第7話 ハデス。

 色の変わる空の下、僕は高台に立っていて、眼下で繰り広げられている機動兵器、外獣、ガンテツの戦いを見ていた。


 これらのもの達は、どんなに傷付こうとも壊れようとも戦い続け、僕はなんて無意味なことをしているんだと思った。相変わらず体を動かすことはできなかった。


 目を開けると、真っ暗なコックピットの中だった。外から機体を叩く音によって、眠りから覚めたらしい。


 マスクを被りレバーを下げて、ハッチを開けると、目の前には闘技場で僕を見ていたポンドという男が立っていて、その左側にウォン達が、知らない三人の人間に囲まれていた。


 「お前、パーツマンだな」

 ポンドが、話しかけてきた。

 「そうだ」

 「お前に話がある」

 「なんだ?」

 「俺のチームに入れ」

 「なぜだ?」

 「そりゃあ、お前がうちの乗り手を全部殺しちまったからよ。つまりスカウトってわけだ」

 「僕は、その三人のチームに入っているんだ」

 「知っているよ。だから、こっちに入るように言っているんじゃねえか。嫌ならこいつらがどうなるのか分かっているよな」

 「どうなるんだ?」

 分からないので聞いてみた。

 

 「こいつで殺すんだよ」

 右手に持っている機動兵器の武器に似たものを見ながらの返答だった。

 「それは人間サイズの武器か?」

 「ああ、そうだ。拳銃っていうんだ」

 「ということは、その拳銃を撃てば、この三人は死ぬんだな」

 初めて見る人間サイズの武器を前に視線を注いでしまった。それからすぐウォン達を囲っている人間も拳銃を持っていることが分かった。

 「そうなるな」

 「三人共、病気で死ぬって言っていたぞ。それではダメなのか?」

 「ダメにしない為にも、俺のチームに入れ。そうしたら、この三人には好きな死に方をさせてやるぜ」

 「できない」

 「おいおい、本気で言っているのか?」

 「この三人からは地上へ出る許可証をもらうことになっているからな」

 「許可証? ああ~そういうことか、だったら」

 ポンドは、拳銃を軽く左右に振り、囲っていた人間が三人から離れるなり撃った。ウォンとマルクは、その場に倒れ、胸からは血液が流れ出た。

 「ウォン! マルク!」

 ペソが、動かなくなった二人に駆け寄った。

 

 「死んだな」

 「そうだな」

 「許可証がもらえなくなった」

 「そこで話があるんだけどよ。俺のチームに入れば、許可証をくれてやるぜ」

 「ほんとか?」

 「ほんとだ」

 「なら、入ろう」

 「い、いいのかよ?」

 変な顔をして、聞き返してきた。

 「許可証をくれるのだろ。問題無い」

 「なんだよ。それなら早くそう言ってくれよ、パーツマンちゃんよ~。そうすれば、この二人を殺さずに済んだのによ~」

 ポンドは、マルクと同じように僕の肩を叩きながら言った。相変わらず理解できない行為だった。

 「そんじゃ俺達、これからチームメイトってことでよろしくな。何か欲しいものあるか?」

 「栄養食とコーヒーが欲しい。ウォンが上の階ならもっとマシなものがあると言っていた」

 「OK、すぐに持ってきてやるぜ。ペソ、二人は気の毒だったな」

 ポンドは、ペソの肩を叩くと、三人の人間を連れて、ハンガーから出ていった。

 それと入れ替わるように、数人の真っ黒な服を着た人間が入ってきて、ウォンとマルクの死体を運んでいった。あれが死体の処理係なのだと思った。


 「なんで、なんであの二人を助けてくれなかったのかったのさ」

 ペソが、僕を見ながら言った。目の感じが今までと違う。

 「どういうことだ?」

 「あんたが、初めからポンドのチームに入るって言えば、あの二人が死ぬこともなかったんだ。どうして言ってくれなかったんだよ。あの二人はあたしにとっては家族みたいなものだったのに~!」

 僕の服を掴んで、大声を出した。マルクやポンドの行為と同じく理解できない。

 「僕は、お前達のチームから変わることはできないと言っただけで、問題は無いだろ。あの二人が死んだのは別の問題だ」

 「やっぱりあんたはクローン兵だ。機械の部品と同じなんだ。この部品野郎!」

 ペソは、大声を出した後、ハンガーから出ていった。


 「パーツマンちゃん、お待たせ~」

 ポンドが、食料とコーヒーを持って戻ってきた。

 「栄養食ってのはわからないが、俺達の階でも上等な部類に入るもんなんだからしっかり味わってくれよ。それと明日から頼むぜ」

 「分かった」

 食料を受け取ると、ポンドはハンガーから出ていき、僕は機体に戻った。

 受け取った品はどちらも良好とは言い難かったが、ウォン達が食べていたものに比べて喉や胸の圧迫感はそれほど感じなかったので、全部摂取することができた。


 それから僕は、何体ものガンテツを倒し、その数だけパイロットを殺していった。

 今日は、ガンテツ二体を真横に繋ぎ、下半身は二脚式ではなく大型ローラーによる走行式で、パイロットの二人が操縦するツインドラゴンという名前の敵と戦っていた。

 僕が乗っているガンテツよりも長い両腕を振り回しながら接近してきたので、回避しながら右腕に装備しているガトリング砲を撃つと、両腕を本体の前で交差した防御態勢を取った。

