりも先に左側転して攻撃を回避し、立ち上がって背中を向けて腰部の炸裂弾を撒こうとしたがハッチが開かず、パックごと切り離し、正面を向いて火炎放射器から出した炎で爆発させた。

 相手の動きが鈍ったところで、バックしながらガトリングとミサイルの同時攻撃を行った。

 その攻撃に対してルシファーは左腕を上げ、円形になっている前腕の側面から出した四門の銃口から発射した弾でミサイルを撃破し、機体に飛んできた弾は、ハーフミサイルランチャーを破棄しながらシールドで防御した。


 射撃を止めたルシファーは、右腕を上げて光剣を上向きすると、光刃は根元の光量が増すのに合わせて伸びて、天井の照明器具にも届きそうな長さになった。

 そうして振り下ろされてくる光刃は、切先に居る人間達を蒸発させながら迫ってきて、左側に機体を走らせて回避すると、壁と地面には大きな斬り跡が残り、所々で上がる煙の濃さが光刃の熱量の高さを示していた。

 その攻撃が終わると、刃の長さはそのままに柄の向きを水平にして、右腕を右方向に動かしてきた。縦斬りの次は横斬りということか。

 

 光刃が背後に迫るも、決して当てようとはせず、追い回すのを楽しんでいるかのような動きをするルシファーを中心に闘技場をほぼ一周させられた。

 そうした中、さっきの攻撃で出来た斬り跡が見えてきたところで、回転させたドリルアンカーを射出し、内部にめり込んだところでドリル部分を展開して固定させ、ワイヤーを引いて機体を地面から離すことで刃から逃れられた。 

 機体の両足底が壁に触れたところで蹴って、宙を舞いながらガトリングとバルカンを同時に撃ち、反動で戻ってきて足が壁に着くと、そこを足場代わりにローラーで滑りながら遠距離攻撃を行った。


 ルシファーは壁に向かって進み、ジャンプして壁を蹴って飛び上がると、機体ではなく壁にめり込ませているドリル部分に向かって光剣を振ってきた。

 ドリルを閉じ、ワイヤーを引いてアンカーを戻しながら、壁を垂直に走って降下し、地上との距離が近付いたところで壁を軽く蹴って着地したものの、足の全関節からは悲鳴のような軋み音が上がった。

 攻撃を外したルシファーはもう一度壁を蹴ると、地上に向かって急降下してきた。


 機体の位置はそのままにガトリング砲を撃つと、ルシファーは右手を高速回転させることで前面に展開した光の膜で攻撃を無効化しながら迫ってきて、バックしながら避けると、刃の触れた地面は大量の土を巻き上げながら抉れていった。

 機体を前進させながら高速回転させたドリルアンカーを突き出したのに対して、ルシファーはドリルのように高速回転させた左腕を突き出してきて、二つの回転物が二体の間で激突した。


 ドリルアンカーは、左腕によって激音を上げながら砕け散っていき、肩に到達する前に本体から切り離してガトリングを撃つも全く通じず、反撃とばかりに振り下ろされてくる光剣を見て、回避は不可能と判断し、その場でジャンプして飛び掛かった。

 光刃が両足を切り裂く中、シールドパイルドライバーを突き出し、杭を突出させるも、目のカバーの左側をかすめる程度だった。

 そうしている間に本体に押し当てられたルシファーの左前腕は、付け根からの噴射によってミサイルのように射出され、機体中央を貫いて、上半身と下半身を真っ二つに引き裂いた。

 

 上半身は宙を舞い、轟音を上げて地面に叩き付けられた。

 ルシファーが、止めを刺そうと光剣を振り上げた瞬間、僕は機体上部の装甲を殴って外側に曲げて脱出し、腕の付いていない左側に向かって全力で走って、機体に飛び付き、暴れ回られる中、ハッチの解除ボタンを探して押した。

