第5話 ガンテツ。

 「おい、起きろ」

 目を開けると、ウォン、マルク、ペソの三人の顔があった。僕は寝る状態から起きたようだ。・・・・・・夢は見なかったな。


 「ガンテツが置いてある所へ行くぞ」

 「わかった」

 「その前に、この服に着替えて、こいつを被れ」

 マルクが、スーツとヘルメットらしきものを差し出してきた。スーツは緑と黒が混じっていて、もう一つは白く僕のヘルメットとは違い、バイザーの面積が目の辺りにしかなかった。


 「それはいったいなんだ?」

 「ガンテツに乗る際に必要な服とマスクだよ」

 「僕が着ているスーツではいけないのか?」

 「いけないに決まってんだろ。お前がクローン兵だってバレたら、とんでもない目に合わされちまうよ。そうしたら許可証だってもらえなくなるんだぞ。いいのかよ?」

 「わかった」

 服とマスクを受け取り、ファスナーとジッパーを外して、スーツを脱ごうとしたが、中が狭い為にうまく脱げなかった。


 「お前、服の下に何にも着ていねえのか?」

 スーツを脱いだ僕を見たマルクが質問してきた。

 「このスーツ以外のものは支給されていない」

 「傷も痣ももねえぞ。人間ってのは本来こういう体をしているんだな」

 「僕の同類はみんなこうだ。お前達は違うのか?」

 「俺達、いやここに居る奴等はみんな傷や痣持ちさ。綺麗な体している奴等なんかいやしねえぜ。なあ、ウォンこいつ、ガチメタルなんかさせねえで、このまま売った方がいいんじゃねえの?」

 「そうかもしんねえが、検問で隠しちまった以上、もう後には引けねえよバレたら殺されちまう」

 「それもそうだな」

 「触っていいかい?」

 ペソが聞いてきた。

 「僕の体にか?」

 「そうだよ」

 「別に構わないぞ」

 問題無かったので、そう返答した。


 「なんだ、お前、変な気でも起こしたのか?」

 「ばか言ってんじゃねえよ! ただ、そのあんまり綺麗なんで、どんなもんかなって思っただけさ」

 「まあ、気持ちは分からないでもないけどな。男じゃなかったら、俺だってそうしていたぜ」

 ペソは、僕の体に触れていった。ペソの手はいい感触ではなかった。

 「おい、その辺でやめておけ。それ以上触って、こいつが病気にでもなったら、元も子ないぞ」

 「うん、そうだね」

 ペソは、手を引っ込めた。

 

 「着てもいいか?」

 「いいぞ」

 渡された服はスーツと違い、着心地は良くなかった。マスクを被ると、見た目よりも視界は悪くなかった。


 着替えが済むと、全員這いながら外に出た。カプセルから出た時に見た這う同類みたいだった。

 外の通路は、基地の通路よりもずっと低くて狭く、照明器具の設置感覚もかなり離れている上に消えかかっているのもあったので、部屋の中と同じように暗く視界もかなり悪かった。また、所々に三人が居たのと同じような穴があって、顔さえ見えない人間達が僕等を見ていた。


 「ここは地下なんだよな。超大型外獣は居ないのか?」

 「超大型外獣? どんな生き物だ」

 「地中を動く巨大な生き物だ」

 「ああ、多分”クエモン”のことを言っているんだろ」

 「クエモン?」

 「お前らがぶっ殺している生き物のことさ。あいつらだけはどうやっても食えないから、俺達は食えないもの、クエモンって呼んでいるんだ」

 「それならお前達は何を食べているんだ?」

 「ここで食えるもんていや、上の連中のクソで作ったクソみたいな食いもんだけさ。後は現地調達だな」

 「現地調達? ここで食物が手に入るのか?」

 「ああ、こういう風にな」

 ウォンは、凹凸だらけの壁に目を向け、壁を這っていた黒い生き物に対して左拳を突き出して潰すと、手に持って顔と同じ高さまで持ち上げ、僕に見せるようにぶら下げた。死んだと思われる黒い生き物からは白い液体のようなものが垂れていて、食物なのか疑わしかった。


 「こいつはなかなかの大きさじゃねえか」

 そう言いながら口の中に入れ、噛んでから飲み込んだ。

 「くぅ~刺激的な味だぜ~」

 「ウォン、なに、てめえ一人で食っていやがんだよ! 半分でも寄越しやがれ!」

 「そうよ! そうよ!」

 「ばかやろう! あんなちんなけもん、三人で別けてもしょうがねえだろ。欲しけりゃ、自分で探しな」

 ウォンの大声に二人は黙った。


 通路を進んでいる中、両脇には横になった人間で埋め尽くされていることに気付いた。僕を見る者も居たが、中には全然動かない者も居た。

 「横になっている人間はなんだ?」

 「こいつらは病気で死にかけている連中さ」

 「不備ということか、それならどうして処分しない。僕の同類はみんな処分されたぞ」

 「ここではな、完全に死んでからじゃねえと処分できねえんだよ。ハデスの決めたことさ」

 「お前達は病気じゃないのか?」

 「三人共病気持ちさ。ここじゃ病気持ってねえ奴なんかいやしねえよ。ま、お前くらいなもんさ」

 「三人共こうなるのか?」

 「ああ、そうさ。だから、こんなんになるまでに人生を大いに楽しむんだよ。俺達にだって人生を楽しむ権利くらいはあるだろうぜ」

 マルクが大振りな動作で言った。


 「着いたぞ」

 鉄か何かで仕切られ、機動兵器が通れそうな高さと幅のある入り口に到達した。

 「ここに僕の乗る機動兵器じゃなかったガンテツがあるのか?」

 「そうだ。お前さんが乗る為に仕込みに仕込んだんだぜ」

 「仕込み?」

 「いいから入れよ」

 マルクに軽く背中を押されながら中に入った。

 

