第6話 ガチメタル。

 「そこで止まっていろ」

 「わかった」

 ウォン達が用意したガンテツに乗って、ハンガーから出た僕は、闘技場と呼ばれている戦闘施設の入り口前で待機した。


 正面には、向かい合せになっている別の入り口が見え、これから戦う敵ガンテツの姿が、暗がりの中で見えた。


 敵に注目していると、闘技場の真ん中に一人の男が出てきた。ウォン達に比べ、様々な色が混じった服を着ていた。

 「あれは誰だ?」

 「この場を仕切っているユーロだ」

 「お前達~鋼鉄のぶつかり合いは見たいか~?! 潰し合いは見たいか

~?!」

 ユーロが左手に持っている拡声器らしきものに口を当てて声を発すると、闘技場内から多数の人間の声が返ってきた。

 「よ~し、これからガチメタルを開始する。それでは主催者にして、この地下施設の支配者であるハデス様より、開会のお言葉を頂戴しよう!」

 「ハデス! ハデス! ハデス! ハデス! ハデス!」

 ハデスという名前が出てくると、場内中から大声で名前が連呼された。ウォン達も何度か口にしている名称だったので覚えていたが、僕の位置からでは姿は見えなかった。

 「この場に集いし、同胞達よ。今宵も鋼鉄がぶつかり引き裂き破壊する様を存分に味わうがいい!」

 ハデスと呼ばれる人間が言い終えると、場内からはこれまで以上の大声が発せられた。


 「よ~し、それでは第一試合を始める。乗り手、達前に出ろ」

 「俺が止まれって言うまで歩け」

 「分かった」」

 二足歩行で前進して中に入ると、闘技場は円形で、天井部にある大きな照明器具によって場内は明るく、茶色の土が敷かれている地面と接している部分は鉄の壁であったが、それより上は七階に別けられ、階ごとに多数の人間が集まっていて、服装は様々であったが、表情に関してはどれも同じに見えた。

 そうして場内を見ている中、右頂上部の一か所だけへこんでいる箇所には大きな椅子が設置され、黒い服に身を包み、黒いマスクを被った男が座っていて、あれがハデスなのだと思った。


 「そこで止まれ」

 指示に合わせて停止すると、敵ガンテツも同じように停止し、十数メートルの距離で向かう形になった。明るい場所で見ると、全体の色は赤く両手には先端が鋭く左右で長さの違うアンカーらしきものが付いていた。

 二体が出揃うと、出入り口はシャッターが降りて、封鎖された。


 「ハッチを開けろ」

 「すぐに戦うんじゃないのか?」

 「いいから言う通りにしろ」

 「わかった」

 指示通りにハッチを開けると、敵ガンテツも同じようにハッチを開けてきた。乗っているパイロットは、僕と同じくマスクを付けていたが、マスクと服は機体と同じで赤かく、コックピット内はマスクで埋め尽くされていた。


 「全てにおいて無感情、パーツマン!」

 「立って、手を横に振るんだ」

 「・・・・・わかった。名前の前の言葉なんだ?」

 「お前用のキャッチコピーだよ。気にするな」

 シートから立って、手を横に振ると、上に居る人間達が大声を上げた。


 「乗り手のマスクを情け容赦無く剥ぎ取る狂獣、ディスマスクキャンサー!」

 「お前のマスクを、俺様の爪で剥ぎ取ってやるぜ~!」

 シートから立って両手を振り終えたパイロットが、僕を指さしながら言うと、大声が上がった。


 「ハッチを閉じていいぞ。合図が出たら戦闘開始だ」

 「分かった」

 ガチメタル、それはクローン兵の戦いが終わった後、戦場に残された残骸を集めガンテツとして再生させた機動兵器を戦い合わせる興行で、この地下施設において最高の娯楽なのだという。

 僕自身からすれば、人間同士で戦うことの意味が分からない上に、外獣と戦う為に生成された僕が、遺伝子情報が異なるとはいえ、人間相手に戦うのはとても変なことだと思った。


