ドラゴンハウル -龍骸都市の狩人たち-

犬魔人

第1話 狩人の鉄則 その一

 ──狩人の鉄則・その一──

 『獲物が来るまで、息を潜めて待て』


「暑っちい…」


 砂中の暗がりの中で、誰かがうめいた。


 大白蜘蛛の糸を編んで作ったシェルターを砂中に展開して、はや6時間。


 照りつける太陽は砂原に陽炎を立ち上らせ、底抜けに青い空には雲ひとつ浮かんでいない。


 あごをしたたって落ちた汗が、砂を黒く染め、すぐに干上がる。


「来ないな…」


 隣で汗をぬぐう少年がつぶやく。


「いや、近いよ。もうすぐ見えてくるはず」


 ニトは少年に水筒を渡しながら答えた。


「サンキュ。あいかわらす良い耳してんなぁ……」


「装備のおかげだよ」


 ニトが身に付ける旅装は、砂兎の大物から作った一品だ。

 砂色の柔らかそうな生地は全身を覆っていて、見るからに暑そうだが、意外と断熱効果は高い。

 ニトは砂漠の熱さに喘ぐ少年たちの中にあっても、疲れた様子がなかった。


「獣の皮をかぶり、心を獣と一つにすることで、その力を借り受けるだっけ? 確か、シャ、シャー……」


「シャーマニズム」


「そうそれ。あんなの呪術師のババアが言ってるまやかしだろ?」


 また違う少年がニトに言う。

 穴蔵の中には5人の少年たちがすし詰めになっていた。


「どうだろうね。でも実際、効果は出てると思うよ」


 砂兎の装備を身にまとったニトは、少年たちには聞こえていない音が聞こえていた。


 重い、地響きのような足音だ。

 まだまだ遠い。ここを通るまでまだ一時間はかかるだろう。


 熱気によって屈折した景色には、まだ影も形も見えていない。

 かなりの大物だ。少年たちには荷が重い相手かもしれない。


「ナグロに指示を仰ごう」


 彼らのリーダーである年長の剣士ナグロ。

 ニトは手鏡に光を反射させ、向こう側の砂丘に身を潜めた仲間に連絡をとった。


 短く、長く、長く、短く。長く、長く、短く、長く。


 反射させる時間とその組み合わせで意味が変わる。

 離れた相手と効率よく連絡を取り合える手段だった。


 少し待つと、返信が返って来た。


 短く、短く。


「『そのまま待機』だって。ナグロは狩る気だ」


「そうこなくっちゃ!」


 少年たちは嬉しそうに拳を握り、各々の武器を手入れし始めた。


 ニトは彼らの姿に頼もしさを覚える。

 彼らの猟団は全員が若い。一番年長のナグロでさえ二十歳になったばかりだ。


 その次が十五歳のニト。あとはみな十三歳前後の少年ばかりだ。


 だが、それでも彼らは腕っこきの猟団だった。


 狩人が守るべき十の鉄則、それがただの少年を一流の狩人へと昇華させる。


 その一はクリアした。

 次は鉄則その二だ。

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