第2話

 生きることを諦め、逃げずに棒立ちの読助を、巨大トカゲは無視した。

 たまたま空腹ではなかったか、あるいはまったく動かなかったために生き物と認識されなかったか、どちらにせよ読助は生き残った。

 のしのしと歩き去っていく巨大トカゲの背を見つめながら、読助は思った。

(やっぱり人は文明の中で生きるべきだ!)

 もともとインドア派で、サバイバル知識などあるはずもない読助はそそくさと町の方へと戻っていった。

 言葉が分からなくとも、一切の経済活動が行えなくとも、獣に食われる心配がないだけで幸福な環境だと、気分を新たにした読助。しかし、どうしても立ちはだかるのは言語の壁。

「あのー、すいません……」

「くぁwせdrftgyふじこlp;@?」

「すいませんでした……」

 こんな調子で、勇気を振り絞って町の人に話しかけては諦めるということを何度か繰り返したが、意味がないことに気が付き、やめた。

(アプローチの仕方がまずいんだ。ただ話しかけたって言葉が違うんだから意味がない。いうなればRPGで落ちてくるブロックを待つような……)

 考えているうちに、ぐぅと腹の虫が鳴いた。

 読助はその時、初めて時間が限られていることに気が付いた。

(食事を調達する手段がない! このままでは餓死してしまう!)

 文字通りの死活問題に、読助は焦った。焦って、町中の人に話しかけたが、言葉が通じないのだから意味がなく、ボディランゲージも通じなかった。そもそも、町の人とは服装から違いすぎて、信用されていないようだった。

 そうこうしていると、一つ目の太陽が沈んだ。もう一つの太陽があるためにまだ明るいが、やや暗くなったのを感じた。

 町で商売をしている人々が店を仕舞い始めた。

 明るいせいでいまいち分かりづらいが、一つ目の太陽が沈んだ時点で時間的にはもう夜らしかった。

 人々は建物の中に入り、外の賑わいがなくなった。

(しかし、いくら夜になったとはいえ……こんなに明るいうちから、もう誰も外に出ていないのはどういう訳だ?)

 文字通り、人っ子一人いないのだ。例外なくみんな家に引き籠ってしまった。

 明るいのに誰もいない道を、読助は一人で歩いた。

 その時だった。


 ふわり。


 一人の少女が空から降りてきた。年は十歳ぐらいだろうか。背は低く、体つきは華奢。なによりも目を引いたのはその色味だ。髪も、肌も、服も、全てが真っ白な中、瞳だけが赤い。そんな少女だった。

 こういうシチュエーションで、目の前の少女がどんな存在であるのかを判断するには、周りの人間がどういう行動をとったかを参考にするとよい。少女が来る前に、不自然なほど迅速に町の人々は家の中に隠れてしまった。

 つまり、この真っ白な少女は危険な存在ということになる。

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角田読助の異世界暮らし 小説家になろう @Yomisen_431000

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