 「ようし、ガチメタル、レディーゴー!」

 ユーロが、両手を大振りに交差させた動作に乗せて大声を出し、それを合図と認識して、ペダルを踏みローラー走行で機体を前進させた。

 「両手の爪に気お付けろ。奴の爪は飛び出すからな」

 「飛び出す?」

 敵ガンテツが右爪を前に出すと、左腕に装備しているシールドを前面に出して攻撃受け止めるも、爪が閉じていくのに合わせてシールドが潰れ始めた。

 右腕を突き出して攻撃しようとしたが、その前に左爪で腕を掴まれてしまい、シールドと同じく潰される前に、本体を前面に出して、敵ガンテツの本体にぶつけた。


 かなりの激震がコックピット内に走ったものの、敵ガンテツは倒れ、その拍子に右腕を強く降って爪を外して再攻撃しようとした瞬間、右爪がアンカーの要領で飛出し、ウォンが言っていたことを理解する中、引っ張られる形で左側に倒され地面を削っていった。

 体勢を立て直すべく、機体を起こすと、左爪が飛んできて、本体の前面パーツを挟むと同時に先端が装甲を突き破って、コックピット内の僕が直視できるくらいに食い込んできた。

 「どうにかして引き離せないのか!」

 「無理だな。出力は敵ガンテツの方が若干上みたいだ」

 バック走行を試みたが、機体は全く動かなかった。

 「じゃ、どうするんだよ?! このままじゃやられちまうぞ!」

 「どうにかする」

 僕は、ペダルはそのままに両手を離して、コックピットハッチの留め具を外すと、左手で左レバー、右手でコックピットハッチ開閉レバーに手をかけ、同時操作した。


 それによって左腕は切り離され、コックピットハッチは開くなり接続部から千切れ、その反動によって、敵ガンテツは倒れ、ぶつけた背中で地面を削っていった。

 敵ガンテツが体勢を立て直すよりも早く距離を詰め、右腕を突き出しながら、右トリガーを引くと、右手に付いている武器から先端が鋭く尖った杭が突出して、本体の前面パーツの真ん中を突き刺した。パイルドライバーという名称らしい。

 トリガーから指を離すと同時に杭が戻り、先端には血が付いていた。パイロットは確実に死んだことだろう。


 「勝者、パーツマン!」

 知らない間に、闘技場に戻っていたユーロが、僕の仮名を言うと、場内から大声が上がった。

 「やったぞ! パーツマン! 俺の目に狂いはなかったな~!」

 ウォンまでもが大声を出した。敵を倒しただけなのに、何故だかわからない。


 「これからどうするんだ?」

 「そんな状態で戦えるわけないだろ。今日のお前の出番は終わりだ」

 「そうなのか」

 敵ガンテツが出てきたシャッターが開くと、一人の人間が出てきて、ユーロと話を始めた。


 「続けて第二試合を行う」

 「戦いを続行すると言っているぞ」

 「バカな、あんな状態でどう戦えっていうんだ? 話を付けてくる」

 開放された入口から姿を見せたウォンが、ユーロと話しを始めた。その間、反対側から出てきた人間は僕に視線を向けていた。

 

 「くっそ~! 試合続行を持ち掛けたのは、ディスマスクの雇い主でポンドって野郎で、どうしてもお前を潰したいらしい。俺よりも階層の上の奴だから、取り合ってもくれねえ」

 僕の側に来たウォンが、目を逸らしながら言った。

 「僕は構わないぞ」

 「お前、本気か?」

 「敵を倒せばいいんだろ」

 「まあ、そうだが」

 「話は済んだのか。残骸を片付け次第、次の対戦相手を呼び込むぞ」

 ユーロが言い終わって合図をすると、両方の入り口から両手に大きなバケットの付いたガンテツが出てきて、残骸が片付けれると、さっき倒したガンテツの入り口から新しい敵ガンテツが出てきた。