 「よう、カロン」

 「ウォンご一行か、そいつはなんだ?」

 入ると、下半身がシートのような形をしていて、両脇にガンテツのローラーに似たパーツの付いた人間が、僕を見ながら言った。

 「こいつは俺達のガンテツの新しい乗り手だ。登録頼むぜ」

 「なんだか見かけねえ感じだな。どこから連れてきた?」

 「そいつは企業秘密だ」

 「まあ、いいだろ。前みたいにすぐに死なせないようにしろよ。ハデスからも弱い奴をガンテツに乗せるなって言われているんだからな」

 「それなら、こいつは保証付きだ」

 「だといいが、登録名は?」

 「パーツマンだ」

 「わかった」

 カロンと呼ばれる人間は、左腕を上げ、腕に付いているパネルらしきものを操作した。

 「登録完了だ。対戦相手が決まり次第アナウンスで知らせる」

 「頼むぜ。行くぞ」

 奥へ進んでいった。


 そこは通路とは大幅に異なり、広く明るい場所で、視線の先には基地とは違い、左右向かい合わせの状態で並んでいるガンテツの置かれているハンガーが五列形成されていて、天井部分には何本もの作業クレーンが動いていた。

 「こっちだ」

 真ん中のハンガーに入っていくと、一機ずつ両脇に仕切りのある状態で並んでいるガンテツは本体部分以外、全ての形状と色が異なっていて、一機として同じものは存在せず、その一機一機にパイロットか作業員と思われる人間が居て、歩いている僕等を見ていた。


 「これが俺達のガンテツだ」

 ウォンが指差したガンテツは、服と同じ色で塗られ、脚部に変更が無かったが、右腕の前腕部には大きな突起物、左腕の先端には表面に小さな突起物の付いた四角いパーツが付いていた。

 「どうでい、感想は?」

 「初めて見る形状だからなんとも言えない」

 「はいはい、そうでございますか」

 「乗ってみなよ」

 「そうだな」

 僕は、蓋を開けるべく、機体によじ登ろうと、左足に自分の右足をかけた。

 「何しているんだ?」

 「機体の蓋を開けて、中に入るんだ」

 「そうか、そうか。お前さんが乗っていた機動兵器じゃ、上から乗るんだったな。けどよ、ガンテツはそこから乗るんじゃねえんだよ」

 「なら、どこから乗るんだ?」

 口の両端を歪めているウォンに尋ねた。


 「まずは、このボタンを押すんだぜ」

 同じように口を歪めているマルクが、機体左脇の手が届く位置に付いている赤いボタンを押すと、本体の前面パーツが前倒しに開いていった。

 「どうでい、驚いただろ。って、聞いても無駄なんだっけか~」

 「驚きというのはわからないが、なんとも言えない感じだ。けど、この機能にどんな有用性があるんだ?」

 「その機能はハデスの指示で、ここにある全部のガンテツに仕込ませていて、その作業だけをやる連中まで居るくらいだ。用途に関しちゃ闘技場に行けばわかるさ。ほれ、乗ってみろ」

 「分かった」

 開いている前面装甲に両手をかけ、床を蹴って左足を乗せ、体を中に入れて、シートに座り、スティックに手をかけペダルに足を乗せた。出撃からどのくらい時間が経っているのかはわからないが、シートやスティックにペダルの感触に何故だかわからないが、体が一瞬震えた。

 「乗った感じはどうだ?」

 「問題ない」

 スティックやペダルを軽く動かした感じでは、問題はなかった。


 「それじゃあ、シートの真ん中にあるレバーを上げろ。そうすればハッチが閉じる」

 「ハッチ?」

 「今、倒れている装甲パーツのことだ」

 「わかった」

 言われるまま、レバーを上げると、ハッチが自動で上がり閉じていった。


 「メインスイッチを入れて、明るくなったら左右のレバーを下げて留め具を閉めな」

 耳元で、ウォンの声が聞こえてきた。

 「どうして声が聞こえるんだ?」

 「おめえのマスクには通信機が仕込んであるんだよ。戦いの際には俺の指示に合わせてくれ。メインスイッチはハッチ開閉レバーのすぐ下だ」

 「わかった」

 レバーの下に視線を向けると、真っ暗な中でもすぐに分かるくらいに赤く点滅しているボタンを見つけた。この時、外獣の情報を表示していたパネルが無いことに気づいた。


 ボタンを押すと照明に明かりが付き、左右のレバーを下げて、ハッチと本体を固定した。それから前を見ると、モニターは正面と左右が一体化しているだけなく、色付きでノイズが一切見られないなど、これまで乗っていた機体よりも良好な映像情報が得られると思った。

 また、外と遮断され、一人になったことで、なんとも言えない感覚が全身に流れていった。

 「どうだ?」

 「問題無い」

 「そうか、基本操作はお前が知っている通りだが、聞いておきたいことはあるか?」

 「兵装の説明をしてくれ」

 一番聞かなければならない点を質問した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る