 それよって開いたハッチからコックピット内に飛び込み、ポケットから拳銃を取り出すなり、シートから立とうとしたハデスを狙って発砲した。

 発射された全弾が、胸に命中したハデスは、シートに押し戻された。


 その一連の出来事の後、会場は静かになった。誰も声を出さなかったからである。


 「お前、なんで生きてるんだ?」

 ハデスが、流血している胸に手を乗せた状態で話しかけてきた。

 「左腕が飛び出す瞬間に溶けかけた蓋の取っ手を掴んで、体を持ち上げたんだ。もう少し気付くのが遅れていたら死んでいた」

 「そうか、そういうことか・・・・・ははははは」

 ハデスは、小さな声で笑った。


 「お前、クローン兵か?」

 「そうだ」

 僕はマスクを取って、返答した。

 「やっぱりな。どうりでガンテツ如きで俺と戦えたわけだ。こんなことなら痛ぶらないでさっさと殺しておけば良かったぜ」

 言いながらマスクを外した。


 「同類だな」

 マスクの下から出てきたのは、僕と同じ顔だった。

 「ああ、そうだ。俺は376万2016体目だ。お前は?」

 「1000万体目だ」

 「そんな数まで生成されていたのか、基本性能も違うのかもな」

 「お前、なんでこんなことをしているんだ? クローン兵だろ」

 「お前と同じように戦場で拾われて戦っている内に自我に目覚めたのさ」

 「自我?」

 「自分で考えて行動する精神作用のことだ。お前にはそういう兆候はないのか?」

 「ないな。敵を倒すことは全ておいて最優先するという心理プログラムは、今も機能している」

 「懐かしいな。俺は、なんらかの作用でその心理プログラムが破城しちまってな、この地下世界を支配してやろうと思い始めて、上の連中をぶっ殺しまくって支配者になったんだよ。それからは好きなようにやってきたが、まさか同じクローンに終わりにさせられるとは思わなかったぜ」

 ハデスは、ウォン達のように口の端を歪めていた。


 「お前、これからどうするんだ?」

 「地上へ戻る」

 「なんの為にだ?」

 「外獣を倒す。だから許可証をくれ」

 「お前はほんとに立派なクローンだよ。許可証なんてもん、最初から無え。出ていきたければ、ハンガーの奥にあるエレベーターを使えばいつでも出られる。お前は騙されていたんだ」

 「そうか」

 ハデスが言い終える前に、両方の入り口から無数のガンテツが現れ、ルシファーの前で停止し、真ん中に居るガンテツのハッチが開くと、コックピットに居たのはユーロだった。


 「さすがはパーツマン。こんなやり方でルシファーを倒すとは恐れ入ったぜ。ハデス様、あんたは終わりだ。これからは自由にやらせてもらうぜ」

 「始まったか」

 「いったい何が始まったんだ?」

 「この地下施設のリーダー争いさ。リーダーになれば、なんでも思いのままだからな。上を見てみろよ」

 言われた通りに視線を上げると、場内の人間が殺し合いをしていた。

 

 「パーツマン、このまま出て行くっていうんなら、見逃してやってもいいが、もし邪魔するなら殺すぞ。そうそうお前のチームメイト達は片付けておいたぜ。生きていられると面倒なんでね」

 「分かった」

 僕は、ルシファーから降りようとハッチの端に右足を乗せた。

 「待てよ。お前にこのルシファーをくれてやる」

 「何を言っているんだ? こいつはお前の機体だろ」

 「もうすぐ死ぬ俺にはもう必要ねえが、地上じゃ必要機動兵器がねえと生きていけねえだろ。まあ、同類からの餞別だ」

 「お前はどうするんだ?」

 「この施設を吹き飛ばす。ここは俺の王国だ。誰にも渡しはしねえ。渡すくらいなら全部ぶっ壊してやる」

 「おい、さっきからなにごちゃごちゃ言ってやがる。二人供ぶっ殺すぞ」

 「うるさい」

 気づけば、手にしている拳銃を発砲していて、ユーロを撃ち殺していた。

 