 次のガンテツは、全体の色が青く右腕はガトリング砲で、左腕にはパイルドライバーよりも大きく太い突起物が付いていた。

 「地獄の大車輪、ヘル・ローラー!」

 ユーロの声に合わせて、ハッチが開き、コックピットにはガンテツと同じ色のマスクとスーツを着たパイロットが座っていた。

 「お前をハチの巣かこま切れにしてやるぜ!」

 立ち上がるなり、前のパイロットのように僕を指さしながら大声を出した。

 「あの左腕に付いている突起型の武器はなんだ?」

 「あれはドリルっていって、元々はお前が使っているパイルドライバーと同じ作業用の機械だが、ここじゃあ武器として使われているのさ。パイルドライバーなんかあっという間に削られちまうから、力比べは絶対に避けろよ」

 「分かった」



 「ガチメタル、レディーゴー!」

 開始の合図と同時に敵ガンテツがガトリング砲を撃ってきた。機体を右走行させ攻撃を回避しながら距離を詰め、左脚部の火炎放射器を放射した。

 敵ガンテツが火炎による誘爆を避けるべく射撃を止め、右腕を下げると同時に左腕を突き出し、高速回転させたドリルで炎を掻き割りながら迫ってきた。

 機体を右側に移動して攻撃を回避しつつ、本体の左側面を狙ってパイルドライバーを突き出すも、敵ガンテツは思っていた以上の速度で、向きを変えながら左腕を振り払うように後ろへ動かし、飛び出した杭はドリルとぶつかって、激しい火花が上げながら押し返されてしまった。


 敵ガンテツは、すぐにガトリング砲を向けて撃ってきたが、直撃する寸前で左キックを本体に直撃させ、倒したところでトリガーを引いたが、ドリルの直撃によって、杭を含めて半分以上が削られていた為に機能はしたものの、装甲を僅かにヘコませることしかできなかった。

 敵ガンテツは起き上がるなり、ドリル突き出してきて、この距離だとバックだけでは回避不可能と判断し、左足を上げ、右足だけでバックしたことで、コックピットへの直撃は免れたものの、左火炎放射器は削られ、オイルが漏れ出した。

 「どうするんだ? このままじゃあ、やられちまうぞ」

 「あのドリルって、パイルドライバーと同じく油圧式なのか?」

 「そうだ。多分、肩辺りにオイルタンクがあるんだろ。なにしろ、背中にはデッカい弾倉パックを背負っているんだからかな」

 「なら、方法はある」

 僕は、さっきとほぼ同じやり方で、敵ガンテツに近づいて行った。


 敵ガンテツが、ドリルを突き出すよりも早く、左腕に向けて右脚部の火炎放射器を放射した。

 炎は、すぐに左腕全体を包んだ。ドリル攻撃を防いだ時に削られた左火炎放射器のオイルが、ドリルから肩にかけて付着していたのだ。

 オイルタンクのある左肩部が爆発して、敵ガンテツがバランスを崩したところで一気に近づき、右肩を激突させて地面に倒し、ローラーを回転させた状態の左足をガトリングの砲身に押し当て、双方が火花を上げている間にパイルドライバーを本体の左側面に向けて、トリガーを引いた。


 一回で貫通できるわけもなく、トリガーを連打して、装甲が内側に曲がったのを確認すると、パイロットを焼き殺すべく、その隙間に火炎放射器の砲身を近づけ放射した。

 それからすぐ内部爆発が起こって、コックピットハッチが真上に飛んで、煙を伴いながら地面に落ちた。

 コックピットは原型を留めないほど焼け焦げ、パイロットは一片も残っていなかった。

 

