第4話 パーツマン。

 暗かった。


 何も見えないほどの暗かさだったので、自分が目を開けているのか分からず、目を閉じている間に見る映像なのかと思ったが、体の感覚がしっかりしているので、そうではないと分かった。


 僕は寝ている状態にあって、床と思える場所は基地で食料を摂取する部屋と同じくらいに固かったが、平ではなく凹凸だらけであることが背中を通して伝わってきた。


 体を起こそうとして、頭に衝撃が走った。頭を抑えながら右手を伸ばしてみると、すぐに固いものに触れた。天井がかなり低い場所のようだ。


 「あいつ、目を覚ましたみたいだよ」

 人間の声が聞こえたので、声のする方を見ると、小さな明かりがあって、その周囲に三つの人影があり、六つの目が、僕を見ていた。


 「ほんとだ。こっちを見ているぜ」

 「どれどれ」

 真ん中の人影が、照明器具を持って近付いて来ると、残りの二人も後に付いてきた。近くに来たことで、三人共僕と違う顔をしていることが分かった。同類ではないらしい。


 「おめえ、体は大丈夫か?」

 真ん中の頭に毛髪が無く顎に毛を生やした人間が質問してきた。

 「身体の損傷のことか?」

 「まあ、そうだ」

 「問題無い」

 体に痛みは無いので、そう返答した。

 

 「そいつは良かった」

 「けどよ、こいつほんとにクローン兵なのか?」

 右側の顔が長く毛髪が顔よりも多い人間が言った。


 「そうだよ。よその流れもんじゃないの?」

 左側の顔の左半分がやたら肥大した人間が言った。


 「いいや、間違いねえ。おめえ、ヘルメットを外して後頭部見せてくれねえか? ちょっとでいい」

 「わかった」

 僕の後頭部を見ることにどんな意味があるのか分からなかったが、拒否する理由も無かったので、ファスナーを開けてヘルメットを外した。


 「ゔっ」

 ヘルメットを外した瞬間、喉と鼻にこれまで感じてきたことのない猛烈な圧迫感が生じ、呼吸が困難になり意識を失いそうになった。


 「こいつ、急にどうしたの? まさか死ぬんじゃないよね」

 「なあに、死にはしねえよ。ここの空気に慣れていないだけさ。なにせ、地上に居る奴らにとっちゃここの空気は強烈だろうからな。慣れるのはちょいとかかるけど、我慢しろよ。どれ、クローン兵の証拠を見せてみな」

 頭を掴まれ、後頭部を上に向けられた。


 「見ろ。後頭部にケーブルを繋ぐ接続端子があるだろ。これがクローン兵の証拠さ。それと首元にはバーコードと製造番号がある筈だ。ほお~おめえ、1000万体目かよ。こんなにピッタリな数字初めて見るぜ。こいつは縁起がいいな」

 「ウォン、なんだってそんなにくわしいんだよ?」

 「こいつらの多少マシな死体を何回か見たことがあるんだが、後頭部と首元にこいつと同じものがあったんだよ」

 「なるほどね~」

 

 「・・・・・・」

 三人が会話をしている中、僕はあまりの息苦しさに声を出すことができなかった。


 「悪い悪い。あんまり珍しかったもんで、つい忘れちまった。もうヘルメットを被ってもいいぜ」

 その言葉を聞いて、すぐにヘルメットを被り、ゆっくり呼吸することで、圧迫感が収まっていき、意識がはっきりしていくのを感じていた。


 「落ち着いたか?」

 「ああ、ここはいったいどこだ?」

 僕が、質問した。


 「ここは地下だよ。お前が居た世界のずっと下にある人間の住処さ。なんでも遠い昔に核ミサイルとかいうとんでもない兵器から逃げる為に作った施設なんだとよ」

 「それで、僕はどうしてここに居る?」

 別の質問をした。


 「別に好きで連れてきたわけじゃねえ。拾った”ガンテツ”の中にお前さんが居たんだよ。五体満足のクローン兵なんて見るの初めてで貴重だからって、連れて行こうウォンが言うからここに運んできたのさ。けっこう苦労したんだぜ」

