第2話 狩人の鉄則 その二
大きな砂鮫が、砂原から背ビレを出して泳いでいた。
銀色の皮膚がギラギラと太陽を反射している。
かなり近い。この分だとニトたちが潜む砂丘の間を通りそうだ。
「罠は? 作動しないようにしてある?」
ニトは脚に装備した重装を点検しながら仲間に問うた。
「ああ、大丈夫だ。一匹だったら、使っても良かったんだけどな」
砂原を泳ぐ背ビレの数は二つ。つがいのようだ。
砂鮫は全長が15mを越す大型の生物だ。
頑丈な皮は
肉は不味いが、ヒレは干して
罠を使っても、対費用効果は悪くない。
二匹とも狩れば、本命の獲物よりも多くの利益をあげられるだろう。
「でも、今回は諦めよう。狩人の鉄則その二」
「『群れは狙うな。一匹を確実に狩れ』だな。分かってるよ」
先端に鈎爪の付いた銃を構え、少年の一人が答える。
「うん。……あ、見えてきたよ」
ニトが陽炎に霞む遠方を眺めながら告げると、少年たちが一斉に身を乗り出した。
「まじかよ! 思ったより早かったな」
「どこだよ、見えねえ……」
「お前、目ェ悪いなぁ」
「あっちだ。ほら、黒いやつ」
「ちょっ、狭いってば」
狭い出入り口に少年たちが詰めかけ、ニトは奥へと追いやられる。
狩人を
ニトはその様子に嘆息し、蜘蛛糸で固定された砂壁に背中を預け、装備を整え直す。
留め金を外して脚の重装を展開させ、露出した回転弾倉に弾薬を装填する。
「予想より大物だったな……。奮発して五番にしよう」
六つの穴が空いた回転弾倉に、真鍮製の筒を一つずつ込めていく。
小瓶ほどもある大型の装薬だ。ただし弾頭は付いておらず、その先端は平らだ。
これは弾丸を撃ちだすためのものではなく、ふくらはぎから踵に向けて伸びる太い鉄杭を火薬の力で伸張させるためのものだった。
回転式爆裂鉄杭脚甲。
開発者である鍛冶師は、ニトの下半身を守るこの重装をそう名づけていた。
膝を深く曲げることで弾倉が一発分回転し、撃鉄が起きる。
足の親指に括りつけられた紐が
握りこむと撃鉄が落ち、装薬が爆裂し、鉄杭を高速で撃ちだす。
膝を再び曲げることで、レールに沿って歯車が回り、鉄杭は射出口へと引き戻され、同時に次の弾薬が装填される。
そういった仕組みだ。
爆裂鉄杭は威力は高いが反動も大きい。
ニトの軽い体で使いこなすための苦肉の策だった。
そうこうしているうちに、地響きのような重い音が遠くから響いてきた。
ここまで近づいて来ると、少年たちの耳にも獲物の足音が判別できたようだ。
緊張と興奮。それを諌める鉄の意志が少年たちの目に宿る。
若くとも、みな一端の狩人だ。
「砂鮫が通り過ぎたら、罠を再起動。あとは手はず通りに」
ニトの呼びかけに、少年たちが銃の初弾を装填する。
さぁ、狩りの始まりだ。
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