 弾が腕の外側に装備されているシールドに弾かれる中、敵ガンテツは上部に付いている二門のガトリング砲で応戦してきて、バックしながら機体上部に設置してある小型キャノン砲から炸裂弾を発射した。

 

 弧を描いて飛んでいった炸裂弾は、上空で弾け、無数の細かい弾を地面に降り注ぎ、それに気付いた敵ガンテツがバックしながら左腕を上げて防御している隙に、ガトリングを撃って、左ローラーを破壊し、それによって発生した爆発でバランスを崩したところで、ローラーを全開にして接近した。

 敵ガンテツが、両手を開いて内部に装備されている火炎放射器から炎を放射してきたのに対して、ガトリングの外側に付いているシールドで左側の炎を防御しつつ、右側の炎は左腕に装備しているドリルの高速回転によって掻き消しながら突き進んで、右腕を破壊した。

 それからバックしながらガトリングを撃ち、右本体を穴だらけにすると、両腕が一端動きを止るも、すぐに左腕を振り回しながらガトリングを辺り一面に撃ち始めた時には、僕は背後に回っていて、ドリルを背面から突き入れ、残っているパイロットを殺したのだった。

 

 それから何試合かして機体が半壊し、戦闘継続が不可能になり、機体から降りて出入り口へ向かう中、ハデスの居る方に目を向けると、初めて目が合った気がした。

 出口には、ペソが立っていた。ポンドのチームに入ってからガチメタルが終わる度に顔を合わせている。

 「今日も死ななかったね」

 「今日も居るんだな」

 「言っただろ。あんたが死ぬのをこの目で見てやるって。ねえ、なんで死なないの?」

 「敵を倒しているからだ」

 「それならいつやられるのよ」

 「わからない」

 そう返答して、ペソの脇を通って闘技場を後にした。

 

 「お疲れ~パーツマンちゃん」

 ハンガーに戻ると、ポンドが待っていた。

 「今日もいい試合だったぜ。俺達もがっぽりさ~」

 石炭が入っている大きな袋を見せながら言った。

 「そうか、許可証はまだなのか?」

 「それなんだけどよ。ハデスがなにかと渋っていやがってな~。なかなか渡さないんだよ。ほら、今日もこれで機嫌直せよ」

 いつものように食料とコーヒーを差し出してきた。

 「わかった」

 二品を受け取り、新しく用意されたガンテツの中で摂取した。ポンドの居る場所には一度も行かず、ずっとハンガーに居た。ここの方が心理状態に影響が無かったからだ。


 「パーツマ~ン!」

 ポンドが、ガンテツの装甲を強く叩きながら呼び掛けてきた。

 「どうした?」

 ハッチを開けながら返事をした。

 「ハデスが、明日のガチメタルでお前と戦うって言ってきやがったんだ」

 「そうか」

 「そうか、じゃねえよ。あのハデスだぞ。ハデス」

 「知っている」

 「ああもうこいつは大事だ~。お前、ガンテツから降りろ。そいつはもう使わねえ」

 「どういうことだ? まだ、一度も使用していないぞ」

 「ばかやろう。そんな中古の安物なんかで闘わせられるか、全部高いもので仕上げねえといけねえんだよ。ああ~これまで稼いできた分が全部パ~だぜ」

 「何故そこまでする?」

 「ハデスは、弱い対戦相手を許さないんだ。中途半端なもので戦わせてみろ。お前を含めてチーム全員殺されちまう。お前、欲しいものがあるんなら言え、都合の付く限り全部揃えてやる」

 「わかった」

 僕は思いつく武装を口にしていった。


 それからハンガーには、天井のクレーンによって様々なパーツが運ばれてきて、集められた大量の作業員による組み立てが始められ、各部の調整など夜を徹して作業が行われた。


 完成したガンテツは、右腕にガトリング砲、右肩にシールドパイルドライバー、左腕に展開式ドリルアンカー、右背面部にハーフミサイルランチャー、左背面部にリボルバズーカ、両腰部に小型バルカン、腰後部に炸裂弾パック、両脚部には火炎放射器と重装備仕様だった。