 顔の長い男が答えた。


 「そうか、それでガンテツってなんだ?」

 「お前が乗ってた乗り物のことだ」

 「機動兵器のことか」

 「クローン兵はそんな風に呼んでんのか? 俺達は鉄の塊に銃がくっ付いているからガンテツって言っているのさ。お前の言う機動兵器にはだいたい銃が付いているからな」

 「そうか」

 返事をして、体を前に動かした。


 「おいおい、何しているんだよ?」

 「地上に戻る」

 「助けてやったのに、なにもしないではい、さよならかよ。そりゃあないぜ!」

 顔の長い男が、スーツの襟を掴みながら大声を出した。何故こんな行為をするのか理解できない。


 「そいつに感情論は通じねえよ。ここへ出ていくには許可証が必要なんだ」

 「許可証?」

 「出ていく為に必要な品で、俺達はそいつを持って外に出ているんだ。しかもそいつはタダじゃあ、手に入らねえ」 

 「どうすればいい?」

 「ガンテツに乗って戦うのさ。そうすりゃあ、ここの支配者であるハデスから許可証がもらえるぜ」

 「わかった。やろう」

 問題無いので、返事をした。

 

 「ようし、決まった。そんじゃ自己紹介だ。俺はウォン」

 頭部に毛髪の無い人間が言った。


 「俺様はマルク」

 顔の長い人間が言った。


 「あたしはペソ」

 肥大した人間が言った。


 「おめえは、名前が無いんだよな」

 「クローンでいいじゃねえの」

 「ばかやろう。クローンなんてバレたら、他の連中に何されるかわからねえぞ」

 「じゃあさ。あたし達で、名前付けようよ」

 「そうだな。・・・・・・・”パーツマン”ってのはどうだ」

 「パーツマン、またけったいな名前だな」

 「こいつは、ガンテツの部品みたいなもんだからな。丁度いいだろ」

 「そういうことね。よろしくな。パーツマン」

 マルクが肩を軽く叩きながら言った。さっきと同じくなんの為の行為なのか、理解できない。


 「パーツマンってなんだ?」

 「お前さんの名前さ」

 「個別名称のことか、僕には必要無い」

 「名前があった方がいいだろうよ」

 「僕はクローン兵だ」

 「んだと、この野郎!」

 「待て待て、そういうことなら、お前はここでは人間のフリ、つまり人間だと思って行動しろ。それならいいだろ」

 「わかった。それで戦いはいつ始まるんだ?」

 「慌てるな。今日のは終わっちまったから、明日だ。さて、俺達のガンテツの乗り手が決まったところで、軽く前祝いといくか」

 

 「なにするんだよ? とっておきの食いもんでもあんのか?」

 「食いもんはねえが、こいつだ」

 ウォンは袋に入った真っ黒な粉末を見せた。


 「コーヒーじゃねえか、そんなもんどこで手に入れたんだ?」

 「あたしも知らなかった」

 「ガンテツの倉庫で偶然拾ったんだよ。多分、四階層辺りの乗り手が落としていったんだろうよ」

 「それでどうやって飲むんだよ。まさか、七番パイプの水じゃないだろうな。あそこはヘドロが酷すぎるぜ」

 「安心ろよ。三番パイプだ」

 ウォンは、液体の入った透明容器を見せながら言った。

 

 「そこならまだマシだ」

 「コーヒーってなんだ?」

 「飲み物だ。お前にも飲ませてやるから、ちょっと待っていろ」

 ウォンは、所々歪んでいる入れ物に液体を入れ、照明器具の上に置いて、泡立つと黒い粉末を入れた。


 「ほれ、飲みな」

 歪んだ小さな入れ物を差し出してきた。中を見ると粉末と同じく真っ黒な液体が入っていて、ヘルメットを外し、言われるまま口入れた。


 「げほ、げほっ!」

 喉に通した瞬間、ここで息をした時とは異なる圧迫感に襲われ、吐き出してしまった。


 「おいおい、勿体無いことしてんじゃねえよ」

 「はっはっはっは、それがコーヒーの味ってもんだ。苦いだろ。ここのはとびきだからな。上に行けばもっとうまいらしいけどな」

 返事もままならず、コーヒーを返した。もう飲む気にはならなかったからだ。


 「コーヒーも飲んだし寝るか」

 「寝る?」

 「お前、そんなことまで知らないのかよ。横になって目を瞑ることだ」

 「そうか、聞きたいんだが、寝ている間に変な映像を見るんだが、あれはなんだ?」

 「そいつは夢っていうんだ。寝ている間に意識が見せるまあ、幻だ」

 「あれは夢というのか」

 「おやすみ、パーツマン。いい夢見ろよ」

 

 三人が横になった後、僕も横になって目を瞑り、ウォンの言う寝ることにした。僕は、また夢を見るのだろうか?

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