角田読助の異世界暮らし

小説家になろう

第1話

 角田読助(かくたよむすけ)はいつの間にか異世界に来ていた。

 いつ、どこで、そのきっかけがあったのかはとんと見当がつかないが、ともかく、彼は知らない町にいた。

 酷く蒸し暑くて、不快な天気だった。町には木や藁でできたテントのような平屋しかなかった。文明レベルは極めて低いようだった。

 読助がそこを異世界だと認識したのは、実のところ、そこへ来てから十分以上も彷徨ってからのことだった。

 常識的に考えれば、いつの間にか知らない土地にいたからと言って、そこを元の世界とは違う世界だとはすぐに考えないからである。では、異世界と判断することが出来たのは何故か。

 空に二つの太陽が浮かんでいたからである。

 地球の太陽は一つだ。太陽を、或いは太陽並みに強い光を放つ物体をもう一つ用意することは容易ではない。故に異世界だと認識したのである。

 困ったことに、この世界では読助の話す言葉が通じず、向こうの言葉も分からない。貨幣が存在せず、物々交換で物のやり取りをしているので、大した貴重品も持っていなかった読助は、あらゆる意味で孤立していた。

 全く舗装されていない道を歩きながら、読助はすっかり困っていた。

(こんなの、どうにかなるわけないじゃないか)

 このままだと、何もできないまま野垂れ死にしてしまう。そんな思いが、彼を焦らせた。都合よく助けてくれる高貴な身分の美少女なんていないし、便利なお助けキャラもいない。何もできない。

 読助は町を出ることにした。人の生活圏では、意思の疎通ができない存在は一方的に損をすることになる。それならいっそ自然の中でサバイバルをした方がマシだという浅知恵だった。

 町を出たらすぐに森だった。

 一分も歩くと、鬱蒼と生い茂る草木のせいで町は見えなくなった。

 夏らしく薄着だった読助は、露出した腕や足が雑草と擦れて痒くなり、おまけに森の中は虫が多く、早くも森を出たくなっていた。

(やっぱ、都会育ちに森は辛いわ……)

 引き返そうとしたとき、ずしんと足音が聞こえ、地面が震えた。

 振り返ると、わずか数メートル先に人間を五人ぐらい一口で食べてしまいそうなほど巨大なトカゲがいた。

 あまりのことに、読助の脳は現実を受け入れることができずにいたが、トカゲがゆっくりと近づいてくるのを見ているうちに、もう助からないなという諦めの感情が湧いてきて、読助はその場から逃げるという選択肢を捨てた。

 さようなら人生。

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