 「ほんとに大量の武器を注文しやがって、全部使えんのかよ?」

 ポンドが、ガンテツを見ながら言った。

 「コントロールパネルを追加してあるから問題無い」

 「そうでごぜえますか、色はどうすんだ?」

 「白いままでいい」

 「白いままって、今まで赤く塗っていたじゃねえか」

 「今まで色については聞かれなかったからだ」

 「そうかい、こいつにはアテにならねえパーツは一つもねえから、おもいっきりやんな。けどよ、パーツマン、お前死ぬぜ」

 「何故だ? まだ戦ってもいないのに」

 「ハデスの乗るガンテツはルシファーって呼ばれているんだが、ここにあるもんとは別物だ。だから、お前は絶対に勝てない。間違いなく死ぬことになるぜ」

 「戦ってみなければわからない」

 思っていることを口にした。


 「お前さ、クローン兵だろ」

 「そうだ」

 言った方がいい気がしたので、返答した。

 「だろうな。ウォンみたいな最下層の奴等がこんなに強い乗り手を見つけられるわけはねえと思っていたぜ。なら、バーコードと製造番号もあるんだよな」

 「ああ」

 マスクを取って、後頭部を見せた。

 「ほんとかよ。俺はすげえものを雇っていたんだな~。お前ならひょっとしたら勝てるかもしれねえな。いや、やっぱ、無理か」

 「そうか」

 「クローンのお前に俺からの餞別をやるよ」

 そう言って、腰に下げている拳銃を差し出してきた。ウォン達を撃った武器だった。

 

 「ガンテツの戦いに人間用の武器は必要無いだろ」

 「ガンテツ用じゃねえ。自分用だ。もうダメだと思ったら、そいつで自分の頭でも胸でも撃て」

 「なんの為にだ?」

 「むざむざ殺されるよりはいいだろ。ここじゃあ、命は安いからいつ殺し殺されてもおかしくねえし、今までそうしてきた俺が言うのもなんだが、自分の命くらい自分で終わらせたいもんだろ」

 「そういうものなのか」

 理解できなかった。


 「やれるだけのことはやってみろよ。こういう場合は健闘を祈るとか言うんだっけかな」

 「分かった」

 「じゃあな」

 ポンドは、ハンガーから出て行った。

 僕は、拳銃を腰のポケットにしまうと、完成したばかりの白いガンテツに乗って寝ることにした。新しいというだけあって、変な臭いは一切しなかった。今夜はどんな夢を見るだろう?


 次の日、いつものように闘技場に出ると、ハデスの姿は無く、対戦相手の出入り口のシャッターは閉まったままだった。

 戦う前の位置で止まってハッチを開けると、ユーロがいつものように立っていたが、表情は違っていた。

 「今日は、ハデス様自らガチメタルを行う。全員、覚悟はいいか~!」

 ユーロの言葉は、今まで聞いたことの無いものだった。場内に居る者達の大声もいつもと違うように聞こえた。

 「それではお呼びしよう。ハデス様!」

 出入り口のシャッターが開くと、一機のガンテツが出てきた。


 姿を現したのは色が黒く、両手は人間と同じく五本タイプで、本体上部には人間の頭か顔のようなものが付いていて、それ以外の部分は見たことの無いパーツで構成されていた。これがポンドの言っていたルシファーか。

 立ち止まって向かい合わせになると、僕のガンテツより一回り大きいことが分かった。

 「それではガチメタルを始める前にハデス様からお言葉頂戴しよう」

 ユーロの言葉の後にコックピットハッチがガンテツとは違う方式で開き、中に乗っていたハデスが、シートから立った。

 「集まった同胞達よ。今日は私の戦いを存分に楽しんでくれ。そしてわたしと戦う栄誉に預かれたお前には最高の死を与えてやろう」

 これまでのパイロットと同じようなことを言うと、ハッチを閉じた。

 

 「ガチメタル、レディーゴー!」

 ユーロの声の後、ルシファーは右腰に下げている剣の柄のようなものを右手で握って構えると、先端から放出された光は、刃のような形を形成した。

 僕は、停止したままガンテツの全トリガーを引いて、装備している銃器を全弾発射した。

 場内が爆発で包まれるのも構わず攻撃を続行していると、爆煙の中からルシファーが飛び出してきて、手にしている光剣を真一文字に振り下ろしてきた。

 攻撃を止め、ペダルを強く踏んで、高速移動することで回避し、振り向いて反撃しようとした時には、ルシファーは剣を真横に振る体勢を取っていて、すぐにバックさせることでどうにか回避できたものの、加速が強過ぎてブレーキが間に合わず壁に激突してしまった。


 機体自体にはなんのダメージも無かった。もし、今まで乗っていたガンテツだったら、下半身の関節が全てダメになっていただろう。

 再度向き合ったルシファーは、頭部パーツにある二つの目しらきパーツから強い光を放ち、外獣やガンテツには無いものを感じた。

 これらのことによって、僕は理解した。目の前に居るのはガンテツじゃない、あれは別の物だ。

 

 

 

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