 「あいつお前の敵か?」

 「敵と認識した」

 「やるじゃないか、さてと俺も行くか」

 ハデスは、胸からスイッチらしきものを取り出すと、シートから立って、コックピットの端に立った。

 「操縦方法は?」

 「ハッチは左下のレバーで閉じる、後は自分でなんとかしろ。それと左腕、ちゃんと元に戻しておけよ」

 そう言ってスイッチを押した後、力尽きて地面に落ちると、場内は大きな爆音と振動に包まれた。


 僕は、シートに座り、機動兵器やガンテツとは違う座り心地を感じる中、ハデスの言う通りに左下のレバーを引くと、ハッチが自動で閉じられていった。

 完全に閉じると照明に灯りが付き、モニターは正面と左右だけでなく、天井や足元にまで及んでいて、画面に映っているガンテツの一機一機を鮮明に映すだけでなく、大きさや武装のデータまで表示していった。

 

 それから内部を見回し、これまで乗った機体との違いがないことを確認しながらスティックを握った。

 ボタン配置もそれほど変わらず、これまでの戦いで使用した武器の数からこれだと思えるボタンを押し、ハデスの言葉通り左腕を元に戻すとペダルに足を乗せ、向かってくるガンテツを光剣で切り裂き、左腕のバルカン砲で撃ち倒しながら近い方の出口へ向かっていった。

 中に居るガンテツ全機を破壊してハンガーに向かい、エレベーターのある場所に着き、見張りと思われる人間を左腕で殴り飛ばし、ルシファーを土台に乗せたところで降りて、一目で分かる赤いスイッチを押して上昇させた。

 そうした中、一人の人間が飛び乗ってきた。


 「あたしも連れて行って~!」

 乗ってきたのはペソだった。

 「あんた、地上へ行くんだろ。あたしも一緒に行ってくれよ」

 「分かった。僕が死ぬのを見るんじゃなかったのか?」

 「結局、あんた死ななかったじゃないか。それとここはヤバそうだから出ることにしたんだよ。そうだ。これ持ってきた」

 差し出したのは、僕がここに来るまで身に着けていたパイロットスーツだった。


 「地上へ戻るんだから、こいつを着た方がいいだろ」

 「そうだな」

 「こういう時はさ、ありがとうって言うんだよ」

 「そうなのか、ありがとう」 

 「どういたしまして」

 僕は、着ている服を脱いでスーツを着用した。久しぶりのスーツの感触は、なんともいえない気分にさせた。


 エレベーターは上昇を続け、しばらくすると視線の先に小さな明かりが見えてきてきた。出口が近付きつつあるのだろう。

 出口に着くと、僕とペソはルシファーに乗って前進した。早くここから離れようということになったのだ。

 しばらく進むと、後方で大きな音と振動を感じ、機体を停止させて、振り返ってみると、出口からは高い火柱が上がった。地下施設が完全に破壊されたのだろう。


 「ハッチを開けて」

 言われた通りにハッチを開けると、ペソは機体から降りて、砂漠に足を付けると空を見上げ、大きく深呼吸した。

 「これが土で、あれが空、ここが人間が本来住む世界なんだね」

 機体から降りてきた僕に、ペソが言ってきた。

 「そうだ」

 「とうとう来たんだ。やっと来られたんだ」

 言い終わるなりペソは仰向けに倒れた。


 「どうしたんだ?」

 「あんたが、地下の空気がヤバかったみたいに、あたし等にとって地上の空気はダメなんだよ」

 「ルシファーに戻るか? あそこなら呼吸もできるぞ」

 「このまま死なせて」

 「いいのか?」

 「本物の空を見ながら、本物の土に抱かれて死ねるんだから十分だよ」

 「そうか」

 「ねえ、パーツマン。あんたはどんな死に方がしたい?」

 「分からない」

 返答を終えた僕は、ルシファーに搭乗すると、ペソを残して前進を再開した。


 僕はどんな死に方をするんだろ?

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