赤い風船

moco

赤い風船

ホームで電車を待っていたら、何かが空を漂っている。

風船?誰かの手を離れて夜空に旅に出たんだね。いやいや・・・。


宝塚ファミリーランドは、夏休み実家に帰ると必ず行く場所だった。ベビーカーの頃から、ファミリーランドがなくなるまで。

娘が3歳の頃、おサルの着ぐるみにもらった赤い風船を、ほとんどすぐに飛ばしてしまった。従姉妹は、しっかりと黄色い風船をちゃんと家まで持って帰れた。

小さな手から風船が離れていったとき、彼女はちょっと泣きそうになりながら、フワフワと空に昇って行く風船をずっと見ていた。

彼女は泣きそうだったけど、泣かなかった。風船はユラユラと、もったいつけながら見えなくなった。


家に帰って、数日後、ちょっと離れた場所にあるいつもは行かない大きな公園に行った。

滑り台で遊んでた娘が

「あー!!」

と叫んで空を指差した。

赤い風船が、ユラユラと空を漂っている。

彼女は滑り台から離れて、ずっと空を見上げていた。ユラユラ漂う風船が見えなくなるまで。

ベンチの私のところに、手を後で組んで、ゆっくり歩いてきた彼女は、私の隣に座って

「風船さんよかったねぇ〜」

と言った。

『ファミリーランドの風船さんかなぁ?』

という私の言葉にはこたえず、風船が見えなくなった方を見て、もう一度

「風船さん、よかったねぇ〜」

と言った。

帰りの自転車のチャイルドシートでも、何度も

「風船さんよかったねぇ〜」

とつぶやいていた。私に言うのではなく、ただつぶやいていた。

途中で割れずにここまで飛んでこれたことが良かったねぇなのか、自由に飛び立てたことが良かったねぇなのか・・あの時の彼女の気持ちはどっちだったんだろう。


ホームから見えた、空の奥に消えて行った風船の色はわからなかったけど、きっと赤だ。


私の手を離れて飛び立つ時は、ちゃんと『よかったねぇ〜』と言わなくっちゃ。

無事を確認しながら『よかったねぇ〜』と思い続けなくちゃ。

泣かずに。


〈end〉

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赤い風船 moco @moco802310

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