 「勝者、パーツマン!」

 ユーロの声の後、場内の人間が大声を上げた。そんな中、入り口に立っているポンドは、僕を見ていた。

 「ウォン、この機体はもう使えない。戦いを続行するのなら、別の機体を用意してくれ」

 「いいや、もういい。そこまで戦えば十分だ。向こうにはもう乗り手はいねえからな」

 「分かった。機体はここに残していいのか?」

 「ああ、構わねえよ。別の機体はポンドが用意することになっているからな。お前は先に戻っていろ」

 機体から降りて、ハデスに目を向けると、僕のことは見ていなかった。


 「はっはっはっは!」

 「わ~はっはっはっはっは!」

 「あははははは!」

 先に穴に戻ってじっとしていると、三人は両手に抱えきれないほどの食料を持って戻ってきて、大声を出しながら摂取し始めた。

 僕は、一袋もらって一口摂取したが、胸や腹に強烈な圧迫感が生じたので、止めてしまった。よくこんなものが食べられると思った。


 「いや~こんな満腹な思いができるなんて、こいつを拾って正解だったな~」

 「ああ~売りに出さなくて良かったぜ~」

 「パーツマンさまさまだね~。それにしてもあんた、ほんとに強いだね」

 「僕はただ、敵を倒しただけだ」

 「相変わらず、愛想のねえ野郎だ」

 「それがこいつの持ち味なんだからいいじゃねえか。それよりも腹も膨れたことだし、こいつといこうぜ」

 ウォンは、白い粉の入った袋を見せた。

 

 「お、いいねえ~」

 「なんだ、それは?」

 「天国へ行ける薬さ」

 「あんたもやるかい?」

 「せっかくの稼ぎ頭の脳ミソがダメになっちまう。お前はマスクを被っていろ」

 「分かった」

 「そんじゃ、お楽しみタイムと参りますか」

 ウォンが、粉を入れ物に開け、照明器具の上に乗せ、しばらくすると白い煙が出てきて穴の中に充満していくと、三人の表情がこれまで以上に歪み、地面に寝るなり手足を痙攣させ、わけのわからない言葉を出し続けた。

 なんの意味があるのか、さっぱり理解できない。


 「効き目が切れたか」

 煙が消えてしばらくして、体を起こしたウォンは、表情も言葉遣いも元に戻っていた。

 「こっちも切れちまった」

 マルクも正常に戻っていた。

 「もっと楽しいところへ繰り出すか? まだまだたんまりあるしよ」

 大きな袋を見せながら言った。

 「何が入っているんだ?」 

 「石炭だ」

 袋の中から、黒い塊を出した。

 「これをどうするんだ?」

 「こいつはな、ここでの燃料にして金の代わりになるんだよ。まあ、お前には縁のないものだけどな」

 「こいつは放っておいて、さっさと行こうぜ。うずうずして収まりがきかねえんだ」

 マルクは、股間を抑えながら言った。

 「パーツマン、ペソが目を覚ますまで頼むぜ」

 「分かった」」


 「二人は?」

 正常な状態に戻ったペソが聞いてきた。

 「出て行った」

 「そうか、女を漁りに行ったんだね。ねえ、あんた外から来たんだろ」

 「そうだ」

 「なら、空を見たことあるかい?」

 「ある」

 「どんな感じ?」

 「青かった。赤い時もあったな」

 見た通りのことを話した。

 「へぇ~やっぱり聞いていた通りだったんだ。あたしさ、ここから出てほんとの空を見てみたいんだよ」

 「許可証持っていないのか?」

 「持っていないよ」

 「そうか」

 僕は、四つん這いになって、前進を始めた。

 「どこへ行くんだい?」

 「ガンテツのある場所だ」


 穴から出て、狭くて暗い通路を通り、ガンテツが置いてある入口へ着いた。

 「何をしに来たんだ? 今日のガチメタルは終わっているぞ」

 入る前に見た時と同じ場所に居るカロンが聞いてきた。

 「ガンテツに乗りに来ただけだ」

 「もう病気になったのか」

 「身体に問題は無いぞ」

 「体のことじゃねえ。精神的なことだ。乗り手の中にはお前みたいに試合でもないのにガンテツに乗りたがる奴らがけっこう居るんだよ。今日お前が倒したキャンサーもその一人さ。まあ、あの中は自分だけの世界みたいなものだから、どっぷり浸かりたい気持ちもわかるがな」

 「お前も、そういうことがあるのか?」

 「ずっと、昔の話だ」

 僕は、カロンの側を通り過ぎるとハンガーへ行った。


 ハンガーに着くと、両手が無く色を塗っていない状態のガンテツが置かれていて、ウォンの言う通り新しい機体が用意されていたのだ。

 ハッチを開けて中に入り、シートに座って、マスクを外した。穴や闘技場に居た時には感じなかったなんともいえない心理状態になった。

 真っ暗なコックピットの中、目を瞑り、このまま寝ることにした。今日は夢を見るだろうか?

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